親切なミザリー

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ミザリーの見た夢

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「ヒィィッ!」

 ミザリーは悲鳴をあげながら目を覚ましました。とても怖い夢を見たのです。胸に手を当てると、心臓がドキドキと激しく鼓動しているのを感じました。

「ミザリーさん、どうしました!?」

 隣国カピエラへ来てからずっとミザリーの世話をしてくれていたアンが、心配そうにミザリーの枕元まで飛んできました。

「‥怖い夢を見ました。」

「‥よほど怖い夢を見たんですね、息があがっています。」

 アンはそう言うと、包帯の交換をしながら、温かい蒸しタオルで汗をそっと拭いてくれました。

「‥‥‥。」

 
 ミザリーは今日見た怖い夢のように、時々母国の夢を見る事がありました。

 夢の中では、友人のアリスさんと会って以前のように親しく話してみたり、サボンさんと普通に話す事ができてとても楽しかったのに‥先程見た夢はとても恐ろしい夢でした。

 アポロ王子がアリスの事を‥首を絞めて殺し、アリスの髪を切り取ると、その髪を自分の部屋の宝箱にしまうという場面が、夢の中で鮮明に見えたのです。

 アポロ王子の宝箱には、アリスの髪と、それとは別にミザリーの髪色とそっくりな金髪の髪が入っていました。

 さらに宝箱の底の方にはたくさんの昆虫の死骸や、小動物の頭蓋骨のようなものが所狭しと詰まっていました。

 どうやら夢の中のアポロ王子は、宝箱に亡くなってしまった恋人や、過去に可愛がっていた生き物達全ての形見をしまっていたようです。

 夢の中のミザリーが、アポロ王子の宝箱の中をじっくりと覗き込んで見ていると‥‥アポロ王子が夢の中のミザリーの首に向かって手を伸ばして来ました。

 その瞬間、ミザリーは恐怖から悲鳴を上げて夢からさめたのでした。


「ミザリーさん、まだ顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」 

「‥あっ、はい。大丈夫です。えっと‥この後はいつも通り発声のトレーニングでしたよね。」

「‥あっ、ミザリーさん。そのリハビリはもう良いんです。もう充分普通に話せるようになってきたので‥。それよりも、今日からは握力や指を動かす機能を取り戻す訓練にしましょう。」

 アンはそう言うと、丸い色とりどりの玉のついた棒を沢山挿してある木枠と、大きなパズルのような物を持ってきました。

「‥木のおもちゃ‥ですね。」

 ミザリーはもっと厳しく手指を動かす訓練を想像していたのに、可愛らしい木のおもちゃを見て拍子抜けしてしまいました。

 ですが、包帯を巻いた指で小さくて丸い玉を掴む事は案外難しくて、玉を移動するどころか掴む事すらできずにいました。  

「うーん‥。」

「‥まあ、焦らずに頑張って下さいね。」

「‥あっ、はい。」

 ミザリーはアンの声かけに空返事を返すと、しばらくはこの木のおもちゃに夢中になっていました。

 そして木のおもちゃと格闘する事数十分、ミザリーはとうとう木枠の中の全ての玉を移動させる事ができるようになりました。

「やったわ!できた!」

 ミザリーはそう叫ぶと、体の動く範囲で思いっきり伸びをしました。

「最高!」

 ミザリーはリハビリをするたびに、出来る事が増えていく喜びを噛み締めていました。声だって出せるようになったし、今日だってあんなに小さな玉を掴んで動かす事ができるようになったのです。

