「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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ゴディバル公爵家の新しい当主

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 カーリーに連れられてグスタフ卿はゴディバル公爵家に戻ってきました。

 途中でエリーゼは別の馬車で彼女の屋敷に帰すことになった為、カーリーと二人での帰宅となりました。

 邸内に入るとすぐに公爵家の当主の執務室へと向かうのですが、そこには彼の父親の姿はありませんでした。

 机の上には印と書類が綺麗に置かれています。

 それを手に取ると…

 それは当主の使う印と当主の引き継ぎ関連の書類でした。

「カーリー兄さん、父さんは今どこにいる?僕に何も教えてくれないのはなぜだ?兄さんが一族のリーダーとなるんだろ?」

 グスタフ卿はカーリーに返答を求めますが、彼はニヤニヤするばかりで何も言いません。

 彼が執務室の扉の方へ向かい、扉の外へ向かって何かを合図すると…

 外からたくさんの人物が入ってきました。その中にはエリーゼの護衛騎士としてルモンド侯爵邸へ潜入していた公爵家の影の者であるスタンレーや、カーリーの屋敷の執事の姿もありました。

「全ての準備が整いました。新しい御当主様にご挨拶申し上げます。」

 カーリーの執事がそう言うと、その場にいたグスタフ卿以外の全ての人物が跪きました。

「…まさか、僕が今公爵家一族の新しい当主になろうとしているという事なのか。」

 グスタフ卿の言葉を待つ皆んなの沈黙を受けて、グスタフ卿はこの状況を理解し事態を受け入れることにしました。

 この瞬間が怒涛の日々の始まりでした。

 当主の継承式、お披露目会、挨拶回りに新しい体制の形成に、影の者達の統率、領地の整理…

 それから、これまで一族の優秀な若者の才能の芽を潰す為に利用してきた離島の施設の処理、そこで廃人にされてしまった者達の救出、治療、補償等…

 さらには前当主であるグスタフ卿の父への処遇等、やる事は山積みでした。

 しばらく騎士としての仕事は邸内で行い、指示もそこから出す事にしたものの、彼が邸内から出てエリーゼと会えるようになるのは、それから数ヶ月後の事でした。

 そんな忙しい彼の仕事を補佐してくれたのは、以前彼に嫌がらせや暗殺を図ろうとした一族の反逆者達でした。

 彼らは、自分の家族を前当主によって離島の施設へ強引に入れられて廃人にさせられてしまった恨みをグスタフ卿へぶつけようとしていたのですが…

 カーリーの言葉巧みな勧誘によってグスタフ卿のかけがえのない補佐官へと見事に変身を遂げていました。

 一方カーリーは…

 面倒な事や表立って一族のリーダーとして活躍するような責任を負うような事はしたくないとのことで…

 公爵家の影の者のリーダーとして、公爵家の裏の支配者として暗躍します。
 
 彼は時折前当主…田舎に隠居したグスタフ卿の父とも会っているようで、忙しいグスタフ卿にその時の様子や交わした会話などを報告してくれました。

 彼の話によると、グスタフ卿の父も祖父の半ば虐待に近い教育により洗脳を受けていたようで…

 今はグスタフ卿の母と刺繍や絵画等の趣味を楽しみながら、いつか孫に会える日を夢見ながら楽しく過ごしているというのです。

 つまり、グスタフ卿の幼少期の趣味は彼の父からの遺伝も影響していたようです。

 グスタフ卿はカーリーから父の話を聞きながら、父の個人財産から半分を一族の被害者達への補償金に充てる事を決めました。

「孫に会えるのを楽しみにしてすごしてるだって?父には自分がしでかしてしまった事に対する反省の色が全く見られないな。…父の代わりに僕が彼らに補償をしなくてはいけないな。」

 そう言ってため息をつくグスタフ卿に、カーリーは公爵家の裏の支配者として彼に水をさしました。

「これからはお前が自分の父親の犯した罪も背負って一族を引っ張っていくんだ。父親に反省しろだのと小さな事を愚痴ってる暇はないぞ!」

 そう言って、グスタフ卿…もとい、ゴディバル公爵家の新当主のデスクに彼の決済を待つ書類の束をドンッと積み上げました。

「はぁ…。」

 ゴディバル公爵家新当主のため息が執務室に響き渡りました。


 









 
 
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