おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

裏切り3

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かびの臭いが鼻の奥を刺激する。
長い間まともに換気がなされていない、不衛生な室内のよう。じめっと湿った空気が殊更不快感を煽る。

未だ眠気の冷めない重い思考。再度微睡みに落ちそうな所を、アリスは頭を降り追い払った。

目覚めて見ると、先ほどまでいたはずのそこは豪奢な室内とは打って変わり、石壁で覆われた暗い室内。
いや、前面に広がる鉄格子がここが牢屋だと告げている。

(どうしてこうなった)

アリスは意識を失う前の出来事を思い出す。
城へ招かれ王の都合が整うまで、客室で待機していた。すぐにあのとき飲んだ紅茶に睡眠薬が仕込まれていたのだと気づく。

(ここには私しかいないのか?
 ほかの二人は?)

あたりを見渡しても誰もいない。

(少し離れたところに気配がする。
 牢番か?)

なぜ自分が牢屋へ閉じこめられ、ほかの二人がいないのか。
まるで心当たりのない状況に、アリスはひとまず情報入手を優先した。

(まさか密航の手引きがばれて、捕まったんじゃないよな・・・。
 だとしたら恨むぞラックよ)





牢屋の中でもぞもぞと人が動く気配を感じた牢番は、イスから立ち上がり鉄格子の中をみた。
両手を後ろで縛られ、装備は全てはぎ取られた女性・アリスが起きあがっていた。
鎧の下は肌に張り付くような薄い服のみで、女っ気のない牢番を幾ばくかそそらせた。
しかし組織の末端とはいえ、プロである。
少しゆるんだ口端を締め直し、女性に声をかけた。

「目が覚めたかい。
 大人しくしていれば時期に解放してやる」

奥の方でもぞもぞと動くアリスの姿ははっきりとは見えない。

(ちっ、何だって監禁なんぞ上は命令してきたんだ。解放するとはいえ、後味悪いぜ)

決してお天道様の下を胸張って歩けるような仕事をしているわけではないが、彼らにもポリシーはあった。
弱者にチカラを振るわない。

(とはいっても、上の命令を破るほどの豪気も持ち合わせてない。だから俺は下っ端なんだな)

牢屋の中では相変わらずアリスがもぞもぞしている。

「ったく暴れるなっていってんだろう、俺の手を煩わせるんじゃねぇ・・・っ!」

気づけば喉元に突きつけられる銀色の先端。
縄で縛られていたはずの両手も解放されている。

「一体いつの間に!」
「私の手を煩わせるな。
 声を失いたくなければ、さっさと鍵を開けるんだ」

解放されたアリスは手早く牢番を気絶させ、お返しにとキツくフン縛った後、牢屋の中へ押し込んだ。

「見たところまともな職業の人間ではなさそうだし、国の衛兵ということはあるまい。
 さてと、急いでほかの二人を探さなければ」

この部屋には牢屋は一つしかない。
ほかに部屋でもあるのだろうか、と入り口を開けるとそこは貧困街であった。

先ほどまでいたはずの城は遠く向こうにある。

「無闇に探しても仕方ない、一度城へ戻るか。
 ちーちゃんよ、無事でいてくれよ!」

アリスは装備を身につけると、城を目指し走り出した。


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