異世界恋愛短編集

みるみる

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二人の花嫁 前編

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昔々、ある農村に両親を亡くしたばかりの二人の兄弟ザンとタキがいました。

二人は親の死後、土地を二等分に分けて独立して生活をする事にしました。
 
ずる賢いザンは早速、仮病を使って度々農作業をさぼりタキに手伝わせたり、村の人々にタキの悪口を言いふらしたりして、村人達の同情を得る事に成功し、正々堂々と仕事を休んでいました。

一方のタキは、村人達に陰口を叩かれても無視して必死に朝から晩まで働いていました。

そんなある日、二人は村長に呼ばれて同じ村に住むノーラとシェルのどちらかと結婚するように言われました。

「村にはもう未婚で年頃の女性はこの二人しかいない。だから、四人で話し合って仲良く二組の夫婦になってくれ。」

村長はそう言いますが、いきなり結婚と言われても‥と四人は困ってしまいました。四人は同じ村に住んではいましたが、村の昔からのしきたりで、成人するまでは家族以外の男女が同じ空間にいてはならない為、全く接点がなかったのです。

「‥‥よし。お前達が自分で選ばないと言うのなら、わしが決めてやろう。」

村長はそう言って、ザンにはノーラを、タキにはシェルをあてがいました。

「‥ふむ。いい組み合わせだ。」

「‥‥。」

村長の決め事に文句をつける者はいませんでした。

こうして、四人はその日から二組の夫婦として結婚生活を過ごす事になりました。

ザンは、村で一番美しいノーラが妻になった事が嬉しくて、毎日ノーラに花を贈ったり洋服を買ってやったりと、ノーラの機嫌を取り続けていました。

一方のタキは、村で一番ぽっちゃりしていて鈍臭いシェルが妻になった事を、特に嬉しいとか嫌だとか思う事はありませんでした。

それにタキは、シェルの事を女だからといって甘やかす事なく、ビシバシと農作業を教えこんでやりました。シェルもそれに必死で応えようと頑張りました。

ですが、シェルはいつしか畑に出る事を嫌がるようになりました。

何故なら、ぽっちゃりして鈍臭いシェラが、畑で鍬を持ち上げてひっくり返る姿や、野菜の苗を植えようとして転んで苗を台無しにしてしまう様を、村人達が笑って馬鹿にしてくるからでした。

「タキ、私が畑に出ればあなたが村の人達に笑われてしまうわ。‥私は家に閉じこもっていた方がいいのかもしれないわ。」

シェルがそう言うと、タキはシェルの顔を真っ直ぐに見て言いました。

「‥シェル、村の人達が何を言ってきても気にしない事だ。‥僕は頑張り屋で真面目な君が好きだよ。君が妻になってくれて良かったと思ってる。」

タキはそう言って、シェルを優しく抱きしめてやりました。シェルはタキの言葉を聞いて、嬉しくて溢れ出てしまった涙を手で拭うと‥気合を入れて、笑顔で畑に向かいました。

「よし!今日も頑張るわ!」
 
そう言って畑に鍬を掲げて向かうシェルを見て、タキは心からシェルの事を可愛いと思いました。


そんな二組の夫婦を見て村人達は、陰で『当たりをひいたザンと、ハズレをひいたタキ』と言って、タキとシェルの夫婦の事を馬鹿にして笑っていたのでした。


そんな日々が二年以上続いたある日の事です。

村の収穫祭で、村で一番素敵な女性は誰かを競う大会を行う事になりました。

これは、日頃畑仕事と家事を頑張る村のご婦人方の事を労い、褒め称える為に領主様が考えた催しでした。‥というのは表向きの理由で、実際は素晴らしい人材を発掘する為のオーディションなのでした。

大会当日、ザンは美しい妻のノーラに村で一番素敵な洋服を着せました。‥‥ちなみにこの洋服は、ザンとノーラが泣きついてシェルに仕立てさせた洋服でした。勿論生地もシェルに用意させました。

一方タキは、シェルの日頃の頑張りに対するご褒美として、新品の洋服を用意していました。

「わぁ、軽いし動きやすい。それにシンプルで可愛いわ。ありがとう。」

「シェル、よく似合うよ。‥あとそれね、僕の手縫いなんだよ。」

「タキ、なんて素敵なの!ありがとう!」

シェルは嬉しくて思わずタキに抱きついてしまいました。

「アハハハ、喜んでくれて嬉しいよ。それに今日はきっとシェルが優勝するよ。」

「まぁ、タキったら‥。それはないわ。こんな村の笑い者の私なんて‥。」

「‥シェル、何を言ってるんだい?村の人達はもう君の事を笑わないと思うよ。だって君は‥‥。」

タキがそう言いかけた時、女性達に招集がかかりました。シェルもタキに手を振って、ステージの方へ走って行きました。

「シェル、君はこの二年でとても変わったんだ。だからもっと自分に自信を持って!」

タキは大声でシェルにエールを送りました。騒がしい会場内の声で、タキの声はシェルには聞こえなかったようですが‥。


村の女性達が次々とステージに上がっていき、いよいよ大会が始まりました。
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