《 ベータ編 》時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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ユーリスとヘル騎士様

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食堂に着くなりユーリが血相を変えて私の方に走ってきた。今が一番食堂が込む時間帯だ。いま現在、この騎士団訓練場で訓練をしている13名の騎士様全員がそこにいた。ユーリの様子を見て皆さんが生暖かい目で見てくる。

騎士専用の食堂はとても広い空間に、沢山の丸テーブルが置かれている。その上にきっちりとアイロンと糊付けされたテーブルクロスがのっていて、各テーブルごとに給仕が付いている。

「クラマ、遅いから心配しましたよ。どこにいたのです?ヘル騎士と一緒だったのですか?」

そう言ってヘル騎士のほうをじろりと睨みながらいった。

私はヘル騎士様が医療班棟で手伝いをしてくれたことを、ユーリに話して聞かせた。でも箱が落ちてきて、私が怪我をした事は隠しておいた。ユーリが知ってしまったらボレダス医療班班長様のなけなしの頭の毛が、全部なくなるほどに責めたてるに違いない。肩のシャツに付いた血の染みは、ベストを着て誤魔化してある。気付かれることはないだろう。

「そういう時は私に頼んでください。私は探知魔法が使えないから、訓練場をくまなく探しても見つからないからものすごく心配したんですよ」

そうか・・・。伝心魔法も、医療班棟内部では結界が張ってあるからつながらないんだった。戦闘不能になって治療を受ける騎士様の、機密情報漏洩防止の為の措置だと聞いたことがある。重大な王国の守りの要である騎士様の体の状態は、戦況に大きく左右するかららしい。

「すみません。今度からはユーリス様に連絡してからにします」

私はあまりに心配をしているユーリに申し訳ない気持ちになっていった。そこにクールな表情でヘル騎士様がユーリに嫌味のようにいう。

「ユーリス隊長。あまりに束縛しすぎると、クラマが逃げてしまいますよ。まるで愛する女性にでもする態度ですね」

ユーリは憤然とした態度を崩さず、ヘル騎士様を一瞥もせずに答えた。

「君が最近騎士になったばかりだというヘル騎士だね。私のクラマに対する兄弟愛をそんな風に言われるのは心外だな」

「私にも弟はいますが、こんな風に行動まで監視はしていませんよ」

「あの・・・ここで話もなんですから座りましょう」

私はこれ以上お二人の仲が険悪になるのを避けるため、二人の手を取って座席に促した。4人掛けの丸テーブルに3人で腰掛ける。給仕が注文を聞きに来て、程なく飲み物と食事が運ばれてきた。待ちに待った食事の時間だというのに、私は浮かない顔をしていた。

何故かと言えば私の席の前に、食事は用意されてあるのだが、カテラリー類が一切ない。そういえば給仕が注文を取って去っていく時に、ユーリが何か耳打ちしていた。これの事だったのか!!

「クラマ、これは私を心配させた罰です。はい口を開けてください」

ユーリはヘル騎士様が目の前であっけに取られた顔で見ているのも関わらず、私の口にハンバーグを小さく切った物を次々に押し込んでいく。

「んぐぐぐぅ。ユーリス様・・・」  もぐもぐ。

ユーリは自分がご飯を食べるたびに私の口に食べ物を押し込み、器用に交互に食事をしている。周囲の騎士様の事も恥ずかしいが、それ以上に同じテーブルに座っているヘル騎士様の視線が痛い。ものすごく見ている。

「聞きしに勝る溺愛ぶりですね。これも血なのかな?」

ヘル騎士様が呆れたようなお顔でつぶやく。私は公開羞恥プレイに顔を赤くするも、ユーリの攻撃はやまない。はて、なんで血が関係あるのだろうか?もしかして私の肩についた血がユーリに見えてしまっていたのか!?

私はちらっと自分の左肩に目線を移した。よし、見えていない!

するとその様子に何かを気づいたらしいユーリが突然私のベストを剥ぎ取った。成すすべも無く、肩に血の付いたシャツがあらわになる。すぐにシャツをめくられて傷のついた肌を見られた。


「あの・・・これは・・」

今まで微笑んでいた柔和なお顔が一瞬で固くなり、私の肩の擦り傷を注視している。時間がたったので赤黒く変色しかけている傷を見て、無言で私の方を悲しそうに見る。

「ああああ、あのですねユーリス様これには深――い訳がありまして、ボレダス医療班班長様の毛の問題がですね・・・」

余りに突然の事に混乱した私が、訳の分からない言い訳をしようとしたけれども、ユーリは悲しそうに私を見つめるだけで、微動だにしない。私は観念して今日あった出来事を話して聞かせた。その後しばらく黙ったままでいたかと思うと、ユーリは突然思いがけない行動に出た。私の座席の隣に座っていたユーリが少しかがんだかと思うと、肩に唇をつけてその柔らかい舌を這わせた。

「ひょえっ!!」

妙な声が口をついて出てくると同時に、突き刺すような痛みが左肩を襲う。

な・・・何事・・・!?!

と思った瞬間、打ち身の赤黒さはそのままに擦り傷は綺麗さっぱり消えていた。

「これで傷は治ったはずです。私の魔力では止血はできますが治療はできません。でもこのくらいの傷ならこうすれば直すことが可能なんです」

そ・・・そうかぁ。び・・びっくりした。てっきり気でも違ったのかと・・・。

私がホッとした次の瞬間、周囲の痛い視線に気が付いた。騎士様達が夕食を食べていたその手を止めたまま、こっちを注視している。その沈黙に耐えられなくなった時に、ヘル騎士様が突然笑い始めた。

「はっ、はっ、はっ、こりゃまいった。クラマは幸せ者だな。なんといっても王国最強の騎士隊長が君の前だと、かたなしだ」

私は無言のままうつむいた。それきり顔は上げずに、ユーリに促されるまま公然羞恥プレイの方法で食事を終えて、自室に戻った。

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