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優柔不断な男 5
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祭壇の周りに、皆の手で沢山のお供物が並べられました。
御神体である大きな鏡を男3人で神殿の真ん中に据えると、いよいよ成人の儀式のはじまりです。
皆で神殿内の御神籤箱のような物に手を入れ、細長い棒をひきます。
先が赤く塗られた棒をひいたユリシスが上座に座り、お祈りを捧げる事になりました。
その後ろにブロウとバレンティンも座り、祈りを捧げます。
その後列に女性陣3人が座ります。
皆の座り位置が定まると、祭壇脇の大きな蝋燭に火が灯され、お祈りを捧げます。
1時間ほどルノン族に代々伝わる祈りの歌を捧げると、皆は立ち上がり御神体の大きな鏡を囲み輪になりました。
祈りを歌いながら、輪になった状態で蝋燭の火が消えるまでルノン族の踊りを踊ります。
数時間後、蝋燭の灯が消えると‥
皆はお祈りの歌と踊りをやめ、静かにその場に腰掛けました。
厳かな空気が流れる中、ユリシスが最初に立ち上がりました。
入り口にある松明を持って御神体の鏡に立ち、心の中で成人の誓いを言っているようです。その様子を皆で静かに見守ります。
「‥。」
しばらく鏡を見つめていたユリシスですが、無言のまま松明をブロウに手渡しました。
ブロウもユリシスと同様、鏡の前に立ち鏡を見つめていましたが‥しばらくして首を傾げながら戻ってきました。
バレンティンもブロウから渡された松明を手にし、厳かな気持ちで鏡の前に向かいました。
鏡の前に立ち、成人の誓いを心の中で言い終わった時‥真っ暗だった鏡の面に、ぼんやりと何かの映像が浮かび上がりました。
映像は徐々に鮮明になり、やがてローラと自分が小さな子供の手をひいて幸せそうに歩く様子がはっきりと鏡面に映し出されました。
『なんだこれは‥。まさか、自分の未来の映像が映し出されているのか?‥だとしたら、俺はマリアンとは結婚できないのか?ローラと本当に結婚してしまうのか‥。』
バレンティンが考え事をしているうちに、鏡にうつった映像は消えてしまいました。
バレンティンはなんとも言えない気持ちで、隣に腰掛けていたローラに松明を手渡しました。
『もし、あれが本当に未来の映像だというのなら、ローラもきっと俺と同じ映像を見るだろう‥。』
バレンティンはそう考え、ローラが鏡の前に立ち成人の誓いをする様子を真剣に見つめました。
すると、ローラは鏡を見つめながら小さなガッツポーズをしました。
ローラは松明を隣の席のノキアに手渡しながら‥バレンティンの方をちらりと恥ずかしそうな笑顔で見てきました。
『‥!やはり、ローラもあの未来の映像を見たのだな。間違いない。‥それにしても俺はどうしてマリアンと結婚できないんだ?マリアンはこのままブロウと本当に結婚してしまうのか?』
バレンティンがモヤモヤした気持ちでいる中、ノキアが鏡の前に立ちました。
ノキアの反応は‥ブロウやユリシスと同じく無反応でした。
「‥。」
松明はいよいよ最後の一人‥マリアンに手渡されました。
マリアンが鏡の前に立つと、その様子をバレンティンは真剣に見つめました。
マリアンは何やら納得したかのように数回頷くと、一礼してから席に戻ってきました。
「‥これで全員無事に成人の儀を終えられたな。さあ、山を降りて帰ろう!」
「‥だめ、私は帰らない!」
ユリシスが山を降りようと言った時、マリアンがその言葉を遮りました。
「マリアン、何を言ってるんだ?お前はこの旅の最中ずっとわがままばかり言ってるな。‥俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ。だいたいお前は‥」
ブロウがいつものようにマリアンに文句をつけようとしたところ、ユリシスがそれを制して、マリアンに話しかけました。
「マリアン、何か理由があるんだろ?話してごらん。」
「‥私、ここに残って神様にお仕えする事になりました。」
「えっ?でもそれって処女じゃないとできないんじゃ‥。」
「‥‥。」
「あっ、そうか。マリアンはまだブロウとはそういう関係にはなっていなかったんだな。」
「‥‥。」
