異世界恋愛短編集

みるみる

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消えた救世主

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昔々‥ある国にとても欲深い王様がいました。王様は戦争で勝つたびに領土が広がっていく事に味をしめ、次々と外国に戦争を仕掛けていきました。

その為、王様の国の戦力はすぐに底をついてしまい、今や滅亡の危機にありました。

王様は言いました。

「そうだ、異世界から救世主を呼ぼう。そして、戦争で戦って勝利してきてもらおう。」

王様のその言葉を受けて、早速国中の魔法使い達が王様の部屋に集まりました。そして試行錯誤の末、とうとう魔法陣を使って異世界の救世主を呼ぶ事に成功しました。

‥ところが救世主は魔法陣の中には現れず、どこか違う場所へ召喚されたようでした。

「‥探せ!救世主をすぐに探し出せ!」

そんな王命を受けて、王様の護衛騎士の一人であったヨハンが救世主を探しに行く事になりました。

ヨハンは馬に乗り、山を越え谷を越え、また山を登り、当てもなく救世主を探し続けました。

「急がねば、急いで王様のもとへ救世主を連れて行かねば。」

そう言いながら、必死に馬を走らせました。

そしてついに救世主らしき人物を見つけたのです。山の麓に広がる森の中の湖上に浮かぶ不思議な洋服を着た若い女性を‥‥。

彼女は目を閉じて湖の上に浮かんでいましたが、しばらくすると目を開けて、ゆっくりと水面上を歩き湖のほとりへ行きました。それから辺りをキョロキョロと見回しながら‥よく分からない言語で泣き叫び、しゃがみ込んでしまいました。

ヨハンはその様子を見て、彼女が間違いなく異世界から召喚された救世主だと確信しました。

ですが、彼女を王様のもとへ連れて行っていいものかどうか迷いました。

何故なら、救世主は屈強な戦士かと想像していたのに、実際に目の前にいたのが弱々しい女の子だったからです。

「‥俺はこの子を王様のもとへ連れて行って、戦場に送り出さなきゃいけないのか?‥この子は戦場に行けばすぐに死んでしまうかもしれないのに‥‥。」

ヨハンはしばらく彼女の様子を伺っていましたが、ついに決心しました。

「俺はこの子を王様のもとへ連れて行かないぞ。」

ヨハンは後ろを振り返り、お城の方を見ました。欲深い王様のせいで街も何もかも燃え尽きてしまいました。

国民が戦争でたくさん亡くなって、苦しい思いをしているというのに‥王様はいつも安全なお城の中で、ワインを飲みながら豪華な食事をしていました。

そして、さらに国民達から戦士を招集し、ついにはこんないたいけな女の子まで異世界から無理やり召喚し、戦場に送り出そうとしていたのです。

「‥彼女は異世界から無理やり召喚されて、きっと心細いに違いない。俺がこれからずっと彼女を守っていくぞ。」

ヨハンはそう覚悟を決めて、彼女のもとに向かいました。もう二度とお城へは帰らない覚悟を決めて‥‥。

彼女は近づいてきたヨハンを最初は警戒しましたが、長い時間をかけて一緒に過ごす内に、やがて二人は恋仲になり結ばれました。

二人が森で暮らす事を決めてから、彼女はヨハンに次々と魔法を披露してくれました。

まずは二人で住む家を一瞬で出現させて、それから家のまわりに畑を作ってしまいました。

それに‥街や村の戦火を逃れてやってきた人達の家まで作ってしまい、更には森全体に結界を張り、森が外から攻撃されないようにしてしまいました。

おかげで森の中はずっと平和が保たれ、森の中に逃れてきた人々もそこに定着することができました。

救世主が森に現れてから何十年かが経ち、森の外の世界が全て荒れ地になった頃、ようやく世界から戦争が消えました。

戦争によって人々も動物も木々も全て焼け尽きてしまったからです。勿論欲深い王様も、とっくの昔に亡くなっていました。

欲深い王様は、敵に攻められた際に皆がお城を守って必死に戦っている中を、宝石やお金を持ってこっそり一人で逃げようとしたのですが‥‥すぐに敵に見つかり、殺されたようです。


「ヨハン、子供や孫達の事を宜しくお願いしますね。」

「‥何を言うんだ、さくら。君にはまだまだ生きていて欲しいんだ。頼む、死なないでくれ。」

救世主は100歳を越えてから体の不調を訴えるようになり、とうとうベッドから起きられなくなりました。

救世主のまわりには夫のヨハンや子供に孫達が集まっていました。

「私が死んでも、この森の結界は保たれるようにしておきました。‥あと、今後森の人々が森から出て、荒地から世界を作り直す気になったら‥‥私が魔法で作った機械を貸してあげて下さい。それから‥‥。」

救世主は、自分が亡くなった後に皆が困らぬように、沢山の遺言をのこしてくれました。

「‥それから‥ヨハン、あなたに最後に言いたい事があるの。ずっと隠していたけど、実は私ね、ここではない世界からこっちの世界に召喚された救世主だったの。‥黙っててごめんなさい。」

救世主は、ようやく真実をヨハンに伝えて安心したのか、穏やかな笑顔を浮かべました。

「さくら、ごめん。俺もずっと黙っていたが、実は俺は救世主の君を探し出して、王様のもとへ連れて行き、戦場に送り出す命を受けていたんだ。‥‥だが君を見た途端、君を戦場に送り出すのが嫌で、この森に閉じ込めてしまった。」

ヨハンも、やっと自分の中に長年抱えていた秘密を、さくらに打ち明ける事ができました。

二人は、微笑み合い手を繋ぎました。

そして‥ヨハンや家族達に見守られながら、救世主さくらは息を引き取りました。

息を引き取ったさくらの顔は、とても幸せそうな笑顔でした。


end.
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