異世界恋愛短編集

みるみる

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優柔不断な男 4

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 小屋にいつまでも帰ってこないマリアンを探しに行ったバレンティンのもとに、ユリシスとローラが合流しました。

 3人は暗闇の中をマリアンの名を呼びながら進み続けました。

「川の方も見なくていいの?一回行ってみましょうよ。」

「ローラ、君はさっきから川をやたらと気にしているけど‥なぜだ?川に何かあるのか?」

 ローラがこの旅の中でマリアンを敵視していた事を知っていたバレンティンが、ローズのこの言動を訝しみました。

『ローズはマリアンがいなくなった理由を何か知っているのだろう。もしかして、ローラが川でマリアンに危害を‥。』

 バレンティンが疑いの目を自分に向けている事を察したローラは、これ以上隠す事は出来ないだろうと観念し、昼間の出来事を彼らに正直に話すことにしました。

「‥実は私、マリアンに嫌がらせをしたくて川にマリアンを突き落としてしまったの。‥あっ、でも浅瀬だったしすぐに起き上がって来たわよ。‥マリアンがずぶ濡れになって困ってしまえばいいのにって思っただけなの。」

「‥なんて事をしたんだ!一歩間違えばその場で溺れて死んでいたかもしれないんだぞ。‥まさか、本当にもう死んでしまったのか‥。」

「‥まあまあ、バレンティン。浅瀬だったと言うし、それにローラの話ではマリアンはその時無事だったんだろう?」

「‥ええ、マリアンは自分で起き上がって陸へ上がるところだったわ。‥でも、その後の事は知らないの。マリアンに捕まってこの事を責められるのが怖くて、さっさとその場から逃げてしまったから‥。」