「結婚するまで貞操を守ろうとするなんて、マリアンは素敵な淑女だよ。素晴らしい!是非ここに残って立派に神様にお仕えしてくれ。おめでとう!」
「‥ユリシスありがとう。皆んな、本当に今までありがとう。私の家族にも宜しく伝えてね。」
「ああ、良いよ。これは村に戻ったら村人全員でお祝いだな!」
皆が状況を理解できずに黙って立ちすくむ中、ユリシス一人がハイテンションでマリアンを祝福しました。
「‥えっと、それってなろうと思ってなれるものじゃないんでしょ?マリアンは本当にここに残って神様にお仕えする資格があるのかしら?勝手な事を言ってるとバチが当たるわよ。‥まさかそんな事を言って、ブロウの気をひきたいだけじゃないの?」
これまで黙っていたノキアが突然マリアンにつっかかってきました。
ブロウもノキアのその言葉にすぐに賛同し、ノキアを讃え始めました。
「ノキアの言う通りだ。いつだってノキアは冷静で賢い女性だ。‥マリアン、そんな事で俺の気をひこうとしても無駄だぞ!俺はお前とはもう別れる。そして、これからはノ‥。」
「ノ?」
ブロウが「ノ‥」と言いかけたところで、ノキアがブロウの口を押さえてその言葉を遮りました。
「‥なんでもないの。ね、ブロウ?」
「‥あっああ、そうだな。とにかく、俺はマリアンとは別れる。だからマリアン、お前はここに残るなり何なり勝手にすればいい。俺は知らん!」
ブロウはそう言うと、自分の荷物を肩に背負い、マリアンに背を向けてさっさと帰り道を歩いて行ってしまいました。
「‥‥。」
「あの‥マリアン。昨日は色々とひどい事をしてごめんなさい。私のただの八つ当たりだったの‥。あなたは何も悪くないのに‥。えっと‥、あなたの決断を応援するわ。私もあなたがブロウと結婚をしない決断は正しいと思う。ブロウにあなたは勿体ないから。‥‥さようなら。」
そう言ってローラも帰路につきました。
「‥マリアン、俺は君の事を好きだった。いや、今でも好きだ。‥本当ならブロウと別れた君に求婚したいところだけど‥、君の決断を応援する事にした。‥さようなら。」
そう言ってバレンティンも神殿から去りました。
そして‥
「マリアン、君は僕らの誇りだ。前々から心も外見も美しかった君の事だ、きっと神様の方が君の事を見初めたのだろう。僕の母も君の事を前々からお嫁さんに欲しいぐらい素敵なお嬢さんだと言って褒めてたからね。‥名残惜しいけど、さようなら。お元気で。‥さっ行こうか、ノキア。」
そう言ってユリシスがノキアの肩を抱き、去って行きました。
ノキアは去り際にマリアンの方を振り向き鋭く睨みつけていきましたが‥。
「‥さようなら、皆んな。」
マリアンが皆の去っていく後ろ姿を見送っていると、一匹のうさぎがマリアンに近づいてきました。
うさぎはマリアンの目の前で、神々しい男性の姿へと変わりました。
「‥いいのか、未練はないか?」
「はい、未練なんてないです。私はここでお祈りを捧げ続けて、村に大災害が来るのを防ぎたいです。
私は大好きなルノン族の皆の幸せを心から願ってます。その気持ちは、1人の男性への私の恋心とは比べるまでもないほど強い気持ちなのです。」
マリアンはそう言って、再び祭壇のある神殿へと戻って行きました。ブロウからプレゼントされたペンダントを握りしめながら‥。
マリアン達の成人の儀が行われてから一年後、その年に成人を迎えるルノン族の若者達が、マリアンのいる神殿に向かい旅立ちました。
その旅の途中、若者達は昨年成人の儀を行ったメンバーの話で盛り上がっていました。
「ねえ、何ヶ月か前にノキアがよその村の男と駆け落ちしたでしょ。あのあとユリシスが村から出て行って、どうなったと思う?街で商売を始めて大成功をおさめたらしいわよ。噂では成人の儀の時に、商売のヒントを神様に教えてもらっていたらしいの。」
「へえ~ユリシスもいなくなったと思ったら、街へ出ていたんだ。さすが、副族長の娘!なんでも知ってるな。」
「そうよ、私が知らない事なんてないんだから。」
「じゃあ、昨年成人の儀を迎えた他のメンバーは今どうしているの?」
「ああ、バレンティンとローズが結婚したのは皆も知ってるわよね。あと、マリアンが村へ戻って来なかった事も。‥皆が知りたいのはブロウの事ね。ブロウは近いうちに村を出て行くらしいわよ。ノキアを追ってね。
