母への手紙

みるみる

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初めての出産、離婚

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あなたが両親に初めて反抗した日、あなたの中で、お婿さんといつか必ず離婚するという強い意志が生まれました。


とはいえ、お婿さんとはなかなか離婚する事も出来ないまま何ヶ月か経ち、あなたは第一子を妊娠しました。仕事と家事と畑仕事に忙しくしていたあなたには、とてもお腹の子供を思いやる余裕はありませんでした。その為、あなたは初めての子供を死産してしまいました。

それから一年後、あなたはまた妊娠をしました。今度は無理をせず慎重に体を動かしていた為、無事に出産をする事が出来ました。

あなたの両親はとても喜びましたね。

そしてあなたのお婿さんはというと‥‥あなたの出産時、あなたの稼いだお金を使い、芸妓さんと遊んで過ごしていましたね。

あなたが初めての育児で大変な思いをしている最中も芸妓遊びをやめられなかったお婿さんを、いつしかあなたの両親も冷めた目で見るようになりました。

そしてこの子が1歳になる前に、両親の承諾も得てあなたは正式にお婿さんと離婚をする事が出来ました。

勿論初めての子供の親権はあなたのものとなりました。

この子は男の子でしたので、あなたの両親に跡継ぎとして大層可愛がられましたね。

あなたは両親に息子を任せると、昼間は工場で一日働いて、夜はスナックで働いていました。

その頃は赤ちゃんのオムツも布オムツが主流でしたから、祖母は毎日タライで大量の布オムツを洗っては干して、育児や家事をあなた達親子の為に必死になって頑張ってくれていました。

そんな祖母を見ていたあなたの妹は、あなたの事をよく責めていましたね。

あなたが祖母を酷使して虐めていると‥。

彼女は、自分も自営業をしており共働きの為子供二人を祖母に預けていたのに、その事を棚に上げてあなただけを責めていましたね。

自分の仕事が忙しい時は、あなたに仕事を休ませては、自分の仕事を手伝わせていたのに‥‥。



そして、あなたの息子が小学校に上がる頃に祖父が亡くなりました。

祖父はもともと丈夫な体ではない上に、本格的に体を壊して寝込む前までは、働いてる事を隠して職安から手当てを不当に貰ったりしてまで辛い体に鞭を打って、お金を一生懸命に稼いでいました。

寒い冬も長靴がない中で、裸足で草履を履いて働いていたのだと聞きました。

心身共に長年の無理がたたったのでしょう。

私は祖父の人生も一通り見てきましたが、この頃の事は、とても辛い記憶として鮮明に祖父の心の中に刻みこまれていました。

祖父は、常に飢えと寒さと体の不調に苦しんでいました。それに、いつ警察に不正がばれて捕まるのか、と毎日生きた心地がしていなかったようです。

祖父も、あなたのことを嫌って酷いあつかいをしていた訳ではないのです。

祖父自身もあなたを思いやる余裕などなく、必死に生きていたのです。

祖父は死んだ後、あなたの元を訪れて謝罪をしていました。

あなたの目には単なる渦巻状の影が宙に浮いてるだけのように見えたようですが、あれは祖父の死後の姿だったのです。

自分が死んでも、祖母とあなた達親子の今後を、ずっと空から見守り続ける事をあなたに伝えに来たのです。

そして祖父の死後、暫くしてあなたはまた妊娠をしました。

あなたが夜の商売で、生まれて初めての恋をした相手の子供です。
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