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堅物王子と汚い小人 後編
しおりを挟む王子とマリアが共に過ごすようになってしばらくすると、マリアは徐々に言葉を取り戻していきました。
マリアは、話せるようになった事が嬉しくて、毎日何時間も王子と話すようになりました。王子も、マリアの知的でユーモア溢れる話を聞くのを楽しんでいました。
やがて王子とマリアは、本当に愛し合うようになりました。
そんな日々が続いたある日、この国が外国のお客様達を招いてパーティーをする事になりました。
王様夫妻が、外国の人達に王子が笑われないようにと、王子のパートナーを探しまわりましたが、結局見つからずに困っていると‥‥
見知らぬお婆さんがどこからともなく現れ、謎の小瓶を手渡してきました。
「これを王子に渡して、小人にかけるように伝えなさい。そうすれば、あなた達の願いは叶うでしょう。」
お婆さんは、それだけ言うとスーッと消えてしまいました。
「あなた‥。」
「‥‥やるしかないだろう。」
王様夫妻は藁にもすがる思いで、得体の知れない小瓶を王子に持って行く事にしました。
そして、その小瓶を受け取った王子はマリアに尋ねました。
「‥マリア、謎の魔法使いが君にかけるように言った得体の知れない小瓶だ。この中の液体を君にかけても良いか?」
「是非、お願いします!」
マリアの了承を得た王子は、小瓶の蓋を開けると中の透明な液体を、マリアの頭からかけてやりました。
すると‥‥
「‥あなた、あの小人が‥。」
「‥なんと、こんなにも美しいご令嬢だったとは‥。」
王様夫妻や王子の前で、マリアの体はキラキラした光を発して、やがてこの世の物とは思えないほど美しい大人の女性に変身したのです。
「‥王様、王妃様、私は隣国のミノス伯爵家の長女、マリアと申します。」
マリアは美しいカーテシーを披露しました。そして、自身の身の上話を始めました。
「‥‥私の母は私が産まれるとすぐに亡くなりました。それからしばらくして、父が家に新しい母と二人の娘を連れきました。‥‥その日から私は屋根裏に住まわされて、家事に明け暮れる毎日を過ごすようになりました。
そんな日々を何年か過ごしてましたが、家族の私への虐めは段々と酷くなり、身の危険を感じた私は、家を出て、家の近くの森へ逃げたのです。
そんな私を匿ってくれたのが、森に住む魔法使いのお婆さんでした。彼女は、私を汚い小人に変身させてお城へと飛ばしました。‥家族に見つからないようにする為です。
それからはずっと王子にお世話になり、今日に至ります。」
マリアの身の上話に同情した王妃様は、マリアに尋ねました。
「‥せっかく変身してまで逃げてきたのに、元の姿に戻ってしまって大丈夫なの?」
「‥はい。外国のお客様達もやってくるパーティーに、王子様のお相手がいないという事でしたので、私で良ければ‥と思いまして。」
そうマリアが言った途端、またマリアの体が光りだしてあっという間に、とても素敵なドレス姿へと変身してしまいました。
「まあ、なんて見事なドレスなのでしょう。まるでどこかの国のお姫様みたい。」
「‥これはまた見事だな。こんな豪華なドレスは見た事がない。」
王様夫妻は目を丸くして驚きました。マリアも、自身の思わぬドレス姿への変身に驚きましたが、心の中で魔法使いのお婆さんへお礼を言う事を忘れませんでした。
『魔法使いのお婆さん、本当に何から何までありがとう。』
イスール王子も、しばらくはマリアの素敵なドレス姿に見惚れていましたが‥‥マリアの手を取り、パーティー会場へ向かい颯爽と歩いて行きました。
二人が会場に着くなり、皆の視線が二人に釘付けになりました。自分達があんなに馬鹿にしていた王子様が、見た事もない美女を連れてパーティー会場に現れたのですから、無理もありません。
そんなまわりの視線など、気にもせずに王子はマリアをダンスに誘い、プロポーズをしました。
「‥マリア、僕と結婚してこのままこの国にいて欲しい。」
「イスール様、嬉しいです。ずっとお側にいさせて下さい。」
二人は見つめ合い、互いに愛を誓い合いました。会場の人々は、そんな二人に思わず見惚れてしまいました。
パチパチパチ、
外国のお客様達から祝福の拍手が起こりました。
「王様、これでこの国も安泰ですな。おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
王子とマリアの仲睦まじい姿を見て、王様夫妻は涙を流して喜びました。
その後、しばらくして王子とマリアは結婚しました。二人は精力的に政務をこなし、国はますます安定して栄えていきました。
それに、二人の間には三人の息子と一人の娘が産まれ、生涯家族仲良く暮らしたそうです。
マリアのいた隣国の伯爵家がどうなったかというと‥‥風の噂によれば、夫人と娘二人の浪費が原因で、領地を没収されてしまったそうです。その後自国を離れて外国で商売を始めたものの、上手くいかずにとうとう一家離散して皆行方知らずとの事でした。
一方、王子を馬鹿にしていた者達はと言えば‥‥毎日遊び呆けていたせいか、ぶくぶくと太りだし醜くなっていきました。そして、様々な病を併発して苦しむ事になりました。
彼らは、そうなってみてやっと自分達の自堕落な生活を恥じたそうです。
そして、いつしか真面目に仕事をして私生活でも慎ましく堅実に生きる王子の事を、尊敬するようになりました。
やがて国民達の間では、恋愛よりも仕事や健康に価値が置かれるようになりました。
「ねえ、結婚するならどんな人が良い?」
「王子様みたいに真面目で誠実な人!」
なんて会話が巷で聞かれるようになったそうです。
end.
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