‥ノキアとユリシスが結婚してからしばらく一悶着あったでしょ。あの後、実はブロウに他の女性との結婚話が出ていたの。でも、その頃からノキアとブロウは密会していたらしいわ。2人で村を出て行くつもりだったみたい。
でもいつまでたっても村から出る気配がないブロウに愛想をつかしたノキアが、業を煮やして他の村の男を誑かして村から逃げたのよ。今度こそブロウを捨ててね。」
「ブロウはノキアを追って村から出て行っても、ノキアの居場所なんて知ってるの?」
「‥それがね、ブロウが言うにはノキアが予め居場所を教えてくれてたみたい。」
「‥ちょっと待って。これまでの話を聞いてて思ったんだけど‥ブロウって常にノキアに振り回されていない?都合よくキープされてると言うか‥。」
「うーん、振り回さすと言うか‥ノキアはきっとブロウに常に自分の事を追い続けて欲しかったんじゃないかしら。ほら、よくいるじゃない?自分と別れた後に、その男が他の女性と付き合うのが許せないって女性。
ノキアはブロウを誰にも渡したくないけど、かと言ってブロウと結婚はしないはずよ。‥それがノキアの復讐なの。当てつけでユリシスと付き合ったのに、自分を奪い返しに来るどころかマリアンと付き合ってしまったブロウへの歪んだ愛情‥とも言えるかしら。」
「‥なんだか複雑だな。」
「あら、複雑でもなんでもないわよ。ブロウがさっさとノキアとの関係を切ってマリアンと結婚していれば良かったのよ。‥それをダラダラと関係を続けるから、こうなるのよ。」
「‥‥つまりブロウが誰とも結婚できずにノキアとの報われない愛に縋るのも、彼の自業自得だと言うのか?」
「そうよ。」
「‥‥。」
「さあ、ブロウの話はもう終わり。それよりも成人の儀を楽しみにしましょうよ。噂だと‥幸せな未来が待っている人にだけ、その幸せな未来の映像を見せてもらえるらしいわよ。」
「未来の幸せな姿が見れる?どうやって?」
「どうやって見れるのかまでは知らないけど‥、でも楽しみじゃない?」
「幸せな未来が見られるのか‥楽しみだな。」
「ね、楽しみよね。」
今年は成人の儀でどんな出来事が起こるのか‥。
神殿に残ったというマリアンを神殿で見ることはできるのか‥。
若者達は色々な想いを抱きながら、楽しそうに神殿に向かう山道を登って行きました。
end.
御神体である大きな鏡を男3人で神殿の真ん中に据えると、いよいよ成人の儀式のはじまりです。
皆で神殿内の御神籤箱のような物に手を入れ、細長い棒をひきます。
先が赤く塗られた棒をひいたユリシスが上座に座り、お祈りを捧げる事になりました。
その後ろにブロウとバレンティンも座り、祈りを捧げます。
その後列に女性陣3人が座ります。
皆の座り位置が定まると、祭壇脇の大きな蝋燭に火が灯され、お祈りを捧げます。
1時間ほどルノン族に代々伝わる祈りの歌を捧げると、皆は立ち上がり御神体の大きな鏡を囲み輪になりました。
祈りを歌いながら、輪になった状態で蝋燭の火が消えるまでルノン族の踊りを踊ります。
数時間後、蝋燭の灯が消えると‥
皆はお祈りの歌と踊りをやめ、静かにその場に腰掛けました。
厳かな空気が流れる中、ユリシスが最初に立ち上がりました。
入り口にある松明を持って御神体の鏡に立ち、心の中で成人の誓いを言っているようです。その様子を皆で静かに見守ります。
「‥。」
しばらく鏡を見つめていたユリシスですが、無言のまま松明をブロウに手渡しました。
ブロウもユリシスと同様、鏡の前に立ち鏡を見つめていましたが‥しばらくして首を傾げながら戻ってきました。
バレンティンもブロウから渡された松明を手にし、厳かな気持ちで鏡の前に向かいました。
鏡の前に立ち、成人の誓いを心の中で言い終わった時‥真っ暗だった鏡の面に、ぼんやりと何かの映像が浮かび上がりました。
映像は徐々に鮮明になり、やがてローラと自分が小さな子供の手をひいて幸せそうに歩く様子がはっきりと鏡面に映し出されました。
『なんだこれは‥。まさか、自分の未来の映像が映し出されているのか?‥だとしたら、俺はマリアンとは結婚できないのか?ローラと本当に結婚してしまうのか‥。』
バレンティンが考え事をしているうちに、鏡にうつった映像は消えてしまいました。
バレンティンはなんとも言えない気持ちで、隣に腰掛けていたローラに松明を手渡しました。
