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第四話 行き止まり
しおりを挟む夕方から降り続いた雨のせいか、いつもの抜け道が、道の途中から冠水していた。まわりの田畑と道の境が分からなくなっていた。
この道は、国道から少し脇にある、田んぼの中の少し広めの農道。
勇太は、隣町の自動車部品の会社に勤めて二十年、毎日通勤でこの抜け道を通っていたが、こんな事は初めてだった。
そんなに降ったか?
まあ、今は局地的集中豪雨なるものもあるぐらいだ。ここだけ集中して降ったのだろう。
少し車を後退させて右折し、見知らぬ住宅地らしき所へと入る。
見知らぬ住宅地とはいえ、国道の方角へ向かえば、すぐに国道へ戻れるだろうと思い、どんどん進んでいった。
おかしい。
一方通行と進入禁止の標識に従って進むと、どうしても元の場所に戻ってきてしまう。
前方には、車幅制限のある狭い踏切。自分の車では通り抜けられそうにない。行き止まりだ。
その左右は令和の時代には珍しい砂利の細い道が、線路に沿ってどこまでも続いている。
ポツポツ、ポツポツ、
やんだはずの雨がまた降り始めた。ワイパーを動かし、少しずつ後退し、また別の脇道を探る。
だが何度進んでも、先程と同じ道に戻ってしまう。段々と不安な気持ちになってきた。
人を探して、国道へ出る道をきいてみようと思うも、誰一人外を歩いていない。
おかしい。まだ八時前なのに。
すると、やっと人影を見つけた。
若いお父さんと、小さな男の子だ。
車のライトに照らされて、その光に反応し、こちらを向いた。
親子は終始無表情だった。なんとなく生気を感じさせない親子だった。
幽霊か?と思い、何となく薄気味悪さを感じたが、お風呂上がりに涼みがてら散歩をする親子なんて、別に珍しくもない。きっと、あの親子もそうなのだろうとすぐに思いなおした。
それでも、雨の中を傘もささずに無表情で歩く親子は、やはり不気味に思えた。
気付けば、車は親子のあとを追っていた。
すると、今まで散々通った道の脇に、道が見えた。カーナビには表示されていない道だった。
舗装されてない、線路沿いの砂利道。さっき通るのを断念した踏み切りの脇に続いていた砂利道と同じ道だ。
踏み切りはないものの、線路沿いという事は、さっきからずっと線路の側から離れていない事を示していた。
線路と、長屋のような建物の間に挟まれた長い砂利道。
不思議な事に、長屋のような建物には一つも電気が灯っていなかった。
ゴーストタウン‥‥
じゃあ、この親子は?どこから来て、どこへ向かっている?
すると、踏み切りの音が聞こえてきた。
カウンカウンカウン‥‥
電車が来たようだ。
不気味な雰囲気の中、日常の聞き慣れた音を聞いて安心した。そうだ、田舎は都会と違い、もともと静かなものだ。夜更かしせずに、八時前に就寝する家庭も多いと聞いた。何もおかしくはない、そう自分に言い聞かせていた。
電車が車の横を通り過ぎていった。
電車の中には人が誰も乗っていなかった気がするが、田舎の電車だからだろうか?
ふと気付くと、あの親子もいなくなっていた。
とうとう一人ぼっちになってしまった。
ところでこの道はどこまで続くのだろう?左側は線路が続いているし、右側はずっと長屋のような建物が続いている。
どこにも曲がり道がない。
どこかで、この砂利道を抜けなければ‥‥
そう思っていると、目の前に柵が見えた。木の柵だ。この先に道はないという事か。
‥‥行き止まりだ。
今来た道をひたすら後退していって戻るしか道はなさそうだ。
ところが、車の後方をバックミラーで見てみると、大型トラックがすぐ後ろに止まっていた。
無人だった。
いつの間に後ろについていたんだろう?運転手も迷ってしまい、道を聞く為に車から降りて人を探してるのだろうか?
「わぁっ!」
先程の親子が車のすぐ横にいたので、ビックリして、声をあげてしまった。
親子と目が合ってしまった。
凄く嫌な感じがして、鳥肌がたった。
鍵や窓が閉まっているか確認し、携帯電話を取り出して、妻か誰かに電話をしようとするも、手が震えて出来なかった。
どこからともなく水の音がしてきた。車はあっという間に、窓まで水没していた。
携帯電話で、窓を割ろうとするが、割れない。
「誰か!助けてくれ!誰か!!」
無情にも車はどんどん沈んでいった。
いつの間にか大型トラックと親子も消えていた。
「ねぇ、あそこの線路沿いの用水路に、また車が落ちたんだって。運転手も運転席で溺れて亡くなってたみたい。」
「なんであんな所を通るのかしらね、抜け道にもならないでしょうに。あんな変なところ。」
「そういえば、この近くで少し前に事故があったでしょ。大型トラックと若い親子の事故。トラックの運転手、自殺したって最近ニュースで言ってたわよ。」
「‥‥あの線路の近くは、あまり近づかない方がいいかもね。事故現場って無闇に近づいてしまうと、どうしてもひきずられてしまうらしいの、向こうの世界にね。」
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