25 / 33
優柔不断な男 2
しおりを挟む旅の2日目、6人は昨日とは打って変わり皆無言で歩を進めていました。
6人は山頂に向かって順調に距離を縮めていたので、当初の予定では4日目に山頂にたどり着くはずでしたが、3日目の明日には余裕でたどり着けそうな勢いでした。ですが、女性陣の疲労した様子を見てブロウは先を急ぐ事をやめました。
辺りを見回し、火を起こして皆が横になれそうな場所を探していると、何百メートルも先に木造の小さな小屋があるのが見えました。
「さあ、今日はあそこで寝よう。」
ブロウがそう言って皆を誘導していった小屋の中は、古くて電気も床もない小屋でしたが雨風をしのぐ分には十分な建物でした。土間の真ん中には火をおこせる場所もありましたし、壁際には沢山の薪が積んでありました。それに小屋の外には簡易な調理場も備え付けられていました。
マリアンが壁に立てかけてあった丸まったムシロを土間に敷くとブロウが火を起こし始めました。
それを見た他の4人もそれぞれに自分の役割を見つけて動き始めました。
ノキアとローラが仲良く料理を始めると、後からマリアンも二人のいる調理場にやって来ました。
マリアンは男性陣から今日の分の食材として受け取った芋を川で洗ってきて持ってくると、先に調理を進めていた二人に声をかけました。
「芋を洗ってきたわ。このまま皮を剥けばいい?」
「‥‥あっ、そうね。お願いね。」
ノキアが気まずそうに返事を返そうとすると、ローラが苛々した様子でそれを遮りました。
「皮を剥くのかだなんて、そんな分かりきった事をいちいち聞かないで。時間の無駄!それに‥ここは私とノキアだけで間に合うんだから、あんたは他所へ行っててちょうだい。」
「‥分かったわ。」
マリアンはローラがなぜ自分に対してそんな酷い言い方をするのか不審に思いながらも、とりあえずはローラの言う通り調理場から離れる事にしたのでした。
「‥‥ローラ、マリアンと何かあった?」
ノキアが心配そうにローラにそう訊ねると、ローラはニッコリ笑って首を横に振りました。
「ううん、何もないよ。‥ちょっと疲れちゃって苛々しちゃったみたい。」
「‥そっか。結構歩いてお腹も減ったし苛々もするよね。」
「‥あら、この芋‥マリアンったら本当にしっかりと洗ってきたのかしら?泥だらけよ。洗い直さなきゃ。」
「泥だらけ?綺麗に洗ってあるじゃない。このままでいいんじゃない?皮を剥いてさっさと茹でてしまいましょうよ。」
「いいえ、駄目よ。汚いわ、とっても汚いわ!もっと洗わないと‥とても口には入れられないわ!」
ローラはそう言うと、芋の入った籠を持ち上げ川へと向かい走って行ってしました。
「‥せっかく湯が沸いたのに芋を入れれないなんて‥。これじゃいつまで経ってもふかし芋が出来ないわ。」
一人調理場に取り残されたノキアが、沸騰した鍋を前にして途方にくれているとそこへブロウがやってきました。
「ノキア、どうしたんだ。他の女達は職場放棄か?」
「‥マリアンが洗ってきた芋がまだ汚いからと言って、ローラが川へ芋を洗い直しに行ってしまったの。マリアンも‥どこかへ行ってしまったわ。」
「‥マリアンは何をやってるんだ!芋もまともに洗えない上に職場放棄か、いい身分だな。」
「‥‥。」
ノキアは、ブロウがマリアンの悪口を言うのを聞いて嬉しさのあまりにやけそうになるのをぐっと堪えて、敢えて悲しそうな表情を作りブロウを見つめました。
ノキアはブロウと別れてユリシスと付き合う事になっても、実はまだブロウの事が好きでした。
ブロウに別れを告げたのだって‥いつまでたっても自分にプロポーズをして来ない彼を焦らせようとして、わざと別れを告げただけなのでした。
ですが、ブロウはノキアに別れないでくれと縋ることはありませんでした。ノキアの心変わりをそのまま受け入れてしまったのです。
そこで、ノキアはブロウの気持ちを自分に再び向けるべく、以前から自分に言い寄っていたユリシスとの交際を始めたのでした。
すると、ノキアの思惑通りブロウはノキアと付き合い始めたユリシスに対して頻繁に突っかかるようになりました。ブロウにとってノキアが誰か他の男のものになる事は耐え難い事だったのです。
ですが、そんな日々がずっと続く中、ブロウもいつの間にかノキアに相談もなしに勝手にマリアンとの婚約をしてしまいました。
ノキアは、自分だけをずっと想い続けてくれていると信じていたブロウに裏切られて悔しさと悲しさで何日も泣きました。そしてそれ以降ブロウとは距離を置くようになりました。
それなのに‥今回の旅で久しぶりに触れ合う中で互いの想いの強さを自覚し、再び体を重ねてしまったのです。
「ノキア、やっぱり俺は君が好きだ。君が俺とまた付き合ってくれるというのなら、マリアンとは別れる。だからまた俺と付き合ってくれ。」
「‥ブロウ、あなたの気持ちは嬉しいけど私はユリシスと結婚の約束をしてしまったの。‥彼はね、結婚を前提に私と付き合おうと言ってくれたの。‥彼の家族にももう挨拶を済ませてしまったし‥。」
「そんな‥なら俺はどうすれば‥。」
「‥‥。」
『ブロウったら!どうすれば‥なんて言ってないでさっさとマリアンを振ってユリシスと決闘でも何でもして、私に早く求婚すれば良いじゃない!私をそんなに好きならどうしてプロポーズしないのよ!あなたがプロポーズさえしてくれれば私は‥‥ユリシスとは別れるつもりなのに!』
ノキアは心の中でそう毒づきながらも、決して本心を口に出す事はなく、ひたすらに悲しそうな表情を浮かべて涙目でブロウを見つめました。
『‥お願い、早く私にプロポーズして!』
ノキアは必死にそう念じてブロウを見つめましたが‥ブロウから出たのは予想外のしらけた言葉でした。
「‥ノキア、君は俺とユリシスと一体どっちが好きなんだ?‥君がユリシスを好きだと言うのなら‥俺は‥。」
『何?また私を諦めると言い出すの?何で?何で‥?』
ノキアは焦りました。ブロウが再び私の事を諦めると言い出す前に、彼がすべき事を明確に示してやらなければ‥と思い、思わず強い口調で彼に言い迫ってしまいました。
「‥‥‥ブロウ、あなたはどうなの?私だけを愛してる?私だけを愛してるんだったら、私にさっさとプロポーズでも何でもすればいいじゃない!」
「‥ノキアが俺の事をまだ好きだと言うのなら、俺はノキアと‥結婚してもいいと思う。」
「‥好きよ。ずっとブロウの事だけが好き。」
「ノキア、君がユリシスと別れたらすぐに俺と結婚してくれ。」
「‥ブロウ、嬉しいわ。その言葉をずっと待ってたのよ。」
ノキアはやっとブロウからプロポーズの言葉を聞けて、幸せの絶頂にいました。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。
藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる