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闇の中 前編
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とある国の大富豪バスキン家には、同じ年頃の娘が二人いました。
焦げ茶の髪に茶色の目のジャンヌと、金髪に緑の瞳のスージーです。
スージーとは違いジャンヌは愛人の娘でしたので、ずっと郊外の別宅でひっそりと暮らしていました。
ジャンヌが15歳になる頃、ジャンヌの母親が亡くなり、ジャンヌは本邸に引き取られる事となりました。
「スージー、ジャンヌは卑しいジプシーの子よ。仲良くしては駄目。」
「はい、お母様。」
お母さんとスージーは、愛人の娘であるジャンヌに冷たく当たりました。ですが、ジャンヌはそれも当然の事として受け入れていました。
そんなある日、スージーとジャンヌの家の隣にハンスという少年と家族が引っ越してきました。
二人は優しくて賢く爽やかなハンスにいつしか恋をしてしまいました。
「ハンス、今日もまた家に来て。」
「いいよ。」
ジャンヌの知らないところで、スージーとハンスは徐々に打ち解けていき、やがて二人だけで部屋で過ごすようになりました。
ジャンヌは居た堪れなくなり、ハンスがスージーの所へ来た日は、屋敷の外へ出てしばらく過ごすという日々を過ごすようになりました。
「‥ジャンヌ、ジャンヌじゃないかい?」
屋敷の外でフラフラしているジャンヌに声をかける男がいました。
「‥デュラン、あなたこそこんな所で何をしてるのよ。」
「‥こっそりジャンヌの様子を見に来たんだ‥なんて言ったら信じるか?」
「‥信じる。デュランは昔から私に優しいもの。昔は本当にお兄さんだと思ってたもの。」
デュランは、ジャンヌが郊外で母親と暮らしている時によく遊びに来ていた少し歳上の男性でした。ジャンヌにとっては気さくで優しいお兄さんのような存在でした。
「‥ジャンヌ、さっきから屋敷のまわりをフラフラしてるけど‥‥屋敷にいたくないのかい?」
「うん、今はね。」
「‥ジャンヌ、なら買い物や食事にでも行こうか。」
「‥デュラン、だってお金‥。」
「お金なら沢山あるから大丈夫。」
デュランはそう言ってジャンヌの手を取り歩き始めました。
道中、黒い服装を身につけた大人達と何回もすれ違いましたが、皆二人を見るとすぐに礼をしてきました。
「‥デュランってもしかして偉い人?」
「まさか!‥普通の商人の息子だよ。」
デュランはそう言って笑いますが‥飲食店での店員の態度も明らかにデュランとジャンヌを特別扱いしていました。
デュランは食事の後、ジャンヌに宝石店で小さな石のついたネックレスをプレゼントしてくれました。
ジャンヌはまるで夢のような時間を過ごせた事で、スージーとハンスの事などどうでも良くなりました。
デュランはジャンヌを屋敷まで送るとさっさと帰ってしまいましたが‥ジャンヌはデュランとの楽しい思い出の余韻に浸っていました。
ジャンヌが屋敷の廊下を歩いていると、前からきたスージーに見つかってしまいました。
「‥ジャンヌ、あんたどこに行ってたの?」
「知り合いと食事に出かけていました‥。」
「‥お金なんて持ってないでしょう。‥さては男ね。奢って貰って、そのネックレスまで貰ったんだ。」
「‥‥!」
ジャンヌはネックレスを身につけていた事をすっかり忘れていました。スージーやお母さんに見つかってしまえば、ネックレスを取り上げられる事が分かっていたのに‥。
後悔するも遅く‥デュランからプレゼントされたそのネックレスは、案の定スージーに奪われてしまいました。
「‥何、この小さな石は‥。しょぼいネックレスね。」
「スージー返して!」
「‥駄目よ、あんたが男からプレゼントを貰うなんて生意気なのよ。」
