妹プロIFストーリー 柚希END

白石マサル

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第34話

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 無限にも感じる長い時間が流れた。
 お兄ちゃんを痛めつけていたジャージ男は動きを止め、スマホを見る。

「あ、先輩! リーダーの車が到着したみたいッス」 
「そうか。じゃあ行こうか、お嬢ちゃん達」
「嫌! 触らないで!」

 手を払おうとしても振りほどけない。
 自分の無力さにまた涙が出そうになった時、お兄ちゃんが間に割り込んできた。

「やめろ……!」
「こ、こいつ……まだ懲りねぇのかよ」
「妹に、手、出すな!」

 血だらけになりながら男の腕を掴む。
 そして男達を睨みつける。

「う……この! 離せよコラァ!」
「ぐぅ! は、離すもんか……」 

 男はお兄ちゃんの腕を振り解こうと暴れ出す。
 それでもお兄ちゃんは必死に食らいついた。

 すると、表路地に1台のミニバンが停まった。
 そして車の中からぞろぞろと数人の男達が降りてきた。

「なーに手間取ってんだよお前ら」
「リ、リーダー!」

 リーダーと呼ばれた男の腕には赤い派手なタトゥーが入っている。

「情けねぇな。アローズの名前に泥塗る気か?」
「す、すんません」
「まぁいいや。おい、女乗せろ」 
「やめて! 触らないで!」
「おいやめろ! やめろって!」

 必死に抵抗しても大人数に為す術もなく、強引に腕を引っ張られる。  
 もうダメだ――――


「お前達。そこで何してる」
 
 表路地の方から声が聞こえた。
 振り向くとそこには仁王立ちをした真弓さんが立っていた。
 その後ろで水瀬先輩と水樹先輩、そして新島先輩が息を切らしていた。

「複数人で1人囲って女|攫(さら)おうとして。お前らそれでも男か?」

 真弓さんはツカツカとこちらに真っすぐ歩いてくる。
 するとジャージの男が真弓さんの元まで近づき睨みつける。

「なんだよアンタ」
「私は真弓だ」
「知らねぇな」
「ほう。じゃあ覚えておけ」
「チッ! ウゼーな! ババァはすっこんでろよ!」
「…………なんだと?」

 真弓さんがみるみるうちに鬼の形相になっていく。
 もしかして……いや、間違いなく真弓さんは怖い人だ!
 一瞬にして空気が凍り付く。

「もういっぺん言ってみるか? クソガキ」
「う……」

 真弓さんがジャージ男の胸倉を掴みあげた。
 ウソ、ちょっと浮いてない?

「このアマぁ! 何してやがる!」
「もういい! やっちまえ!」

 真弓さんを取り囲んでいた男達が真弓さんに襲い掛かろうとしたその時

「ちょっと待て!」

 と、タトゥーの男が声を荒げた。
 
「何すかリーダー! やられっぱなしでいいんすか!?」
「テメェら黙ってろ!」

 一喝で場を収めると、タトゥーの男は真弓さんをまじまじと見た。
 すると、どんどん顔が青くなっていった。
 
「その赤いハイヒールに長い黒髪……アンタ、いやあなたはもしや、|赤足(ブラッディヒール)の真弓!?」

 ブ、ブラ……え?
 何それ。

「あ? だったら何だコラ」
「や、やっぱり!!」

 タトゥーの男は標的を自分に変えられ、ただ直立しているだけだった。
 緊張したような嬉しそうな変な顔をしている。

 すると真弓さんから解放されたジャージの男は喉元を擦りながら立ち上がり 

「はぁ、何なんすかリーダー。このババァと知り合――――ぐへぇ!」

 有無を言わされずタトゥーの男に殴り飛ばされた。

「バカヤロウてめぇは黙ってろ!」

 タトゥーの男はそう怒鳴りつけると真弓さんに振り返り
 
「すいません!これで勘弁してください!」

 と、土下座をして深々と頭を下げた。
 もう何が何だかわからない。

「…………」
「…………」
「……景山は元気か?」
「へ? あ、はい」
「そうか。ならよろしく言っといてくれ」
「はい! わかりました!」
「よし、行け」
「は、はい! お前ら行くぞ!」
 
 タトゥーの男の一声で男達は慌ただしく逃げ帰っていった。
 男達の姿が完全に見えなくなった後、私達はお兄ちゃんに駆け寄った。

「大丈夫か友也!?」
「あれ、真弓さん? どうして……」
「説明は後だ。とりあえず近くで手当てしよう」
 
 
 真弓さんの提案で、私達は近くのファミレスに向かった。
 そこはお兄ちゃん達が務めるファミレスの藤宮店で、店長さんは真弓さんの後輩社員だった。
 事情を説明すると、店長さんは快く事務所を貸してくれた。


