自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

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第一章~始まり~

言葉の抑揚

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 「はぁ、はぁ、……。」

 直立したまま爆笑する事1時間、柚希の「もういいよ~」 という言葉で俺は生き地獄から解放された。
 慣れない姿勢で、しかも爆笑しながらの1時間は想像以上にキツかった。

「お疲れさま~。大丈夫?」
「いや、だいじょばない……。」
「ははは」

 両手と両ひざを床に付いた状態で呼吸を整える。
 しばらくして呼吸も落ち着いてきた時

「じゃあ、この鏡の前に立って自分を見てみて。」

 柚希に促され何とか立ち上がり鏡の前に立つ。

「これは……?」

 鏡に映し出されたのは笑顔で姿勢よく立つなかなかのイケメンが居た。

「柚希! こ、これって……!」

 興奮しながら柚希に尋ねる。

「それが本来のおにいちゃんだよ。」

 このイケメンが俺?
 鏡に映った自分を見て驚愕していると

「始めたばかりだからそんなだけど、これを続けて行けばもっと変わると思うよ?」
「は? え? もっと変わるのか?」

 今でも十分イケメンの部類に入るかもしれないのに、もっとイケメンになれるだと?
 俺が半信半疑でいると柚希は自信ありげに言う。

「兄妹なんだからもっといけるよ! それともお兄ちゃんには私がそこまで可愛く映ってないのかな?」
「いやいや! 柚希は滅茶苦茶可愛いよ!」

 俺が興奮気味に言うと

「ふふ、ありがとう。 だからお兄ちゃんももっと上を目指そう?」

 俺を諭す様に柔らかい口調で言ってくる。
 ここは兄の意地を見せなければ!

「ああ。柚希のお蔭で自信が沸いてきたよ!」

 こうしてキツイ訓練が終わった。


 と思っていたら

「じゃあ、次の訓練に移りますか」

 という天使の声色で悪魔の言葉がリビングに響いた。


 
「あー! あー! あ~。 あー!」

 俺は今精一杯の感情を乗せて叫んでいる。
 柚希から出された新たな特訓は『喋り方に抑揚を付ける!』 だった。
 その一環で『あ』だけで喜怒哀楽を表現しろという事で今に至る。

「あー! あー! あ~。 あー!」

 何度も繰り返し挑戦しているが、中々柚希からのオーケーが貰えない。

「あー! あー? あぁ~。 あー!」

 幾度となく繰り返される『あ』。
 普段ろくに喋らないから限界が近い。
 少し休憩していいか提案しようと試案していたら

「あ! 今の良かったかも!」

 という色良い反応があった。

「マジで?」
「うん。今の感じでもう一回やってみて」

 そう言われもう一度『あ』で喜怒哀楽を表現してみる。

「うん。これならオッケーかな。今の感じを忘れない様にしてね!」
「あぁ、わかった!」

 柚希の助言に自分なりに感情をのせて返事をすると

「そうそう! その調子でね!」

 と素直に褒められた。
 そこで気が付いた。
 努力して褒められるのってこんなに嬉しい物だったんだなぁと。
 俺が感慨に耽っていると柚希から厳しい口調で指摘される。

「姿勢が悪くなってきてるよ! ちゃんと意識して!」
「あ! わ、わかった」

 指摘されて初めて姿勢が崩れてるのが分かった。
 慣れるまで常に意識してないとダメだな。

「あと、口角も下がってきてるから気を付けてね」
「おう!」
「表情筋は使わないとどんどん低下していくから、冬休みの間1日3回20分のトレーニングはキチンとやってね。これを疎かにすると他の努力も無駄になるから!」
「わかった!」

 特訓を始めて思ったけど、柚希って結構スパルタだな。
 将来教育ママになったりして。

「それで次の特訓なんだけど、最後に家族以外で人と喋ったのいつ?」

 実の妹から言葉のナイフで切り付けられた!
 心の痛みに耐えながら最後に会話した場面を思い出す。

「えーっと、期末試験のときかな?」

 数少ない会話を絞り出す。

「どんな内容だったの?」
「俺が消しゴムを落として、隣の女子がそれを拾って『消しゴム落としたよ』って渡してくれたから『ありがとう』っていう内容かな」

 俺がエピソードトークを披露すると、柚希はあからさまな溜息を吐いて

「それ、会話っていわないから」

 と心なしか冷たい声音でいわれ

「それに、お兄ちゃんの事だからそんなスマートにお礼言えたとおもえないんだよね~」
「うっ!」

 効果は抜群だ!

「だから、次の特訓は実践で喋ってもらいます」
「はぇ?」

 驚きと戸惑いが混じって変な声が出てしまった。

「でも、いきなり知らない人と話すのはまだ難易度高いから、私と雑談しよう!」
「雑談?」
「そう! 他愛もない事で盛り上がれれば合格かな。」

 そう言って柚希は俺の正面に座る。

「じゃあ、お兄ちゃんから話題振って!」


 
 俺は妹相手にさえ会話が止まったり、しどろもどろになったりと自分のコミュ力の無さに打ち非がれたのだった。
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