異世界臨終録

星野大輔

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臨終録01:神田 リカ

神田 リカ:02

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一体どれくらいの距離を歩いたのだろうか。
通学靴は山歩きにはとても向いてはなく歩きづらくあったが、時折聞こえる獣の声に背中を押されるよう、無我夢中で進んだ。
これが火事場の馬鹿力と言うのだろうか、少なく見積もっても3時間以上は歩いているはずであるのに、不思議と疲れは感じなかった。

体は疲れないが、徐々に心が疲弊していくのをリカは感じていた。
延々と続く変わらぬ風景は、まるで出口のない迷宮のようであり、同じ場所をぐるぐる回っているような錯覚を起こした。
先が見えない不安は付き纏い続けるが、斜面を下っている以上平地には近づいているのは確実。
まさか地獄へ繋がっているということはあるまい。
獣の声は相変わらず遠くから聞こえ、その度に不安は湧き出て心の縁を表面張力でギリギリ保っている状態だ。

ここは日本ではないとリサは考えている。
途中、一息つくため休憩した際にスマートフォンを取り出したが、電波が全く届かない。
それだけならまだしも、GPSがまるで掴めないのも一因している。
木々が茂っているとは言え、それなりに上空は抜けている。通信には申し分ないはずだ。
だがそれも数分悩んで考えるのを止めた。リカは機械に強くないのだから、考えるだけ無駄と思った。

更に走り続けること1時間近く。
潮の匂いと共に視界は急に開けた。
同時に地鳴りのような怒号がリサの体を突き抜ける。

リサがたどり着いたのは切り立った崖の上。
そこからは一面の海岸が望める絶好のオーシャンビューであった。
眼下で繰り広げられている血生臭い殺し合いさえなければ。

「なに、これ…」

砂浜には蟻のように人々がごった返し、多くの場所で血を吸い美しい砂の色が失われていた。
映画などで何度となく見てきた光景。

これは戦争だ。

出来物などではない、紛れもない真実の殺し合い。
遠く離れているというのに戦場の匂いがリカの元まで届く。

テレビで報道される映像はどこか遠くのフィクションであり、戦争などこの世にはないと思っていた。
カメラの中で再現されたものこそが、リカの知る戦争。
眼の前で繰り広げられている命の遣り取りの熱気にリカは腰を抜かした。
これだけ離れているというのに生きている心地がしない。

木に縋り付くようにして地面へへたり込む。
手に持った鞄もその拍子に放り出された。
折角、人がいる場所に出れたというのに、これではとても助けてもらえるとは思えない。
見つからないように、この場を離れるのが最善であろう。
幸いにしてリカのいる場所は海岸から見つけられるような距離ではない。
すぐさま危険が訪れれることはないだろう。

そうして落ち着いてみると、いろいろと見えてくるものがあった。
まずは争っている両陣営の装備である。
海を渡り侵攻してきているであろう者たちの雑兵であろう多くの者達は革製の胸当てらしきものを装備しているだけであるが、一部の者は豪奢な銀色の甲冑に身を包んでいる。
甲冑組の周りにはこれもまた立派な旗が掲げられていた。
見たこともない紋章であるが、リカは元々地理を得意としておらず、知っている国旗など数カ国程度。何の判別材料にもなりはしない。

片や侵略を受けている側は、まともな装備をしていない。
民族衣装なのであろうか、不思議な紋様で編まれた服を着ている。
しかし誰もが屈強な肉体を持っており、敵国の雑兵を簡単に蹴散らしていた。

だが海からの侵攻は止めどない。
一騎当千の民族衣装の戦士と、物量で押してくる侵攻国の攻防は熾烈を極める。

ひとつだけどちらにも共通する部分があった。
それは武器の種類。
誰もが、剣、槍、または弓を使い戦う。

現代においてそのような戦いなどあるだろうかとリカは思った。
戦車はおろか、銃の一丁すらも見当たらない。
リカが如何に海外情勢に疎いとは言っても、戦争では戦闘機、戦車、爆弾、銃などを主として行われることくらいは知っている。
接近戦を主とする戦争など数世紀前に廃れた。

であれば彼らは何なのか。
リカはもしかしてワープしただけではなく、タイムスリップしてしまったのか。
考えたくもない最悪の予想に、リカはぽろりと一言呟いた。

「あぁ、絶望しかないわ」

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