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不思議な鳥 後編
しおりを挟むサクラが妊娠安定期に入った時、僕の父が亡くなった。
サクラは実家からの持参金の返還と実家へ帰る事を願い出た。
だが僕は、お腹の子の養育の為にこの家に残るようにと必死にサクラに頼んだ。
サクラは‥‥少し考えたいと僕に言った。僕はそれを受け入れて、サクラの返事をおとなしく待つ事にした。
僕はその間、部屋で落ち着かない時間を過ごしていた。意味もなく歩き回ったり、窓の下を眺めたりして、サクラがまた帰りたいと言ったら何と説き伏せようか、そればかり考えていた。
それに、僕は次にサクラを引き止める時、お腹の子の父親になりたいから結婚しようとプロポーズをしようと決意までしていたのだ。
そんな僕のいる部屋に、可愛らしい訪問者がやって来た。外から窓を開けてくれとばかりに、ガラスをコンコンと嘴でつつくロメロだった。
「‥ロメロ!お前、サクラのもとから逃げてきてしまったのか。」
ロメロは、僕が窓を開けると手の上にのって僕に話しかけてきた。
「‥私、ロメロが好き。ロメロと一緒になりたい。」
ロメロはサクラの声そっくりに話し始めた。
「‥ロメロ!お前人の言葉を話せるのか!?」
僕は驚いてしまった。だが、ロメロはそんなことなどお構いなしに話し続けた。
「‥ロメロ、旦那様にこれを飲ませるのね。これを飲ませると旦那様は‥眠ったように亡くなると言うのね。‥分かったわ。」
「‥サクラ、愛してる。俺と共にここを出て一緒に暮らそう。」
ロメロが声色を変えて男声でそう言った時、僕は嫌な勘ぐりをしてしまった。
サクラが誰かと密通していた?そして父を殺したのか?
「‥ロメロ、旦那様はこの薬を入れたお酒を飲んで今寝てるわ。‥この薬をどうしましょう?」
「‥あの大きな楠の下に埋めておこう。」
「‥分かったわ。」
「‥愛してるよサクラ。幼い頃からずっと。」
「私もよ。ロメロ‥計画通りね。でも‥ダミーにここに残る様に言われてしまったの。今は返事を待って貰ってるの。」
「‥ならこのままそっと屋敷を出よう。なるべく金目の物を持てるだけ持って出て行こう。」
ロメロはそれだけ話し終わると、黙ってしまった。
僕はロメロの話を聞いて、これがサクラと誰かの会話の再現だと確信した。それに、サクラの好きな相手の名がロメロだという事も‥。
そして‥サクラがロメロと共に、今まさにこの屋敷から逃げ出そうとしている事を知った。
僕は屋敷の者を呼び、屋敷から出ていこうとするサクラと、彼女と共にこの屋敷にやってきた従者のロメロを捕らえるように指示を出した。
屋敷の者が二人を見つけた際、サクラとロメロは大量の荷物を抱えて逃げ出そうとしていたところだったという。
二人は大人しく捕まったものの、何故逃げ出そうとした事が分かってしまったのかを不思議がっていたらしい。
その後、正式な国の取り調べでサクラがロメロと共謀して父を殺した事が分かった。それに証拠の毒薬も楠の下から発見された。これで、二人の罪は確定した。
サクラのお腹の子は‥実はサクラとロメロの子だったらしい。サクラは父との行為の前後に避妊薬を飲んでいたのだ。‥だから、サクラのお腹の子はロメロ以外には考えられなかった。サクラと毎晩のように逢瀬を楽しんでいたロメロ以外には‥。
サクラはこの国の教会で死ぬまで過ごす事となった。この国には死刑制度がないので、その事によりお腹の子も救われたのだった。
サクラはその後男の子を出産したという。子供は孤児院に預けられた。
一方のロメロは、国外追放となった。こんな事があった為母国にも帰りにくいだろう‥きっとどこかの見知らぬ国で慎ましく生きている事だろう。
僕はサクラのいなくなった部屋から鳥のロメロを自分の部屋へ移した。
ロメロはあの日以来話さなくなってしまったが、僕は毎日のようにロメロに話しかけた。ロメロはその可愛らしい見た目と仕草で、傷心の僕をいつも癒してくれた。
「‥ロメロ、そろそろお前の名前を変えていいかい?何だか‥その名はさすがにないかなって思えてね。」
僕はそう言ってロメロの名前を考え始めた。
すると‥ロメロは一言だけ言葉を発した。
「リーチェン」
「リーチェン?お前がその名が良いと言うのなら、そうしよう。」
この日から鳥のロメロは、リーチェンとなった。
その後、僕はとある令嬢と結婚した。妻は大人しくて芯の強い素晴らしい女性だった。
結婚して一年後、妻は男の子を出産した。名前は‥リーチェンにした。
「リーチェン‥リーチェンはこの国の王の祖父となる男‥。リーチェン。」
鳥のリーチェンが、妻の出産前日に僕にそう言ったからだ。
鳥のリーチェンは、僕の息子リーチェンが産まれた日に鳥籠を逃げ出してしまった。
それっきりダミーのもとには帰ってこなくなってしまった。
その後リーチェンは成人して結婚し、その娘が王妃となった。
そして‥鳥のリーチェンの予言した通り、その息子がこの国の王となった。
その王の肖像画が後世まで残っているが、王の手の上には、王が長年可愛がっていた空色の鳥が描かれていたという。
end.
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