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ユーリの想い 《 前編 》
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今日はどうしても抜けられない騎士団会議があった。サクラと別れる時には心配のあまり、握った手を離すのを忘れていたくらいだ。どうりで馬車が定刻を過ぎても出発しないと思った。
会議が終わり、他の隊長への挨拶もそこそこに、騎士訓練場に向かう。サクラの居場所を探して、やっと川にたどり着いた時に見たものは、トランクス一枚の騎士達が水遊びに興じている中、マリス騎士の頭の上で全身でしがみ付いているクラマの姿だった。
体中の血が引いていくのがわかる。私は我を忘れて状況の説明をマリス騎士に求めた。なのに私の腕の中で抱かれているサクラが、私の顔を押さえ込んで、なにやら言い訳を始めた。
「ユーリス様。これは私が足を滑らせて川に落ちたところを、お優しいマリス騎士様が助けてくださったんです」
そんな嘘に騙される私ではない。その証拠に他の騎士達が隊長、副隊長を含め、皆一様に私に怯えているからだ。文句を言おうと思っても、サクラが一向に私の顔を握る手を緩めない。
勿論その気になれば、サクラの力など私の力の非ではないので顔を動かすことは可能だったが、私はそれをしなかった。何故かといえば、サクラにこんなに真剣な目で見つめられることが、嬉しかったからだ。
揉め事が嫌いな彼女のことだ。私が騙されてサクラが喜ぶならそれでいいと、嘘に騙されてやろうと思ったときに、マリスがとんでもないことを言い出した。
「ユーリス隊長。貴方には相愛する婚約者がいるはずです。なのにクラマにまで気を持たせることをして、弄ばれているクラマが可哀想です。俺は・・・俺はクラマを助けたいんです」
なんだと、お前まで彼女が好きなのか。いや・・・というよりは男のクラマが好きなのか。そういえばマリス騎士は男色家だと聞いていた。でもまさかこんな小さな男の子にまで・・・。
「俺ならクラマを幸せにできると思うんです・・・」
これはまったくもって看過できない。マリス騎士。彼女を幸せにするのは私だ。誰にもその権利を渡す気は無い。
騎士道に乗っ取って決闘だ!!・・・と言ってやろうと思い、サクラと見つめあっている方向を変えるのは嫌なので、体全体を捻ってマリス騎士のほうを見た。それに焦ったのかサクラが、私が口を開くのより早くマリスに向かって、あろうことか・・・私を・・この私を・・・嫌いだと!・・宣言したのだ!!
「マリス騎士様!私はユーリス様のことなど、これっぽっちも好きだと思ったことなどありません!!世界中で男がユーリス様一人になったとしても、ユーリス様と何とかなるなんて事は絶対にありえないんです!!っていうか男の人とそういった関係になることはありません。僕は普通にアイシス様みたいな女性が好きな普通の男なんです!!」
実はその台詞を聞いてからの記憶が全く無い。気が付くと自室のシャワー室にいた。暖かい水が頭にかかる熱で我に返った。その時ふとサクラの気配を感じて、無意識で彼女の腕を引っ張った。その顔は、突然服のままシャワーブースに連れ込まれて、本当に怒っているようだった。
愛しい人がその目の前にいるというのに、私の心は、彼女が自分から逃げていってしまうのではないかという恐怖に駆られていた。腕を離して欲しいと訴える彼女の言うことを、聞くわけにはいかない。
「ちょっと目を放した隙にどうしてこんな事になっているんですか・・・。サクラ・・」
私はなんとか声を絞り出す。彼女は私と目も合わさないで話す。
「・・・いや・・・私もよく訳が分からなくて・・・。まさかマリス騎士様が私のことをそんな目で見てたなんて気が付かなかったもの」
マリスか・・・マリスも確かに許しがたい。でもいま私の胸を焦がしているのはそんなものが原因ではない。愛する人に目の前で拒絶される事がこんなに苦しいことなんて、思いもよらなかった。
そんな私の様子を気遣ったのか、サクラが私の目を見つめる。私はいてもたってもいられなくなり、彼女を自分の腕にかき抱く。
「嘘でもあんなことは言わないでください。胸が張り裂けそうになりました・・・」
自分でも思ったより弱々しい声が出て、狭いシャワーブースの中に響く。彼女は黙ったまま、私の腕の中に抱きしめられるままになっていた。サクラを胸に抱いていると、だんだん落ち着いてきて他のことなどどうでも良くなってきた。
そうだ・・・私は彼女の傍にいて守ってあげられるならば、それでいいと思っていたはずだ。今はそれ以上を求めるつもりは無いと・・・。私はサクラを安心させるために言った。
「サクラ。私は君を苦しめるつもりはありません。私の気持ちに対する返事を急がせるつもりもありません。ただこの想いを知っておいて欲しいだけなんです。私の我が侭ですみません」
私の言葉で体中に満ちていた緊張が解けたのか、抱きしめていた体の力が抜けていくのが分かった。そうして彼女は、・・・私のことを好きだといった。
ユーリのことが好きだと!!確かに言った!!
ああ、神様!最愛の人が自分を好きだといってくれる。それだけでこんなにも幸せな気持ちになるなんて・・・今まで生きてきて初めて知った!!
