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臨終録01:神田 リカ
神田 リカ:03
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帰る術は絶望的だ。
時間を移動するのが不可能な事ぐらい、如何に勉強ができないといえリカにも分かる。
十年や二十年ではない、きっと数百年は移動しているであろう。
であれば時間に任せ現代へ戻ることは出来ない。
「お母さん、お兄ちゃん…ミースケ、ユッキー」
よそに比べて人一倍仲がよい家族という訳ではない。隠し事もたくさんあったし、必要以上に喋ることもしなかった。
何なら早く家を出たいと事あるごとに思っていたリカであったが、突然何の予告もなく別れが訪れてみると、どうしようもない寂寥感が広がる。
一人暮らしとはわけが違う。
一生会うことが出来ないとなると、今まで感じることのなかった家族や友達への愛情があったことを知る。
当たり前にいつまでもあると思っていたから気づかなかっただけだ。
考えが溢れて止まらない、ああしておけばよかった、こうしておけばよかった、と思うことが次々と溢れてくる。
「無敵」なんて驕っていたのは周りの大人に甘やかされて整えられた温室の中であった事を知る。
眼下で繰り広げられている世界は武力が全て。
自分など赤子の手をひねるように抑えられ、想像したくもない扱いを受けるだろう。
「死んじゃいたいけど……死にたくないよ。」
この世界で生きていく事を考えると行く先々に困難が待ち構えていることは必至。
とても自分がそんな環境に適応できるとは思えない、逃げ出してしまいたい。
ただ、それでも死にたいとは思えない。
死ぬほど嫌だけれども、生きていたい。
「絶対に死んでやるもんかっ!」
世界中で戦争が起きているわけではないだろう。
安全な場所を探して、これからの事を考えよう。
リカは泣きたい気持ちを抑えて、前向きに生きていくことだけを考えることにした。
パキッ。と、枝を踏み折る音が背後から聞こえた。
リカが驚き振り返ると、数十メートル先に10人前後の兵士が取り囲むようにしてジリジリと近づいていた。
侵攻国の雑兵が身につけていた装備を纏っている。
彼らは舐るような目つきでリカに視線を固定していた。
「おいおい、こんな所に女の子がひとりでいるなんて危ないぜ。
ひひっ、おじさんたちが安全な所へ連れて行ってやるよ。」
「っ!! こ、こないで!!」
あからさまに怯えを見せるリカの姿に、兵士たちは嬉しそうに喜笑を浮かべる。
欲望を隠そうともしない嗜虐的な彼らの表情は野性的で、現代日本では見ることの無かった理性の箍が外れたものであった。
捕まってしまえば彼らの慰み者になるのは目に見えている。
(逃げなきゃ!)
そう思うのに体がまるで動こうとしない。
戦争の衝撃で腰が抜けたままで、足を動かしてもズリズリと地面を滑るばかり。
「嘘でしょ、こんなときに」
慌てふためく姿が彼らの嗜虐の琴線に触れたのか、欲望に塗れた笑みをより一層深めた。
慎重に音を立てずに近づいていた陣を解き、警戒なく軽い足取りでリカに近づいてきた。
「見たことのねぇ容姿に服だなぁ、諸島連合の奥地からでもやってきた部族か?」
「それにしちゃあ身なりが随分とキレイだな、帝国のお偉いさんのお嬢さんなんてことはないだろうな。」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、先鋒艦隊に貴族が乗り込むなんて話は聞いてないぜ。
それに黒髪の帝国人なんていないだろう。」
「違いねえ、ひひっ」
「おいお前ら、分かってんだろうな、まずは隊長である俺からだからな。」
「…へいへい、承知してますよ。だけどあんまり乱暴に扱わないで下さいね。」
「そうですよ、前の時だって…」
兵士たちはこれから遊戯でもするかのように、リカを弄ぶ順番を決めていた。
「あれ…なんで言葉がわかるの?」
恐怖のあまり直ぐには気づかなかったが、彼らの会話が何不自由なく聞き取れていた。
金髪碧眼の彼らはどう見ても日本人ではない。
節々に聞こえる単語も現代では聞き覚えのない単語ばかり。
これもまた怪奇現象のひとつなのだろうか。
また一つ不可思議な現象が増えたが、今はそれどころではない、考えるのは後だ。
何よりも優先すべき自体はこの場から逃げ出すこと。
リカは手の届く範囲になにか武器になるようなものがないか、手探りで探す。
その様子にいち早く気づいた隊長と呼ばれた、むさ苦しい髭に覆われた男が可笑しそうに近づいてくる。
「ひひひっ、たまんねえな姉ちゃん、そんな俺好みな事してくれるなよ、興奮するじゃねぇか!!」
男は腰にぶら下げた剣を鞘ごと近くの兵士に投げつけると、身軽になるべく下半身の装備を取り外す。
その行動はこれから男がすべきことを暗に示唆している。
だと言うのに体はまだ言うことを聞いてくれない。
いや、これから起こるべく悲劇の恐怖に、より体は動かなくなるばかり。
そうしている間にも男との距離は近づく。
考えがまとまる間もなく、リカの肩に男の手が掛かった。