「これなら、いつもの汚い字じゃなくて、綺麗な字が書けるかも知れないわ。‥日記でもつけてみようかしら。」

 ミザリーは早速、机の引き出しからノートとペンを取り出そうとして、椅子から立ち上がろうとしました。

 ですが、その時急にいつもの眠気がミザリーを襲いました。ミザリーはそのまま椅子に腰掛けた状態で、床に倒れてしまいました。

 ガタンッ、

 大きな音がミザリーの部屋から聞こえたので、アンは急いでミザリーの部屋に駆けつけました。

 そして、部屋のテーブルの下で椅子ごと倒れているミザリーを発見したのです。

「ミザリーさん!」

 ミザリーはまた気を失い、深い眠りについてしまったようです。そして、また夢の中を彷徨っていました。



『ここは‥また夢の中かしら?』

 ミザリーは夢の中で、空の上から見た事のない田舎道を見ていました。すると、その道を息を切らしながら走ってくる女性が見えました。

 はぁ、はぁ、はぁ‥

「ここまで来れば大丈夫よね。‥あとは荷馬車に潜り込んで‥隣国へ向かえば完璧ね!」

『あっ、アリスさんだ。』

 ミザリーが空の上から見つけた女性はアリスでした。前回の夢ではアリスは死んだのかと思われたのに、どうやら無事に生きていたようです。

 アリスは沢山の荷物を積んで走る馬車に何度も近寄ろうとしましたが、馬車はなかなか止まってくれませんでした。

「なによ!可愛い女子がのせて欲しそうにしてたら、普通はのせてくれるでしょ!」

 アリスは目の前を通り過ぎていく馬車を何台も見送るうちに、段々と苛立ちが募っていきました。そして‥最後に見送った馬車のあとを追って走り、荷台に強引に手を伸ばして飛び乗りました。

はぁ、はぁ、

「もう、ここまで来れば大丈夫。アポロ王子や国の騎士達も私を追って来れないはずよ。‥それにしても、アポロ王子ってば、ゲームではあんなにヤバい奴じゃなかったのに‥。とんだサイコパスだったわね。咄嗟に死んだふりをして良かった。危うく本当に殺される所だったわ。」

 アリスはそう言って安堵の表情を浮かべました。そして、荷台の中にある箱を探り、偶然乗せられていた果物をいくつか食べました。

 アリスはずっと水分も食事もとっていなかったので、飢えと脱水症状で体は限界状態だったのです。

 沢山の果物を食べてお腹いっぱいになったアリスは、荷台の中を他にも役に立ちそうな物はないかと、色々と物色し始めました。ですが荷台には果物以外は何もありませんでした。

 少しがっかりしたアリスでしたが、積荷の箱の名札を見て、この馬車が陸路を通って隣国カピエラに向かっている事が分かると、嬉しそうにガッツポーズをとりました。

「やったわ!これでカピエラへ行ってお城の使用人になって、ゼウス王子のお手つきになれば‥私が将来の王妃様ね。フフフ、フフフ。」

 アリスは暗い荷台の中で激しく馬車が揺れようとも苦にもせず、隣国のゼウス王子と結ばれる日を想像しながらひたすらニヤニヤしていました。

 
 一方その頃ラクタス王国では、地下牢に繋がれていたアリスが行方不明になった事で、ちょっとした騒ぎとなっていました。

 アポロ王子はアリスを自分が殺した事を隠し通して、こっそりとアリスの死体を隠した学園裏の物置き小屋に向かいました。

 ですが、その小屋の床に寝かせて置いたアリスの死体は消えていました。

「‥生きていたというのか。おのれ!死んだふりをして俺を騙したな!可愛さあまって憎さ100倍。‥俺を散々馬鹿にしてくれた罪は、アリスの家族にも償ってもらおうじゃないか。」

 アポロ王子はそう言うと早速王にアリスが地下牢から逃亡した事を告げ、アリスの両親にもこの罪を償わせるのはどうか?と提案しました。

 王はしばらく考え込みましたが、アリスの逃亡の罪は大きいと判断してアリスの事は見つけ次第処刑する事とし、アリスの両親ファンタス子爵夫妻にも、財産や爵位の返上を命じました。

 アリスが見つかり次第処刑されると聞いたアリスの両親は、自分達の命を差し出す代わりに娘が見つかっても命だけは助けてくれるようにと懇願しましたが、その願いは叶いませんでした。

 アリスの両親はそれならいっそのことアリスが、ラクタス王国の法の権力の及ばない外国へと逃げてくれていたら‥と切に願ったのでした。

「あなた‥もしアリスがこっそり私達のもとにやって来ても、アリス一人ぐらい養えるようにしておきましょうね。」

「そうだな。ご近所さんに色々と教えてもらいながら、農地を借りて生計を立てて頑張ろうじゃないか。」

 アリスの両親は、いつかアリスに会える日を夢見て、田舎の質素な住まいで前向きに生きていく決意をしたのでした。

 



 


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