「‥スージー、それだけは駄目よ、返して!」
「‥‥嫌よ!」
スージーは、そう言ってジャンヌのネックレスを窓から外の木々の中へ投げてしまいました。ネックレスは、木のどこかの枝に引っかかったようです。
「‥欲しかったら木に登って探してらっしゃい。ホホホ。」
「‥‥。」
ジャンヌは外へ出て木の下へ来ました。外はもう夜でしたので、闇の中でネックレスが木のどの枝に引っかかっているのか分かりませんでした。
ですが‥夜空の雲の隙間から月が姿をあらわした時、木の枝に光るものを見つけました。
「‥見つけたわ!」
ジャンヌはワンピースの裾を捲し上げ、木に登ろうと足をかけました。
「ジャンヌさん、僕が取りましょうか?」
ジャンヌが声のする方を振り向くと、そこにハンスがいました。
「‥ハンス‥。」
「さっきあなたとスージーがもめている所を見てしまったんです。‥あなたはああやっていつもスージーにいじめられていたんですね。可哀想に‥。」
ハンスはそう言って、なんの躊躇いもなく木を登り、キラリとひかるネックレスをとって来てくれました。
「‥ジャンヌさん、これ‥男からのプレゼントですよね。そいつはあなたの恋人ですか?」
「私のお兄さんのような人なの。いつも私が困っていると助けてくれる‥優しい人なの。」
ハンスはネックレスを手にしたまましばらく考え事をしていましたが‥ジャンヌが手を差し出すと、渋々返してくれました。そして、ネックレスを持ったジャンヌの手にキスをしてきました。
ハンスは驚いた様子のジャンヌに対して更に言葉を続けました。
「ジャンヌさん。僕はあなたを愛しています。」
「‥なぜスージーでなく私を?」
「‥いつも控えめな所や芯の強そうな所に惹かれてしまいました。」
「‥でも今まで一度もあなたに話しかけられた事ないわ。」
ジャンヌはハンスを不審に思いました。
「‥ジャンヌさん‥。」
ハンスの顔がジャンヌの顔に近づいてきたその時‥
キャーッ!
屋敷の中きらスージーの叫び声が聞こえました。ハンスとジャンヌは慌ててスージーのもとへ向かいました。
焦げ茶の髪に茶色の目のジャンヌと、金髪に緑の瞳のスージーです。
スージーとは違いジャンヌは愛人の娘でしたので、ずっと郊外の別宅でひっそりと暮らしていました。
ジャンヌが15歳になる頃、ジャンヌの母親が亡くなり、ジャンヌは本邸に引き取られる事となりました。
「スージー、ジャンヌは卑しいジプシーの子よ。仲良くしては駄目。」
「はい、お母様。」
お母さんとスージーは、愛人の娘であるジャンヌに冷たく当たりました。ですが、ジャンヌはそれも当然の事として受け入れていました。
そんなある日、スージーとジャンヌの家の隣にハンスという少年と家族が引っ越してきました。
二人は優しくて賢く爽やかなハンスにいつしか恋をしてしまいました。
「ハンス、今日もまた家に来て。」
「いいよ。」
ジャンヌの知らないところで、スージーとハンスは徐々に打ち解けていき、やがて二人だけで部屋で過ごすようになりました。
ジャンヌは居た堪れなくなり、ハンスがスージーの所へ来た日は、屋敷の外へ出てしばらく過ごすという日々を過ごすようになりました。
「‥ジャンヌ、ジャンヌじゃないかい?」
屋敷の外でフラフラしているジャンヌに声をかける男がいました。
「‥デュラン、あなたこそこんな所で何をしてるのよ。」
「‥こっそりジャンヌの様子を見に来たんだ‥なんて言ったら信じるか?」
「‥信じる。デュランは昔から私に優しいもの。昔は本当にお兄さんだと思ってたもの。」
デュランは、ジャンヌが郊外で母親と暮らしている時によく遊びに来ていた少し歳上の男性でした。ジャンヌにとっては気さくで優しいお兄さんのような存在でした。
「‥ジャンヌ、さっきから屋敷のまわりをフラフラしてるけど‥‥屋敷にいたくないのかい?」
