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堅物王子と汚い小人 前編
しおりを挟むとある国に、見目麗しい王子様がおりました。名前はイスール、齢は18。そろそろ結婚相手を見つけなくてはならないお年頃でした。
「イスール、舞踏会でも開こうか?そうすれば、自分で良さそうな女性を見つけられるぞ。」
「イスール、国の主要貴族の娘達を集めてお茶会を開きましょう。」
「‥‥はぁ、勘弁してください。結婚相手などどうでも良いです。放っておいて下さい。」
「‥‥。」
王様夫妻は、イスール王子に結婚相手がなかなか見つからない事を、とても気に病んでいました。
なぜなら、この国では恋愛に最も価値が置かれており、恋愛をしていない者はどんなに美しくて賢くても、人間的にどこか欠陥があるのではないかと勘繰られ、とても惨めな思いをするからです。
「‥‥イスール、お前は一体どこに心を置いてきてしまったのだ‥。」
「‥心?一体何の話ですか。‥用がないのならもう部屋に帰らせて下さい。決裁待ちの書類が溜まっているのです。」
イスール王子はそう言うとさっさと部屋に戻り、仕事に没頭しました。
そんなある日の事です。
お城の庭に汚い小人が現れました。悪臭を放ちながら、長い髪と髭をギトギトにさせ、涎と汗を撒き散らしながら庭を走り回っているのです。
「コラー、この汚い小人め!お城から出て行け!」
小人はお城の御庭番に追いかけられ、あろう事かイスール王子の足元にひっつき、肩まで登るとそのまま居座ってしまいました。
「‥王子、すみません。早く庭から追い出そうと思ったのですが‥逃げ足が早くて‥。」
「‥別に構わない。このままにしておけばいい。」
「‥えっ?」
「‥‥ちょうどいいや。このままにしておけば、誰も僕に構わなくなるだろう。」
「‥ですが王子様、そいつは‥‥うぇっ、臭っ‥とても汚いし臭いです。王子様が汚れてしまいます。」
「‥構わない。放っておいてくれ。」
王子はそう言うと、自分の部屋へ戻ってしまいました。
「‥庭が騒がしいから来てみたら‥思わぬ拾い物をしたな。」
「‥‥。」
「おい、汚くて臭い小人よ、お前はここに何しに来た?」
「‥‥。」
小人は身振り手振りで何かを伝えようとしますが、王子にはさっぱり伝わりません。
「‥汚いくせに、口もきかぬか。哀れだな。」
王子はそう言うと、自身の部屋に桶を用意して、そこに小人を入れてやりました。
「おい、自分で自分の身ぐらい綺麗にしろよ。」
小人は王子の言うがままに、己の身を清めて服を洗い、桶の水を捨てに行きました。そして、王子に対して礼をしました。
「‥お前、働き者だな。それに礼儀正しい。不法侵入で処罰するつもりだったが‥‥よし、僕の侍従にしてやろう。罰としてしばらくただ働きをしてもらおう。」
こうして少し綺麗になった小人は、王子に気に入られて側に仕えることになりました。
小人が王子の側で働くようになり、一ヶ月が経ちました。小人は長い髪を切り、髭も剃ったせいかとても可愛らしい姿となりましたし、いつも笑顔でよく働くので、お城でも人気者となりました。
「小人よ、そう言えばお前の名は何という?」
小人は、相変わらず身振り手振りで伝えようとしますが‥王子に紙とペンを手渡されて文字を書き始めました。
「‥やっぱりな。お前は賢いし、礼儀作法も身についてるから、きっと文字を書けると思っていたんだ。どれどれ‥なんて書いた?」
王子は小人の書いた文章を読んでみました。
『私は隣国のミノス伯爵家の娘、マリアと申します。家族からの虐めに耐えきれず、森に逃げたところを魔法使いのお婆さんに匿われました。
お婆さんは私の境遇を哀れに思い、小汚い小人の男性に変身させて逃してくれたのです。そうすれば、家族に見つからないだろうと言って‥。
そしてお婆さんは、転移魔法で私をお城の庭へ飛ばしてくれたのです。ここなら、家族も入って来れないだろうと‥。』
「口がきけぬのは、魔法のせいじゃないのか?」
『‥家では私が喋ると叩かれましたので、いつの間にか話せなくなってしまいました。』
「‥そうか、哀れだな。」
王子はそれ以降小人を「マリア」と呼び、可愛がるようになりました。
お城の者達や貴族達は、そんな王子の事を馬鹿にして陰で悪口を言っていました。
「王子は人間の女に相手にされないから、とうとう男の小人に女の名前を付けて可愛がるようになった。」
そんな風に馬鹿にして言っていたのでした。
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