『もし、あれが本当に未来の映像だというのなら、ローラもきっと俺と同じ映像を見るだろう‥。』
バレンティンはそう考え、ローラが鏡の前に立ち成人の誓いをする様子を真剣に見つめました。
すると、ローラは鏡を見つめながら小さなガッツポーズをしました。
ローラは松明を隣の席のノキアに手渡しながら‥バレンティンの方をちらりと恥ずかしそうな笑顔で見てきました。
『‥!やはり、ローラもあの未来の映像を見たのだな。間違いない。‥それにしても俺はどうしてマリアンと結婚できないんだ?マリアンはこのままブロウと本当に結婚してしまうのか?』
バレンティンがモヤモヤした気持ちでいる中、ノキアが鏡の前に立ちました。
ノキアの反応は‥ブロウやユリシスと同じく無反応でした。
「‥。」
松明はいよいよ最後の一人‥マリアンに手渡されました。
マリアンが鏡の前に立つと、その様子をバレンティンは真剣に見つめました。
マリアンは何やら納得したかのように数回頷くと、一礼してから席に戻ってきました。
「‥これで全員無事に成人の儀を終えられたな。さあ、山を降りて帰ろう!」
「‥だめ、私は帰らない!」
ユリシスが山を降りようと言った時、マリアンがその言葉を遮りました。
「マリアン、何を言ってるんだ?お前はこの旅の最中ずっとわがままばかり言ってるな。‥俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ。だいたいお前は‥」
ブロウがいつものようにマリアンに文句をつけようとしたところ、ユリシスがそれを制して、マリアンに話しかけました。
「マリアン、何か理由があるんだろ?話してごらん。」
「‥私、ここに残って神様にお仕えする事になりました。」
「えっ?でもそれって処女じゃないとできないんじゃ‥。」
「‥‥。」
「あっ、そうか。マリアンはまだブロウとはそういう関係にはなっていなかったんだな。」
「‥‥。」
「結婚するまで貞操を守ろうとするなんて、マリアンは素敵な淑女だよ。素晴らしい!是非ここに残って立派に神様にお仕えしてくれ。おめでとう!」
「‥ユリシスありがとう。皆んな、本当に今までありがとう。私の家族にも宜しく伝えてね。」
「ああ、良いよ。これは村に戻ったら村人全員でお祝いだな!」
皆が状況を理解できずに黙って立ちすくむ中、ユリシス一人がハイテンションでマリアンを祝福しました。
「‥えっと、それってなろうと思ってなれるものじゃないんでしょ?マリアンは本当にここに残って神様にお仕えする資格があるのかしら?勝手な事を言ってるとバチが当たるわよ。‥まさかそんな事を言って、ブロウの気をひきたいだけじゃないの?」
これまで黙っていたノキアが突然マリアンにつっかかってきました。
ブロウもノキアのその言葉にすぐに賛同し、ノキアを讃え始めました。
「ノキアの言う通りだ。いつだってノキアは冷静で賢い女性だ。‥マリアン、そんな事で俺の気をひこうとしても無駄だぞ!俺はお前とはもう別れる。そして、これからはノ‥。」
「ノ?」
ブロウが「ノ‥」と言いかけたところで、ノキアがブロウの口を押さえてその言葉を遮りました。
「‥なんでもないの。ね、ブロウ?」
「‥あっああ、そうだな。とにかく、俺はマリアンとは別れる。だからマリアン、お前はここに残るなり何なり勝手にすればいい。俺は知らん!」
ブロウはそう言うと、自分の荷物を肩に背負い、マリアンに背を向けてさっさと帰り道を歩いて行ってしまいました。
「‥‥。」
「あの‥マリアン。昨日は色々とひどい事をしてごめんなさい。私のただの八つ当たりだったの‥。あなたは何も悪くないのに‥。えっと‥、あなたの決断を応援するわ。私もあなたがブロウと結婚をしない決断は正しいと思う。ブロウにあなたは勿体ないから。‥‥さようなら。」
そう言ってローラも帰路につきました。
「‥マリアン、俺は君の事を好きだった。いや、今でも好きだ。‥本当ならブロウと別れた君に求婚したいところだけど‥、君の決断を応援する事にした。‥さようなら。」
そう言ってバレンティンも神殿から去りました。
そして‥
「マリアン、君は僕らの誇りだ。前々から心も外見も美しかった君の事だ、きっと神様の方が君の事を見初めたのだろう。僕の母も君の事を前々からお嫁さんに欲しいぐらい素敵なお嬢さんだと言って褒めてたからね。‥名残惜しいけど、さようなら。お元気で。‥さっ行こうか、ノキア。」