「うん、今はね。」
「‥ジャンヌ、なら買い物や食事にでも行こうか。」
「‥デュラン、だってお金‥。」
「お金なら沢山あるから大丈夫。」
デュランはそう言ってジャンヌの手を取り歩き始めました。
道中、黒い服装を身につけた大人達と何回もすれ違いましたが、皆二人を見るとすぐに礼をしてきました。
「‥デュランってもしかして偉い人?」
「まさか!‥普通の商人の息子だよ。」
デュランはそう言って笑いますが‥飲食店での店員の態度も明らかにデュランとジャンヌを特別扱いしていました。
デュランは食事の後、ジャンヌに宝石店で小さな石のついたネックレスをプレゼントしてくれました。
ジャンヌはまるで夢のような時間を過ごせた事で、スージーとハンスの事などどうでも良くなりました。
デュランはジャンヌを屋敷まで送るとさっさと帰ってしまいましたが‥ジャンヌはデュランとの楽しい思い出の余韻に浸っていました。
ジャンヌが屋敷の廊下を歩いていると、前からきたスージーに見つかってしまいました。
「‥ジャンヌ、あんたどこに行ってたの?」
「知り合いと食事に出かけていました‥。」
「‥お金なんて持ってないでしょう。‥さては男ね。奢って貰って、そのネックレスまで貰ったんだ。」
「‥‥!」
ジャンヌはネックレスを身につけていた事をすっかり忘れていました。スージーやお母さんに見つかってしまえば、ネックレスを取り上げられる事が分かっていたのに‥。
後悔するも遅く‥デュランからプレゼントされたそのネックレスは、案の定スージーに奪われてしまいました。
「‥何、この小さな石は‥。しょぼいネックレスね。」
「スージー返して!」
「‥駄目よ、あんたが男からプレゼントを貰うなんて生意気なのよ。」
「‥スージー、それだけは駄目よ、返して!」
「‥‥嫌よ!」
スージーは、そう言ってジャンヌのネックレスを窓から外の木々の中へ投げてしまいました。ネックレスは、木のどこかの枝に引っかかったようです。
「‥欲しかったら木に登って探してらっしゃい。ホホホ。」
「‥‥。」
ジャンヌは外へ出て木の下へ来ました。外はもう夜でしたので、闇の中でネックレスが木のどの枝に引っかかっているのか分かりませんでした。
ですが‥夜空の雲の隙間から月が姿をあらわした時、木の枝に光るものを見つけました。
「‥見つけたわ!」
ジャンヌはワンピースの裾を捲し上げ、木に登ろうと足をかけました。
「ジャンヌさん、僕が取りましょうか?」
ジャンヌが声のする方を振り向くと、そこにハンスがいました。
「‥ハンス‥。」
「さっきあなたとスージーがもめている所を見てしまったんです。‥あなたはああやっていつもスージーにいじめられていたんですね。可哀想に‥。」
ハンスはそう言って、なんの躊躇いもなく木を登り、キラリとひかるネックレスをとって来てくれました。
「‥ジャンヌさん、これ‥男からのプレゼントですよね。そいつはあなたの恋人ですか?」
「私のお兄さんのような人なの。いつも私が困っていると助けてくれる‥優しい人なの。」
ハンスはネックレスを手にしたまましばらく考え事をしていましたが‥ジャンヌが手を差し出すと、渋々返してくれました。そして、ネックレスを持ったジャンヌの手にキスをしてきました。
ハンスは驚いた様子のジャンヌに対して更に言葉を続けました。
「ジャンヌさん。僕はあなたを愛しています。」
「‥なぜスージーでなく私を?」
「‥いつも控えめな所や芯の強そうな所に惹かれてしまいました。」
「‥でも今まで一度もあなたに話しかけられた事ないわ。」
ジャンヌはハンスを不審に思いました。
「‥ジャンヌさん‥。」
ハンスの顔がジャンヌの顔に近づいてきたその時‥
キャーッ!
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