異世界恋愛短編集

みるみる

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鏡の中 前編

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昔々、ある国に醜い姫がいました。姫はそのあまりの醜さゆえ家族から『物の怪姫』と呼ばれていました。

そんな姫とは反対に、お城には美しいと評判の王妃と物の怪姫の一歳下にサフラン姫がいました。彼女達は美しいだけでなく、賢くて心も優しいので、国中から愛されていました。そんな王妃とサフラン姫を、王様もたいそう可愛がっていました。

物の怪姫‥いえ、アイリス姫は、自身の醜さをよく知っていましたので、物心ついた頃からずっとお城の奥の部屋に閉じこもって過ごしていました。

立派な王様や美しい王妃やサフラン姫に会って、自分が惨めな思いをする事がないようになるべくその部屋からは出ないようにしていたのです。

そんなアイリス姫が16歳になった時、お城で夜会が開かれる事になりました。

王妃様とサフラン姫のドレスを作るために、デザイナーがお城に訪れていました。アイリス姫のドレスは‥この時作られる事はありませんでした。

お城の奥の部屋に閉じこもりっぱなしのアイリス姫は、どうせ夜会にも出ないだろうという事で、ここ何年か新しいドレスが作られる事が一切なかったのです。

あの優しいと評判の王妃様とサフラン姫ですら、アイリス姫のドレスを作ってあげましょう‥とは言わなかったそうです。

寧ろ、王様も王妃様もサフラン姫も、醜いアイリス姫を人目に触れさせたり、アイリス姫の為にお金を使う事を嫌がっているようにも見えました。王様達はとても美意識が高く、そしてとてもケチだったのです。

アイリス姫は自分の服を見て、だいぶボロボロになっていた事に気付きました。

「‥私の部屋に何か良い生地があったかもしれないわ。」

そう言って、自分が閉じこもっていたお城の奥の部屋の棚から、いくつかの古い生地を引っ張り出して何日もかけてドレスを作り上げました。

アイリス姫は実際にその服を着てみた姿を見てみたくて、鏡を探しました。しばらく探してみたところ、部屋の奥に布をかけられた大きな鏡を見つけました。

かけられていた布を外し、埃をはらいました。鏡は長年使われなかったせいかくとてもくもっていました。それでもアイリス姫はその鏡の前に立ち、ドレスを着た自分を見ようと目を凝らしました。

すると、そこには見たこともないほど美しい女性が立っていました。しかも、アイリスの作ったドレスを着た状態で‥。鏡は先程までくもっていたのが嘘のように、鮮明にその姿を映していました。

おまけに鏡の中にいるその女性は、同じく美しい身なりの男性に手をとられてダンスを踊っていました。

アイリス姫は、鏡の中の人物が勝手に動き出したことに驚いたものの、その映像に釘付けになっていました。

しばらく映像を見ていると、男性がその女性にプロポーズをし、女性もそれを喜んで承諾している様子が映し出されました。

アイリス姫は、まるで絵物語を見ているような気持ちでその鏡の中の映像を見ていたので、二人のプロポーズのシーンでは、感動をして涙を流してしまいました。

「‥‥ああ、なんて素敵な映像なの。‥それにしても‥あんな美しい女性、このお城にいたかしら。どうして私の作ったドレスを着ていたのかしら。‥‥それに、あれはもしかして誰かの未来を映し出した映像かもしれないわね。」

アイリス姫はそう言って鏡を凝視しました。ですが、あの男女のプロポーズのシーン以降、鏡はあの映像はおろかアイリス姫の姿すら映してはくれませんでした。
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