その好きという気持ちがどんな意味であろうとも・・・問題ない。この言葉だけで今は十分だ・・。
愛しい・・・ 愛しい・・・愛する私のサクラ・・・。
会議が終わり、他の隊長への挨拶もそこそこに、騎士訓練場に向かう。サクラの居場所を探して、やっと川にたどり着いた時に見たものは、トランクス一枚の騎士達が水遊びに興じている中、マリス騎士の頭の上で全身でしがみ付いているクラマの姿だった。
体中の血が引いていくのがわかる。私は我を忘れて状況の説明をマリス騎士に求めた。なのに私の腕の中で抱かれているサクラが、私の顔を押さえ込んで、なにやら言い訳を始めた。
「ユーリス様。これは私が足を滑らせて川に落ちたところを、お優しいマリス騎士様が助けてくださったんです」
そんな嘘に騙される私ではない。その証拠に他の騎士達が隊長、副隊長を含め、皆一様に私に怯えているからだ。文句を言おうと思っても、サクラが一向に私の顔を握る手を緩めない。
勿論その気になれば、サクラの力など私の力の非ではないので顔を動かすことは可能だったが、私はそれをしなかった。何故かといえば、サクラにこんなに真剣な目で見つめられることが、嬉しかったからだ。
揉め事が嫌いな彼女のことだ。私が騙されてサクラが喜ぶならそれでいいと、嘘に騙されてやろうと思ったときに、マリスがとんでもないことを言い出した。
「ユーリス隊長。貴方には相愛する婚約者がいるはずです。なのにクラマにまで気を持たせることをして、弄ばれているクラマが可哀想です。俺は・・・俺はクラマを助けたいんです」
なんだと、お前まで彼女が好きなのか。いや・・・というよりは男のクラマが好きなのか。そういえばマリス騎士は男色家だと聞いていた。でもまさかこんな小さな男の子にまで・・・。
「俺ならクラマを幸せにできると思うんです・・・」
これはまったくもって看過できない。マリス騎士。彼女を幸せにするのは私だ。誰にもその権利を渡す気は無い。
騎士道に乗っ取って決闘だ!!・・・と言ってやろうと思い、サクラと見つめあっている方向を変えるのは嫌なので、体全体を捻ってマリス騎士のほうを見た。それに焦ったのかサクラが、私が口を開くのより早くマリスに向かって、あろうことか・・・私を・・この私を・・・嫌いだと!・・宣言したのだ!!
「マリス騎士様!私はユーリス様のことなど、これっぽっちも好きだと思ったことなどありません!!世界中で男がユーリス様一人になったとしても、ユーリス様と何とかなるなんて事は絶対にありえないんです!!っていうか男の人とそういった関係になることはありません。僕は普通にアイシス様みたいな女性が好きな普通の男なんです!!」
実はその台詞を聞いてからの記憶が全く無い。気が付くと自室のシャワー室にいた。暖かい水が頭にかかる熱で我に返った。その時ふとサクラの気配を感じて、無意識で彼女の腕を引っ張った。その顔は、突然服のままシャワーブースに連れ込まれて、本当に怒っているようだった。
愛しい人がその目の前にいるというのに、私の心は、彼女が自分から逃げていってしまうのではないかという恐怖に駆られていた。腕を離して欲しいと訴える彼女の言うことを、聞くわけにはいかない。
「ちょっと目を放した隙にどうしてこんな事になっているんですか・・・。サクラ・・」
私はなんとか声を絞り出す。彼女は私と目も合わさないで話す。
「・・・いや・・・私もよく訳が分からなくて・・・。まさかマリス騎士様が私のことをそんな目で見てたなんて気が付かなかったもの」
マリスか・・・マリスも確かに許しがたい。でもいま私の胸を焦がしているのはそんなものが原因ではない。愛する人に目の前で拒絶される事がこんなに苦しいことなんて、思いもよらなかった。
そんな私の様子を気遣ったのか、サクラが私の目を見つめる。私はいてもたってもいられなくなり、彼女を自分の腕にかき抱く。
「嘘でもあんなことは言わないでください。胸が張り裂けそうになりました・・・」
自分でも思ったより弱々しい声が出て、狭いシャワーブースの中に響く。彼女は黙ったまま、私の腕の中に抱きしめられるままになっていた。サクラを胸に抱いていると、だんだん落ち着いてきて他のことなどどうでも良くなってきた。
そうだ・・・私は彼女の傍にいて守ってあげられるならば、それでいいと思っていたはずだ。今はそれ以上を求めるつもりは無いと・・・。私はサクラを安心させるために言った。
「サクラ。私は君を苦しめるつもりはありません。私の気持ちに対する返事を急がせるつもりもありません。ただこの想いを知っておいて欲しいだけなんです。私の我が侭ですみません」
私の言葉で体中に満ちていた緊張が解けたのか、抱きしめていた体の力が抜けていくのが分かった。そうして彼女は、・・・私のことを好きだといった。
ユーリのことが好きだと!!確かに言った!!
ああ、神様!最愛の人が自分を好きだといってくれる。それだけでこんなにも幸せな気持ちになるなんて・・・今まで生きてきて初めて知った!!
その好きという気持ちがどんな意味であろうとも・・・問題ない。この言葉だけで今は十分だ・・。
愛しい・・・ 愛しい・・・愛する私のサクラ・・・。
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