《 アルファ編 》 時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか? 

南 玲子

文字の大きさ
12 / 57

ユーリの想い 《 前編 》

しおりを挟む
今日はどうしても抜けられない騎士団会議があった。サクラと別れる時には心配のあまり、握った手を離すのを忘れていたくらいだ。どうりで馬車が定刻を過ぎても出発しないと思った。

会議が終わり、他の隊長への挨拶もそこそこに、騎士訓練場に向かう。サクラの居場所を探して、やっと川にたどり着いた時に見たものは、トランクス一枚の騎士達が水遊びに興じている中、マリス騎士の頭の上で全身でしがみ付いているクラマの姿だった。

体中の血が引いていくのがわかる。私は我を忘れて状況の説明をマリス騎士に求めた。なのに私の腕の中で抱かれているサクラが、私の顔を押さえ込んで、なにやら言い訳を始めた。

「ユーリス様。これは私が足を滑らせて川に落ちたところを、お優しいマリス騎士様が助けてくださったんです」

そんな嘘に騙される私ではない。その証拠に他の騎士達が隊長、副隊長を含め、皆一様に私に怯えているからだ。文句を言おうと思っても、サクラが一向に私の顔を握る手を緩めない。

勿論その気になれば、サクラの力など私の力の非ではないので顔を動かすことは可能だったが、私はそれをしなかった。何故かといえば、サクラにこんなに真剣な目で見つめられることが、嬉しかったからだ。

揉め事が嫌いな彼女のことだ。私が騙されてサクラが喜ぶならそれでいいと、嘘に騙されてやろうと思ったときに、マリスがとんでもないことを言い出した。

「ユーリス隊長。貴方には相愛する婚約者がいるはずです。なのにクラマにまで気を持たせることをして、弄ばれているクラマが可哀想です。俺は・・・俺はクラマを助けたいんです」

なんだと、お前まで彼女が好きなのか。いや・・・というよりは男のクラマが好きなのか。そういえばマリス騎士は男色家だと聞いていた。でもまさかこんな小さな男の子にまで・・・。

「俺ならクラマを幸せにできると思うんです・・・」

これはまったくもって看過できない。マリス騎士。彼女を幸せにするのは私だ。誰にもその権利を渡す気は無い。

騎士道に乗っ取って決闘だ!!・・・と言ってやろうと思い、サクラと見つめあっている方向を変えるのは嫌なので、体全体を捻ってマリス騎士のほうを見た。それに焦ったのかサクラが、私が口を開くのより早くマリスに向かって、あろうことか・・・私を・・この私を・・・嫌いだと!・・宣言したのだ!!

「マリス騎士様!私はユーリス様のことなど、これっぽっちも好きだと思ったことなどありません!!世界中で男がユーリス様一人になったとしても、ユーリス様と何とかなるなんて事は絶対にありえないんです!!っていうか男の人とそういった関係になることはありません。僕は普通にアイシス様みたいな女性が好きな普通の男なんです!!」

実はその台詞を聞いてからの記憶が全く無い。気が付くと自室のシャワー室にいた。暖かい水が頭にかかる熱で我に返った。その時ふとサクラの気配を感じて、無意識で彼女の腕を引っ張った。その顔は、突然服のままシャワーブースに連れ込まれて、本当に怒っているようだった。

愛しい人がその目の前にいるというのに、私の心は、彼女が自分から逃げていってしまうのではないかという恐怖に駆られていた。腕を離して欲しいと訴える彼女の言うことを、聞くわけにはいかない。

「ちょっと目を放した隙にどうしてこんな事になっているんですか・・・。サクラ・・」

私はなんとか声を絞り出す。彼女は私と目も合わさないで話す。

「・・・いや・・・私もよく訳が分からなくて・・・。まさかマリス騎士様が私のことをそんな目で見てたなんて気が付かなかったもの」

マリスか・・・マリスも確かに許しがたい。でもいま私の胸を焦がしているのはそんなものが原因ではない。愛する人に目の前で拒絶される事がこんなに苦しいことなんて、思いもよらなかった。

そんな私の様子を気遣ったのか、サクラが私の目を見つめる。私はいてもたってもいられなくなり、彼女を自分の腕にかき抱く。

「嘘でもあんなことは言わないでください。胸が張り裂けそうになりました・・・」

自分でも思ったより弱々しい声が出て、狭いシャワーブースの中に響く。彼女は黙ったまま、私の腕の中に抱きしめられるままになっていた。サクラを胸に抱いていると、だんだん落ち着いてきて他のことなどどうでも良くなってきた。

そうだ・・・私は彼女の傍にいて守ってあげられるならば、それでいいと思っていたはずだ。今はそれ以上を求めるつもりは無いと・・・。私はサクラを安心させるために言った。

「サクラ。私は君を苦しめるつもりはありません。私の気持ちに対する返事を急がせるつもりもありません。ただこの想いを知っておいて欲しいだけなんです。私の我が侭ですみません」

私の言葉で体中に満ちていた緊張が解けたのか、抱きしめていた体の力が抜けていくのが分かった。そうして彼女は、・・・私のことを好きだといった。

ユーリのことが好きだと!!確かに言った!!

ああ、神様!最愛の人が自分を好きだといってくれる。それだけでこんなにも幸せな気持ちになるなんて・・・今まで生きてきて初めて知った!!

その好きという気持ちがどんな意味であろうとも・・・問題ない。この言葉だけで今は十分だ・・。

愛しい・・・ 愛しい・・・愛する私のサクラ・・・。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...