「さて、怪我の方はこんな感じでいいだろう」
「すみません。真弓さんまで巻き込んじゃって……」

 お兄ちゃんは申し訳なさそうに項垂れていた。

 どうしてお兄ちゃんが謝るの?
 悪いのはあの男達なのに。
 それにあの時、真弓さんは――。
 
「真弓さん、あの人達とどういう関係なんですか?」
「ッ!?」

 私の言葉に真弓さんは一瞬目を見開き、視線を下に逸らした。

「あの人達……特にリーダーって言われてた人は、真弓さんにすごく怯えてました」
「…………」
「それに真弓さん言ってましたよね? 『景山は元気か?』って」
「…………」
「景山って誰ですか? あのアローズってグループと真弓さんはどういう関係なんですか!?」

 私の問いかけに真弓さんはずっと黙っている。
 そんな姿に激しい憤りを感じた。 

「黙ってないで何か言ってください!」
「柚希、落ち着けって!」
「だって! だって……お兄ちゃんが、うぅ……こんなに、ぐすっ、怪我して……」
「俺は大丈夫だから。な?」

 こんな状況でもお兄ちゃんは優しく私を慰めてくれる。
 ホント、昔から変わらない。

「ぐすっ……すみません、真弓さん」
「いや、いい。それに謝らなくちゃいけないのは私の方だ」

 真弓さんは椅子から立ち上がり、部屋の隅に立った。
 そしてその場の全員を見渡し、一呼吸入れると
 
「友也妹の言う通り、私はあいつらと縁があるんだ」

 と、落ち着いた様子で話を始めた。
 
「5年くらい前、私がまだ大学生だった頃に、アローズは結成された。まぁ、最初は名前もない只のろくでなしの集まりだったんだがな。その時に私にくっ付いてきたのが、景山だったんだ」 

 言葉を選ぶように、ゆっくりと真弓さんは語り続けた。
 簡単に説明してくれているけど、きっと真弓さんにも数えきれない思い出があるんだ。

 皆黙って真弓さんの話に耳を傾けている。
 
「自分で言うのも何だが、私は結構慕われてた方でな。景山は積極的に仲間を連れてきては紹介してきたよ。悪い気はしなかったが、いい加減そういうのも卒業したかった私はグループを抜けたんだ」 

 そっか。
 だからジャージの男や他の奴らは知らなくて、タトゥーの男だけは真弓さんを辛うじて知ってたんだ。
 
「抜ける直前に紹介されたのが、あのタトゥーの男だったんですね」
「そういう事だ。それから私は大学を出て今の仕事に就いたんだ」
「それ以降は全く接触は無かったんですか?」
「いや、一度だけ景山がウチの店に来た。『今は自分が仕切ってチーム名もアローズにした。ステッカーも作った』なんてガキみたいにはしゃいでたよ。終いには戻ってきてくださいって懇願してきてな」

 真弓さんは呆れたように苦笑しながら語る。
 そしてその時に受け取ったステッカーを私達に見せてきた。

 赤いハイヒールを打ち抜く矢が描かれたデザインにチームのロゴが入った、派手なステッカーだ。
 
「それで、その後は?」
「もちろん一発ぶん殴って追い返してやったよ。『好き勝手暴れて迷惑かけてちゃ只の子供と変わらない』って説教付きでな」

 そう言って真弓さんはお兄ちゃんと中居先輩を一瞥すると

「今では後悔してる。あの時、景山をもっときつく咎めるべきだった」

 と、悲しげな顔をした。 
 そして真弓さんは顔を上げ、その場の全員を見渡した。

「お前達をあんな危険な目に遭わせてしまったのも、元はと言えば私の責任だ。本当にすまなかった」

 そう言って頭を下げた。
 
 真弓さんにそんな過去があったなんて。
 私は今日初めて会ったけど、今の真弓さんが悪い人じゃない事くらいわかる。
 だからこそ、返す言葉が見つからなかった。


 数秒の沈黙が流れた後

「頭を上げてください」

 と、お兄ちゃんが声を掛けた。
 その言葉に真弓さんは、申し訳なさそうな表情をしながらも真っすぐお兄ちゃんを見ていた。

「俺達は真弓さんの所為だなんて思ってません」
「しかし――」
「真弓さんは暴漢から助けてくれた。俺達にとってはそれだけが事実です」

 お兄ちゃんは立ち上がり、真弓さんに向かって頭を下げた。

「本当にありがとうございました」
  
 その言葉に続くように、残る私達も頭を下げた。


 お兄ちゃんの言う通りだ。
 私達にとって、過去の真弓さんがどういう人だったかなんて関係ない。
 真弓さんもきっと、自分の過去と向き合った上で今を大事にしてるんだ。
 
 私とお兄ちゃんも、いつか清算しないといけないんだ。
 私達の過去を。


 の出来事を。
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