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11.王子の苦悩2
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やってしまった。
また、やってしまった。
前回は話をするだけで退散できたのだから今回もできるはずと自分を信じたのが間違いだった。
それどころか、どんどん歯止めが利かなくなっている。
このままでは、いつか取り返しのつかない行為にまで及んでしまうかもしれない。
エリックは自室の真ん中で絶望的なため息をついた。
リリア・グレイフィール、彼女は、令嬢としてはかなりの変わり者に分類できるだろう。
散歩に誘ったときの彼女の立ち上がる反応速度は令嬢のそれではなかった。歩きながら果物に齧りつくなど、伯爵令嬢の行動として全く予想だにしていなかったし、ジョシュアの件もそうだ。見ず知らずの子供のため、彼女は泥だらけになった。
どれをとっても令嬢らしくはない。
だが、むしろそこがいい。
洗濯に詳しく、動物が好きだという彼女。
溌溂とした笑顔、無邪気な受け答え、抱き締めたときの柔らかな感触。
知れば知るほど、エリックはリリア・グレイフィールという娘に強く惹かれていく。
考えれば考えるほど、彼女しかいないとさえ思えてくる。
彼女を妃に迎えたい。
だが彼女は何か秘密を抱えている。結婚を嫌がっているふしがある。それも、死を覚悟するほどに。
何が彼女にそこまでさせるのか、原因を知ることができれば力にもなれるかもしれないが、一因である自分に口を開くような女とも思えない。
「エリック、入るよ」
入ると声をかける割に絶対にノックはしない従兄弟が入ってくると、彼はいつもの場所に腰を下ろした。
「どうしたの、誰か殺したみたいな顔してる」
「生まれつきだ!」
「その顔を見ても逃げ出さないなんて、リリア嬢は相当肝の据わった女性だね。泣いて逃げた令嬢もいるのに」
「もういい、黙ってろ」
花嫁候補にあがっていた令嬢は、リリア・グレイフィールだけではない。
三人の令嬢がエリックのとっつきにくい性格と見た目の怖さに泣いて帰った。
だが、彼女は違う。確かにその点でも、自決まで試みる点においても、彼女の心の強さは令嬢たちのそれとは違う。
しなやかで、自然体。
その彼女の心をどうやって掴めばいいのか、エリックには皆目見当もつかなかった。
これまでの触れ合いも、強引ではなかったとは言い切れないが、その後の態度からしても彼女は自分を受け入れているように思える。
だが王子として彼女の前に出たとき、彼女の態度は一歩下がったものになる。媚びるでも、恐れるでもない。だが確実に存在する王子と伯爵令嬢の壁、それは“恩人さん”とリリア自身の距離感を知ってしまったエリックにとってはもどかしく感じられた。
いつまでも王子と“恩人さん”の二重生活は続けられない。彼女を騙し続けるなど、できはしない。
言おう。言わなければならない。
「で? そろそろ君の気持ちは伝えたの?」
唐突に口を開いたウィンストンをじろりと見遣る。
気持ち。
伝えていない。だが、伝わっているはず、ではないのか。
エリックの反応に呆れて椅子の背もたれにどっさりともたれかかったウィンストンは、それ以上何も言わずに首を振るばかりだった。
また、やってしまった。
前回は話をするだけで退散できたのだから今回もできるはずと自分を信じたのが間違いだった。
それどころか、どんどん歯止めが利かなくなっている。
このままでは、いつか取り返しのつかない行為にまで及んでしまうかもしれない。
エリックは自室の真ん中で絶望的なため息をついた。
リリア・グレイフィール、彼女は、令嬢としてはかなりの変わり者に分類できるだろう。
散歩に誘ったときの彼女の立ち上がる反応速度は令嬢のそれではなかった。歩きながら果物に齧りつくなど、伯爵令嬢の行動として全く予想だにしていなかったし、ジョシュアの件もそうだ。見ず知らずの子供のため、彼女は泥だらけになった。
どれをとっても令嬢らしくはない。
だが、むしろそこがいい。
洗濯に詳しく、動物が好きだという彼女。
溌溂とした笑顔、無邪気な受け答え、抱き締めたときの柔らかな感触。
知れば知るほど、エリックはリリア・グレイフィールという娘に強く惹かれていく。
考えれば考えるほど、彼女しかいないとさえ思えてくる。
彼女を妃に迎えたい。
だが彼女は何か秘密を抱えている。結婚を嫌がっているふしがある。それも、死を覚悟するほどに。
何が彼女にそこまでさせるのか、原因を知ることができれば力にもなれるかもしれないが、一因である自分に口を開くような女とも思えない。
「エリック、入るよ」
入ると声をかける割に絶対にノックはしない従兄弟が入ってくると、彼はいつもの場所に腰を下ろした。
「どうしたの、誰か殺したみたいな顔してる」
「生まれつきだ!」
「その顔を見ても逃げ出さないなんて、リリア嬢は相当肝の据わった女性だね。泣いて逃げた令嬢もいるのに」
「もういい、黙ってろ」
花嫁候補にあがっていた令嬢は、リリア・グレイフィールだけではない。
三人の令嬢がエリックのとっつきにくい性格と見た目の怖さに泣いて帰った。
だが、彼女は違う。確かにその点でも、自決まで試みる点においても、彼女の心の強さは令嬢たちのそれとは違う。
しなやかで、自然体。
その彼女の心をどうやって掴めばいいのか、エリックには皆目見当もつかなかった。
これまでの触れ合いも、強引ではなかったとは言い切れないが、その後の態度からしても彼女は自分を受け入れているように思える。
だが王子として彼女の前に出たとき、彼女の態度は一歩下がったものになる。媚びるでも、恐れるでもない。だが確実に存在する王子と伯爵令嬢の壁、それは“恩人さん”とリリア自身の距離感を知ってしまったエリックにとってはもどかしく感じられた。
いつまでも王子と“恩人さん”の二重生活は続けられない。彼女を騙し続けるなど、できはしない。
言おう。言わなければならない。
「で? そろそろ君の気持ちは伝えたの?」
唐突に口を開いたウィンストンをじろりと見遣る。
気持ち。
伝えていない。だが、伝わっているはず、ではないのか。
エリックの反応に呆れて椅子の背もたれにどっさりともたれかかったウィンストンは、それ以上何も言わずに首を振るばかりだった。
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