そう言ってユリシスがノキアの肩を抱き、去って行きました。
ノキアは去り際にマリアンの方を振り向き鋭く睨みつけていきましたが‥。
「‥さようなら、皆んな。」
マリアンが皆の去っていく後ろ姿を見送っていると、一匹のうさぎがマリアンに近づいてきました。
うさぎはマリアンの目の前で、神々しい男性の姿へと変わりました。
「‥いいのか、未練はないか?」
「はい、未練なんてないです。私はここでお祈りを捧げ続けて、村に大災害が来るのを防ぎたいです。
私は大好きなルノン族の皆の幸せを心から願ってます。その気持ちは、1人の男性への私の恋心とは比べるまでもないほど強い気持ちなのです。」
マリアンはそう言って、再び祭壇のある神殿へと戻って行きました。ブロウからプレゼントされたペンダントを握りしめながら‥。
マリアン達の成人の儀が行われてから一年後、その年に成人を迎えるルノン族の若者達が、マリアンのいる神殿に向かい旅立ちました。
その旅の途中、若者達は昨年成人の儀を行ったメンバーの話で盛り上がっていました。
「ねえ、何ヶ月か前にノキアがよその村の男と駆け落ちしたでしょ。あのあとユリシスが村から出て行って、どうなったと思う?街で商売を始めて大成功をおさめたらしいわよ。噂では成人の儀の時に、商売のヒントを神様に教えてもらっていたらしいの。」
「へえ~ユリシスもいなくなったと思ったら、街へ出ていたんだ。さすが、副族長の娘!なんでも知ってるな。」
「そうよ、私が知らない事なんてないんだから。」
「じゃあ、昨年成人の儀を迎えた他のメンバーは今どうしているの?」
「ああ、バレンティンとローズが結婚したのは皆も知ってるわよね。あと、マリアンが村へ戻って来なかった事も。‥皆が知りたいのはブロウの事ね。ブロウは近いうちに村を出て行くらしいわよ。ノキアを追ってね。
‥ノキアとユリシスが結婚してからしばらく一悶着あったでしょ。あの後、実はブロウに他の女性との結婚話が出ていたの。でも、その頃からノキアとブロウは密会していたらしいわ。2人で村を出て行くつもりだったみたい。
でもいつまでたっても村から出る気配がないブロウに愛想をつかしたノキアが、業を煮やして他の村の男を誑かして村から逃げたのよ。今度こそブロウを捨ててね。」
「ブロウはノキアを追って村から出て行っても、ノキアの居場所なんて知ってるの?」
「‥それがね、ブロウが言うにはノキアが予め居場所を教えてくれてたみたい。」
「‥ちょっと待って。これまでの話を聞いてて思ったんだけど‥ブロウって常にノキアに振り回されていない?都合よくキープされてると言うか‥。」
「うーん、振り回さすと言うか‥ノキアはきっとブロウに常に自分の事を追い続けて欲しかったんじゃないかしら。ほら、よくいるじゃない?自分と別れた後に、その男が他の女性と付き合うのが許せないって女性。
ノキアはブロウを誰にも渡したくないけど、かと言ってブロウと結婚はしないはずよ。‥それがノキアの復讐なの。当てつけでユリシスと付き合ったのに、自分を奪い返しに来るどころかマリアンと付き合ってしまったブロウへの歪んだ愛情‥とも言えるかしら。」
「‥なんだか複雑だな。」
「あら、複雑でもなんでもないわよ。ブロウがさっさとノキアとの関係を切ってマリアンと結婚していれば良かったのよ。‥それをダラダラと関係を続けるから、こうなるのよ。」
「‥‥つまりブロウが誰とも結婚できずにノキアとの報われない愛に縋るのも、彼の自業自得だと言うのか?」
「そうよ。」
「‥‥。」
「さあ、ブロウの話はもう終わり。それよりも成人の儀を楽しみにしましょうよ。噂だと‥幸せな未来が待っている人にだけ、その幸せな未来の映像を見せてもらえるらしいわよ。」
「未来の幸せな姿が見れる?どうやって?」
「どうやって見れるのかまでは知らないけど‥、でも楽しみじゃない?」
「幸せな未来が見られるのか‥楽しみだな。」
「ね、楽しみよね。」
今年は成人の儀でどんな出来事が起こるのか‥。
神殿に残ったというマリアンを神殿で見ることはできるのか‥。
若者達は色々な想いを抱きながら、楽しそうに神殿に向かう山道を登って行きました。
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