異世界恋愛短編集

みるみる

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優柔不断な男 2

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 旅の2日目、6人は昨日とは打って変わり皆無言で歩を進めていました。


 6人は山頂に向かって順調に距離を縮めていたので、当初の予定では4日目に山頂にたどり着くはずでしたが、3日目の明日には余裕でたどり着けそうな勢いでした。ですが、女性陣の疲労した様子を見てブロウは先を急ぐ事をやめました。


 辺りを見回し、火を起こして皆が横になれそうな場所を探していると、何百メートルも先に木造の小さな小屋があるのが見えました。
 

「さあ、今日はあそこで寝よう。」


 ブロウがそう言って皆を誘導していった小屋の中は、古くて電気も床もない小屋でしたが雨風をしのぐ分には十分な建物でした。土間の真ん中には火をおこせる場所もありましたし、壁際には沢山の薪が積んでありました。それに小屋の外には簡易な調理場も備え付けられていました。


 マリアンが壁に立てかけてあった丸まったムシロを土間に敷くとブロウが火を起こし始めました。

 それを見た他の4人もそれぞれに自分の役割を見つけて動き始めました。


 ノキアとローラが仲良く料理を始めると、後からマリアンも二人のいる調理場にやって来ました。

 マリアンは男性陣から今日の分の食材として受け取った芋を川で洗ってきて持ってくると、先に調理を進めていた二人に声をかけました。


「芋を洗ってきたわ。このまま皮を剥けばいい?」


「‥‥あっ、そうね。お願いね。」


 ノキアが気まずそうに返事を返そうとすると、ローラが苛々した様子でそれを遮りました。


「皮を剥くのかだなんて、そんな分かりきった事をいちいち聞かないで。時間の無駄!それに‥ここは私とノキアだけで間に合うんだから、あんたは他所へ行っててちょうだい。」


「‥分かったわ。」


 マリアンはローラがなぜ自分に対してそんな酷い言い方をするのか不審に思いながらも、とりあえずはローラの言う通り調理場から離れる事にしたのでした。


「‥‥ローラ、マリアンと何かあった?」


 ノキアが心配そうにローラにそう訊ねると、ローラはニッコリ笑って首を横に振りました。


「ううん、何もないよ。‥ちょっと疲れちゃって苛々しちゃったみたい。」  


「‥そっか。結構歩いてお腹も減ったし苛々もするよね。」


「‥あら、この芋‥マリアンったら本当にしっかりと洗ってきたのかしら?泥だらけよ。洗い直さなきゃ。」


「泥だらけ?綺麗に洗ってあるじゃない。このままでいいんじゃない?皮を剥いてさっさと茹でてしまいましょうよ。」


「いいえ、駄目よ。汚いわ、とっても汚いわ!もっと洗わないと‥とても口には入れられないわ!」


 ローラはそう言うと、芋の入った籠を持ち上げ川へと向かい走って行ってしました。


「‥せっかく湯が沸いたのに芋を入れれないなんて‥。これじゃいつまで経ってもふかし芋が出来ないわ。」 


 一人調理場に取り残されたノキアが、沸騰した鍋を前にして途方にくれているとそこへブロウがやってきました。


「ノキア、どうしたんだ。他の女達は職場放棄か?」


「‥マリアンが洗ってきた芋がまだ汚いからと言って、ローラが川へ芋を洗い直しに行ってしまったの。マリアンも‥どこかへ行ってしまったわ。」


「‥マリアンは何をやってるんだ!芋もまともに洗えない上に職場放棄か、いい身分だな。」


「‥‥。」


 ノキアは、ブロウがマリアンの悪口を言うのを聞いて嬉しさのあまりにやけそうになるのをぐっと堪えて、敢えて悲しそうな表情を作りブロウを見つめました。


 ノキアはブロウと別れてユリシスと付き合う事になっても、実はまだブロウの事が好きでした。


ブロウに別れを告げたのだって‥いつまでたっても自分にプロポーズをして来ない彼を焦らせようとして、わざと別れを告げただけなのでした。


 ですが、ブロウはノキアに別れないでくれと縋ることはありませんでした。ノキアの心変わりをそのまま受け入れてしまったのです。


 そこで、ノキアはブロウの気持ちを自分に再び向けるべく、以前から自分に言い寄っていたユリシスとの交際を始めたのでした。


 すると、ノキアの思惑通りブロウはノキアと付き合い始めたユリシスに対して頻繁に突っかかるようになりました。ブロウにとってノキアが誰か他の男のものになる事は耐え難い事だったのです。


 ですが、そんな日々がずっと続く中、ブロウもいつの間にかノキアに相談もなしに勝手にマリアンとの婚約をしてしまいました。


 ノキアは、自分だけをずっと想い続けてくれていると信じていたブロウに裏切られて悔しさと悲しさで何日も泣きました。そしてそれ以降ブロウとは距離を置くようになりました。


 それなのに‥今回の旅で久しぶりに触れ合う中で互いの想いの強さを自覚し、再び体を重ねてしまったのです。


「ノキア、やっぱり俺は君が好きだ。君が俺とまた付き合ってくれるというのなら、マリアンとは別れる。だからまた俺と付き合ってくれ。」


「‥ブロウ、あなたの気持ちは嬉しいけど私はユリシスと結婚の約束をしてしまったの。‥彼はね、結婚を前提に私と付き合おうと言ってくれたの。‥彼の家族にももう挨拶を済ませてしまったし‥。」


「そんな‥なら俺はどうすれば‥。」


「‥‥。」


『ブロウったら!どうすれば‥なんて言ってないでさっさとマリアンを振ってユリシスと決闘でも何でもして、私に早く求婚すれば良いじゃない!私をそんなに好きならどうしてプロポーズしないのよ!あなたがプロポーズさえしてくれれば私は‥‥ユリシスとは別れるつもりなのに!』


 ノキアは心の中でそう毒づきながらも、決して本心を口に出す事はなく、ひたすらに悲しそうな表情を浮かべて涙目でブロウを見つめました。


『‥お願い、早く私にプロポーズして!』

 
 ノキアは必死にそう念じてブロウを見つめましたが‥ブロウから出たのは予想外のしらけた言葉でした。


「‥ノキア、君は俺とユリシスと一体どっちが好きなんだ?‥君がユリシスを好きだと言うのなら‥俺は‥。」


『何?また私を諦めると言い出すの?何で?何で‥?』


 ノキアは焦りました。ブロウが再び私の事を諦めると言い出す前に、彼がすべき事を明確に示してやらなければ‥と思い、思わず強い口調で彼に言い迫ってしまいました。


「‥‥‥ブロウ、あなたはどうなの?私だけを愛してる?私だけを愛してるんだったら、私にさっさとプロポーズでも何でもすればいいじゃない!」


「‥ノキアが俺の事をまだ好きだと言うのなら、俺はノキアと‥結婚してもいいと思う。」


「‥好きよ。ずっとブロウの事だけが好き。」
 

「ノキア、君がユリシスと別れたらすぐに俺と結婚してくれ。」


「‥ブロウ、嬉しいわ。その言葉をずっと待ってたのよ。」


 ノキアはやっとブロウからプロポーズの言葉を聞けて、幸せの絶頂にいました。










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