 3人の間に沈黙が広がりました。

 と、その時何かが近くの茂みを通りました。

 ガサガサッ、ガサッ、

「‥‥うさぎ?」

 茂みから出てきたのは、茶色の野うさぎでした。少し進んでは立ち止まって振り返り、ま少し進んでは立ち止まり‥

 そのうさぎはまるで3人をどこかへ導こうとしているようでした。

「‥着いて来いって事か。」

 3人は顔を見合わせて頷き合い、黙ってうさぎについていく事にしました。

 うさぎは3人を引き連れてどこまでも進んでいき、とうとう山頂に着いてしまいました。

「おい、バレンティン。ここってひょっとして‥。」

「‥ああ、俺達の旅の目的地だ。どうやら俺たちは地図にはない近道を通ってここにたどり着いたようだ。」

「見て!神殿の中に人の足が見えるわ。」

 ローラはそう言って神殿に走って行きました。

「‥マリアン!マリアンが寝ているわ。‥息もしてる。生きてる!」

 ローラのその言葉を聞いて、バレンティンユリシスも神殿に急いで向かいました。

 3人は神殿の中に入り、台座に寝ているマリアンに近づきました。

 白装束を身にまとい胸の上で手を組んで眠るマリアンは、一見すると死んでいるかのように見えましたが‥

 静かな神殿内に響く微かな寝息の音でマリアンが生きている事を確認できました。

「‥ねえ、声をかけてマリアンを起こした方が良い?だってマリアンが寝ている台座って‥祭壇でしょ。大丈夫かしら?」

「‥そのままにしておこう。それに俺達もせっかくだから、ここで一晩寝かせて貰おうか。」

 バレンティンがそう言い、神殿内に何か敷物がないかと辺りを見まわすと‥

 いつの間にか神殿の床に3人分の敷物と掛け布が置かれていました。

「‥バレンティン、これって僕達が寝るために使えって事だよね。」

「‥やだ、怖い!さっきまではなかったのに、どうして急にこんな物が用意されてるの?」

 ローラはこの状況に怯えて、バレンティンの袖を掴み引っ張りました。

 ここから早く出たい‥そう訴えているようでした。

「‥ローラ、大丈夫だ。ここは神殿の中だから俺達が恐れるような存在はいない。それに‥せっかく敷物を用意してもらったのだから、それに甘えようじゃないか。」

「‥分かったわ。あっ、でもユリシスは小屋にノキアとブロウを二人きりしてきて心配なんじゃない?」

「‥大丈夫だよ。それに彼らもきっと今頃は、二人きりで誰にも遠慮する事なくヤリまくっているだろうよ。‥そんな中急に僕達が帰ってきたらお互い気まずいだろ?」

 ユリシスの口から出た意外な返答に、バレンティンとローラは絶句してしまいました。

「‥まさか僕があの二人のただならぬ関係に気付いていないとでも思っていた?」

「‥ユリシス、だってお前それでも平気なのか?それでも何事もなかったかのようにノキアと結婚をするというのか?」

「ああ、その気持ちは変わらない。」

「そんな‥それじゃあお互いに不幸になるだけだ!そんな結婚なんかやめるんだ!」

「‥ノキアへの愛はもうとっくに消えている。今の僕は彼女には何の感情も持っていない。だからこれで心置きなく彼女を妻に迎える事ができるんだよ。」

「‥?」

「うちは代々姑が強い家庭なんだ。以前はノキアが可哀想だから、なんとかそんな家の風習を変えたい‥と思っていたんだが、‥もうそんな必要はないね。」

「‥‥。」

 バレンティンとローラは、優しかったユリシスの裏の顔を見てしまった事に動揺し、思わず2人して顔を見合わせてしまいました。

「‥ユリシスの家族はいつもノキアに優しくしていたわよね。それにノキアなら人付き合いが上手いから、きっとお姑さんにも可愛がって貰えるんじゃない?」

 ローラがそう言うと、ユリシスはいつもの笑顔を浮かべながら平然と言いました。

「‥あれは優しくしている振りをしているだけなんだよ。だって、僕に一番最初にノキアの不貞を教えてくれたは僕の母だからね。‥だから母は誰よりもノキアの嫁入りの日を心待ちにしているんだ。‥早く虐めてやりたいってね。」

「‥‥!」

 ローラはその言葉を聞いた途端、両手で思わず耳を塞いでしまいました。

 これ以上ユリシスの口からは何も聞きたくない、いや聞いちゃいけない‥そう思ったからです。


「‥‥まあ話はその辺にしておいて、とりあえず寝よう。明日になればあの2人もここへやってくるだろうし。」

 気まずい空気が流れた中、バレンティンがそう言うと‥ユリシスとローラも大人しく床に敷かれた敷物の上に横になりました。

 しばらくしてローラとユリシスの寝息が聞こえ出した頃、バレンティンはふと神殿の中に何かの気配を感じました。

 目だけを気配のする方へ向けると、先程自分達をここへ誘導したうさぎがマリアンの耳元で何かを囁いていました。

「‥そうね、私もそう思います。」

 寝ているはずのマリアンがうさぎと何やら話す声も聞こえました。

『‥寝言か?それともあのうさぎと本当に何かを話しているのか?』

 目だけで必死にマリアンとうさぎを見つめていたバレンティンでしたが、うさぎがその視線に気づきバレンティンを睨みつけた途端‥バレンティンは深い眠りへと落ちていきました。

 そして翌朝‥

「バレンティン、起きて。バレンティン!」

 ローラの声で目を覚ましたバレンティンの目に、ローラとユリシスとマリアン、そしてブロウとノキアの姿がうつりました。

「バレンティン。皆んなここへ揃ったから、いよいよ僕らの成人の儀式を始めようじゃないか。」
 
 ユリシスにそう言うとバレンティンに白装束を渡しました。

 その白装束は、ここへ来た時にマリアンが着ていたものと同じものでした。

「朝起きたら、人数分用意されていたんだ。女性陣はもう掃除を済ませたようだし、僕たちも儀式の準備を始めよう。」

 ユリシスに急かされ、バレンティンも渡された白装束に着替えながら‥

 昨日色々な出来事があったというのに、皆が何事もなかったかのように協力し合いながら成人の儀式の準備をする様子を眺めていました。

 



 










 
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