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不思議な鳥 前編
しおりを挟む父が再婚をした。新しく僕の母になったのは、僕より6つ上の綺麗なお姫様だった。
母は両国の友好の証として、ヘイレン公爵家の父のもとに嫁いできたのだ。
「ダミー、今日からお前の母親になるサクラだ。」
「‥ダミー、宜しくお願いします。」
「こちらこそ宜しくお願いします。」
型通りの挨拶をして、母は父と共に僕の前をすぐに去っていった。
僕はこの時母に一目惚れをした。
長い栗毛色に緑の瞳、華奢な身体‥まるで少女のような母だった。僕は‥彼女を母と呼ぶのが何となく嫌だった。
サクラ‥いや、お母さんは結婚後すぐに妊娠した。まだそんなに膨らんでいないお腹をさすりながら不安げに窓辺に佇む母に、僕は話しかけた。
「‥お母さん、大丈夫ですか。ご懐妊のお祝いに何か贈りたいのですが‥何がよろしいですか。」
「‥ダミー、ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。」
「‥‥。」
僕は母と別れるとすぐに街へ行って何か女性が喜びそうな物を売っている店を探した。母は何もいらないと言ったが、僕がどうしても母の喜びそうな物をプレゼントしたかったのだ。
街の中を散々歩き回っていると、燻ったような香りが鼻をついてきた。僕はその香りに誘われるようにして、異国情緒溢れる見知らぬお店に入ってしまった。そしてまるで導かれるように‥そのお店の奥へと僕は進んでいった。
店の奥には店主がいて、僕が何も言わないうちに黙って鳥籠を手渡してくれた。中には空色の綺麗な小鳥が入っていた。つぶらな黒目をパチパチさせて首を傾げる様がとても可愛い鳥だった。
「30ペルです。」
「‥どうして僕に鳥を売ろうとするのですか?」
「‥このお店の商品はお客様を選ぶのです。つまり‥この鳥があなたを選んだのです。」
「‥‥。」
僕はお金を払うと、鳥籠を持ってすぐに店を出た。
店主は店を出る僕を見送りもせずに、ずっと店の奥に隠れたままニヤリと笑っていた。
僕は何となく不思議な気持ちになったが、ただこの小鳥の事はとても気に入っていた。これならサクラも喜ぶだろうと思われた。
案の定サクラは喜んだ。
「可愛らしい小鳥ね。ダミー、ありがとう。」
サクラは早速部屋にスタンドを用意し、僕の買ってきた鳥籠を吊るした。
「‥可愛い小鳥さん、あなたの名前はロメロにしましょう。」
「‥ロメロ‥?」
「ええ、適当に名付けたのだけど、変かしら?」
「いえ、可愛い名だと思います。」
サクラはロメロをとても可愛がった。毎日のように話しかけ、手の上にのせて頭を撫でていた。
サクラはとても明るくなった。これも小鳥のロメロのおかげだと思うと、ロメロを買ってきた僕もなんだか嬉しくなった。
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