《 ベータ編 》時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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戦いの前の静けさ

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ソルデア王が今まさに私の首を掻き切ろうとしたとき、突然味方が現れた!ソルデア王の持っていた短剣が剣で弾かれて宙を舞い、テラスの手すりから下に落下した。

カシャァァァァ――――ン!

鉄が床のタイルに当たって鋭い音を立てた。私が振り向くと、そこには全身を血だらけにして満身創痍のヘル騎士様が剣を手にして立っていた。

「ヘル騎士様っ!!」

私は震える声でその名を呼んだ。どうしてこんなことになっているの?ギルア騎士様はこの間結婚したばかりで、奥さんの写真を恥ずかしそうに見せてくれた。リューク騎士様は騎士歴12年のベテランで、子供の成長を心待ちにしている子煩悩パパだった。その二人の騎士様が、いま血だまりの中でその姿を固い石の上に横たえている。

私は初めて人が殺される瞬間を見たショックで、頭がおかしくなりそうだった。しかもたった今、自分の命までもが狙われた。でもどうしてナイメール公国のソルデア王が・・・・・!!!?

パニックになり、許容範囲を超えた頭がうまく機能しない。自分の頭を抱えて、思い切り叫びだしそうになったところを、頬に鋭い痛みを感じて我に返った。ヘル騎士が私の頬を叩いたのだ。

「セシリア!!正気に戻って聞いてくれ!クラウスが死んだ!これをお前にと預かっている」

ヘル騎士は私を自分の背後にかばうと、あの3種の宝飾の1つであるネックレスを懐から取り出して私の手に握らせた。そのネックレスは血で濡れていて、手から滑り落ちそうになるのを必死で両手に受け止める。

「これ・・・・は・・・」

待って・・・なんていった?クラウス様が死んだ?!!じゃあ、この血はもしかして・・・。

「頼む!!これでクラウスを生き返らせてくれ!お前ならできるんだろう?ここは私に任せておけ。だから頼む!」

ヘル騎士がそう言い放つと、ソルデア王とその近衛兵たちに向かって剣を構えた。その体はもうボロボロで、立っているのさえ信じられないくらいに負傷している。出血は止まっているようだが、この人数を相手にして勝てるとは到底思えなかった。

「私がこいつらを足止めできるのは、せいぜい5分くらいだ!その間に逃げてくれ!」

もう死ぬ覚悟はできているといわんばかりに、ヘル騎士が私の方を向いて泣きそうな表情で微笑むと、そのまま私の体をテラスの手すりから突き落とした。

このテラスは大体5階建ての家くらいの高さの位置にあるのだが、おり重なるようにして作られたテラスなので、落ちても3メートルくらいだ。けれどテラスの床は石のタイルでできている。打ち所が悪ければ死んでしまう。私は体を丸めて次に来るであろう衝撃に備えた。

予想に反して、クッションがあるかのように柔らかく私の体は床に着地した。恐らくヘル騎士が防御魔法をかけておいてくれていたのだろう。

私は急いで体をおこし、上階にあるテラスを見上げた。上のテラスでは激しい戦闘が行われているようで、剣がぶつかりあう音や、何かが爆発するような音が絶え間なく聞こえてくる。

「ヘル騎士様っ!!!」

私が思い切り力を込めて叫ぶと、ヘル騎士のものと思われる声が上階から響いてきた。

「セシリア、逃げろ!」

どうしたらいいんだろう!私が時を止めても、死んだ人たちは戻らない。しかも今の私は時を止めることを禁止されている。時を止めるのが駄目なら、どうやってヘル騎士様を助ければいいのだろうか?

私はとにかくヘル騎士様の言葉に従い、大きな両開きの扉を開けて部屋の中に入る。薄暗い部屋の中に誰かが無言のまま立っているのに気が付いて、驚いてびくっと体を震わせた。その者が誰なのかが、暗闇に目が慣れるにつれてだんだんと見えてきた。

銀色の長い髪に、銀色の瞳。たおやかな薄紫のシックなドレスを身にまとい、その人は静かに佇んでいた。

ナイメール公国のユリアナ皇女様、その人だった。

人間離れした天女のような美しさで、静かに微笑むと私の方に足を進める。その度に私は後ずさる。

「どうして逃げるの?わたしは怖くはないわよ」

どんどん後ずさって、またさっきのテラスまで押し戻された。

「逃げないで、セシリア・・・。私はソルデア王とは違うわ。忠告してあげたはずよ」

違う何かが違う・・・何がおかしいとははっきりとは言えないが、物凄い違和感をユリアナ皇女から感じる。最初はその違和感はソルデア王からきていると思っていたが、いまはっきりと分かった。

ユリアナ皇女がテラスの方に歩みを進めるにしたがって、その違和感が何なのかだんだんと理解できてきた。彼女はもう私のすぐ傍にまできて、手に持っているネックレスを見ると、どこからこんな力がでたのかと思うくらいの力でそれを奪い取った。

「ふふ、これをあなたが持っているなんて・・・。だめよね、ウェースプ王国には代々この宝飾で聖女の力を封印しなさいと伝承させてあったのに、500年のうちにうまく伝わらなかったようね」

何てこと・・・・!!信じられない、こんなことって・・・!!

「あっ・・」

その時ユリアナ皇女様の背後から、突然目にもとまらぬ速さで現れた人物が、彼女を背後から剣で刺した。ユリアナ皇女様の体から剣が突き出ていて、私の目の前にその切っ先が見えていて、彼女の体を確実に突き刺しているのが分かる。

「・・・・ユーリ!!」

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