その絶望から体の力はスッと抜けてしまい、簡単に男に押し倒された。
何も考えられず叫びのひとかけらも出てこない。
時間を移動するのが不可能な事ぐらい、如何に勉強ができないといえリカにも分かる。
十年や二十年ではない、きっと数百年は移動しているであろう。
であれば時間に任せ現代へ戻ることは出来ない。
「お母さん、お兄ちゃん…ミースケ、ユッキー」
よそに比べて人一倍仲がよい家族という訳ではない。隠し事もたくさんあったし、必要以上に喋ることもしなかった。
何なら早く家を出たいと事あるごとに思っていたリカであったが、突然何の予告もなく別れが訪れてみると、どうしようもない寂寥感が広がる。
一人暮らしとはわけが違う。
一生会うことが出来ないとなると、今まで感じることのなかった家族や友達への愛情があったことを知る。
当たり前にいつまでもあると思っていたから気づかなかっただけだ。
考えが溢れて止まらない、ああしておけばよかった、こうしておけばよかった、と思うことが次々と溢れてくる。
「無敵」なんて驕っていたのは周りの大人に甘やかされて整えられた温室の中であった事を知る。
眼下で繰り広げられている世界は武力が全て。
自分など赤子の手をひねるように抑えられ、想像したくもない扱いを受けるだろう。
「死んじゃいたいけど……死にたくないよ。」
この世界で生きていく事を考えると行く先々に困難が待ち構えていることは必至。
とても自分がそんな環境に適応できるとは思えない、逃げ出してしまいたい。
ただ、それでも死にたいとは思えない。
死ぬほど嫌だけれども、生きていたい。
「絶対に死んでやるもんかっ!」
世界中で戦争が起きているわけではないだろう。
安全な場所を探して、これからの事を考えよう。
リカは泣きたい気持ちを抑えて、前向きに生きていくことだけを考えることにした。
パキッ。と、枝を踏み折る音が背後から聞こえた。
リカが驚き振り返ると、数十メートル先に10人前後の兵士が取り囲むようにしてジリジリと近づいていた。
侵攻国の雑兵が身につけていた装備を纏っている。
彼らは舐るような目つきでリカに視線を固定していた。
「おいおい、こんな所に女の子がひとりでいるなんて危ないぜ。
ひひっ、おじさんたちが安全な所へ連れて行ってやるよ。」
「っ!! こ、こないで!!」
あからさまに怯えを見せるリカの姿に、兵士たちは嬉しそうに喜笑を浮かべる。
欲望を隠そうともしない嗜虐的な彼らの表情は野性的で、現代日本では見ることの無かった理性の箍が外れたものであった。
捕まってしまえば彼らの慰み者になるのは目に見えている。
(逃げなきゃ!)
そう思うのに体がまるで動こうとしない。
戦争の衝撃で腰が抜けたままで、足を動かしてもズリズリと地面を滑るばかり。
「嘘でしょ、こんなときに」
慌てふためく姿が彼らの嗜虐の琴線に触れたのか、欲望に塗れた笑みをより一層深めた。
慎重に音を立てずに近づいていた陣を解き、警戒なく軽い足取りでリカに近づいてきた。
「見たことのねぇ容姿に服だなぁ、諸島連合の奥地からでもやってきた部族か?」
「それにしちゃあ身なりが随分とキレイだな、帝国のお偉いさんのお嬢さんなんてことはないだろうな。」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、先鋒艦隊に貴族が乗り込むなんて話は聞いてないぜ。
それに黒髪の帝国人なんていないだろう。」
「違いねえ、ひひっ」
「おいお前ら、分かってんだろうな、まずは隊長である俺からだからな。」
「…へいへい、承知してますよ。だけどあんまり乱暴に扱わないで下さいね。」
「そうですよ、前の時だって…」
兵士たちはこれから遊戯でもするかのように、リカを弄ぶ順番を決めていた。
「あれ…なんで言葉がわかるの?」
恐怖のあまり直ぐには気づかなかったが、彼らの会話が何不自由なく聞き取れていた。
金髪碧眼の彼らはどう見ても日本人ではない。
節々に聞こえる単語も現代では聞き覚えのない単語ばかり。
これもまた怪奇現象のひとつなのだろうか。
また一つ不可思議な現象が増えたが、今はそれどころではない、考えるのは後だ。
何よりも優先すべき自体はこの場から逃げ出すこと。
リカは手の届く範囲になにか武器になるようなものがないか、手探りで探す。
その様子にいち早く気づいた隊長と呼ばれた、むさ苦しい髭に覆われた男が可笑しそうに近づいてくる。
「ひひひっ、たまんねえな姉ちゃん、そんな俺好みな事してくれるなよ、興奮するじゃねぇか!!」
男は腰にぶら下げた剣を鞘ごと近くの兵士に投げつけると、身軽になるべく下半身の装備を取り外す。
その行動はこれから男がすべきことを暗に示唆している。
だと言うのに体はまだ言うことを聞いてくれない。
いや、これから起こるべく悲劇の恐怖に、より体は動かなくなるばかり。
そうしている間にも男との距離は近づく。
考えがまとまる間もなく、リカの肩に男の手が掛かった。
その絶望から体の力はスッと抜けてしまい、簡単に男に押し倒された。
何も考えられず叫びのひとかけらも出てこない。
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