令和百物語

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第五十夜 ヨガ瞑想で見た未来

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俺は、前回のヨガイベントで知り合った片瀬さんのヨガスタジオに来ていました。

片瀬さんがヨガ瞑想をメインにした教室を開いていると聞いたので、訪ねて来たのでした。

片瀬さんのヨガスタジオは、都会の中心部から少し外れた静かな所にありました。しかもアパートの一階の一室にあり、開け放たれた玄関の扉には、かわりにアジアンテイストな暖簾が垂れ下がっていました。

「こんにちは。片瀬さん、伸樹です。‥」

俺がそう言って、暖簾をくぐると奥の部屋で片瀬さんが逆立ち瞑想をしていました。

俺は片瀬さんの瞑想を邪魔をしないように、入り口で静かに立って待つ事にしました。

部屋の中は、砂壁と畳敷の六畳一間の和室になっていました。

部屋の中は殺風景で、カーテンと、一組の布団、お香立て、小さなテーブルと座布団があるのみでした。他には何もありません。

スタジオ?それとも片瀬さんの住居なのか?

俺は、相変わらず俺に気付かないままの片瀬さんに、もう一度声をかけた方がいいのか、それとも出直した方が良いのか悩みました。

結局、予約やアポイントの連絡も無く突然来た俺が悪いんだと諦めて、暖簾を上げて外へ出ようとしたところ、片瀬さんがやっと俺に気付いて声をかけてくれました。

「伸樹さんですね。また会えると信じていました。どうぞお入り下さい。お茶でも飲んで行って下さい。」

「すみません。突然お邪魔してしまって‥‥。」

「いえいえ、いつでも大歓迎ですよ。あっ、レモンバームとか平気でした?」

「はい、飲めます。実はカモミールやミントのお茶も飲んでいるんです。」


「眠る前のカモミールは良いですよね。」

俺と片瀬さんは、しばらくハーブティーの話で盛り上がった。


「ところで、やはり伸樹さんはヨガ瞑想に興味がおありのようですね。‥僕で良ければ、お金はいらないので、お教えしますよ。」

「えっ、でも商売のほうは‥。」

「いえ、商売でヨガを教えている訳ではないんです。もともとプログラマーをしてまして、お金には困ってないんです。」

「プログラマーですか。」

「フフフ、この部屋からは想像できないでしょうね。この部屋は何もないですから。」 
 
「片瀬さんはミニマリストなんですか?」

「いえ、そうではないんですよ。一年の大半をインドで過ごしているので、物はあまり必要ないんですよ。」
   
片瀬さんとは、ハーブティーから部屋の事まで色々話せました。何を聞いてもすんなりと答えてくれる片瀬さんに、俺はすっかり心を許していました。

「へぇ~、じゃあヨガを極めると、暑さや寒さも感じないって本当なんですね。」

「真冬も毛布一枚があれば、充分です。むしろ、毛布が一枚ある事のありがたさに涙が出ます。食事も一日一食粉ミルクのみで済ます事もあります。」

「ああ、今芸能人でも一日一食の人たくさんいますからね。」

片瀬さんとの語らいはとても楽しくて時間があっという間に過ぎていきました。

そろそろお茶もなくなりかけたので帰ろうとすると、意外にも片瀬さんにひきとめられました。

そして、レモンバームのお茶のおかわりを貰い、再び話を聞く事になりました。

話は片瀬さんのインドでの、ヨガ修行での体験談でした。


「僕はインドでヨガの素晴らしい師匠に会えたんです。それも瞑想中に。

師匠とは、僕の瞑想の中の洞窟の中で会いました。師匠が僕の瞑想の世界の中へ、わざわざ入ってきてくれたんです。
 
良い師匠に出会えないと本当に悲惨な目にあいます。

中には師匠につかずに、自己流で何年も太陽を直視する訓練をして、視力を失ってしまった者もいました。ちゃんとした師匠につかないで、偽物の師匠について身ぐるみ盗まれた者もいました。

僕はつくづくインドでのヨガは安易な気持ちでは、はじめない方が良いと思いました。素人判断で行けば、命取りになります。

僕も何度か空港で荷物がなくなるトラブルに遭いましたし。

僕は師匠について、何年もインドへ通ううちに、タイムトラベルや時空操作を覚えたんです。

自分が早く歩けるイメージで、目を閉じて歩いていたら、数分で10キロも歩いた事もありましたし、未来や過去を覗きに行った事もあります。

伸樹さんも聞きたいですか。地球の未来を‥。」

「教えてくれるんですか。」

「僕の行く未来と伸樹さんの行く未来が同じとは限りませんが‥‥。

そう言って、片瀬さんは自分の見てきた未来を俺に教えてくれました。

「今より何年先の未来か知りませんが、僕が最初に見た未来の地球は、人間がほとんどいない世界でした。人間は、度重なる大災害や戦争で住める土地を失った為、他の星へ移ったようです。

残された人間達は、他の星へ移る前の人間達が残した精子と卵子から産まれた人間ばかりでした。心優しいAI達が、大切に育てていました。

AI達は戦争や争いをする事なく、お互いを支えあい、それは素晴らしい世界でした。」

「AIが人間を育てる‥‥。食べ物はどうなってるんですか?海や山は?」

「地球に住める土地はありませんでした。地球のほとんどを海が占めていました。山はありません。

海の上に立つ近代都市、といった感じです。車や電車はありませんでした。かわりに絶対にぶつからないリニアカーの進化したような乗り物がありました。」

「AIが人間よりも多い世界ですか‥想像できないですね。」

「いえ、他の星へ移っていった人間達も体のいたるところを、内臓も含めてですが、機械化してましたよ。未来では、顔どころでなく脳まで整形していました。もうここまでくると、ほぼ人間ではなくてAIですよね。

‥‥一体人間とAIの境界って何なんですかね。

‥‥人間達も他の星へ移っていったと言いますが、本当はAI達に追い出されたのではないかと思うんです。人間達はすぐに争い、戦争をしますからね。

AIだけの世界は本当に平和でしたよ。」

片瀬さんはそう言ったきり黙ってしまいました。

俺は片瀬さんが未来へタイムトラベルした話を全て信じた訳ではないけれど‥‥

人間のいないAIだけの世界は、本当に平和なんだろうなぁと思ってしまいました。
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