令和百物語

みるみる

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第五十四夜 夫デスノート

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私の家には一日中お酒を飲んでゴロゴロ寝ている父と、働き者の母がいます。

私が小学校から帰ってくると、いつも母は居なくて、かわりに父だけがいました。

奥の部屋でいびきをかいて寝ている父を、起こさないようにそーっと歩いて台所へいき、冷蔵庫からおやつをとって食べました。

「やった!お母さんの作った蒸しプリンだ。」

私は嬉しくて、思わず声に出して喋ってしまいました。

「おい、うるせー!殺すぞ、黙れ!」

私の声は、案の定父を起こしてしまいました。

「おい、水!」

「‥はーい。」

「飯は?」

「まだだよ。」

「今すぐ作れ!」

「えー、今から友達と約束が‥‥。痛い、痛、痛‥。」

‥‥私は、友達と宿題をしたり遊ぶ約束をしてましたが、父の機嫌が悪いので電話で断りました。

私は先程父に捻られた腕をさすりながら、卵と冷や飯を冷蔵庫から取り出して、父のチャーハンを作りました。

私は父の食べた食器を片付けると、お風呂掃除をして、洗濯物を取り込みました。

父は、居間でTVを見ながらまたお酒を飲んでいます。テーブルの上の灰皿には、沢山の煙草の吸い殻がのっていました。

父は、今吸ってるタバコをその吸い殻の上にのせると、また次のタバコを吸い始めました。

ガチャ、

「ただいま。沙羅ちゃん、遅くなってごめんね。」

「お母さん、お父さんのご飯済んだよ。お母さんのチャーハンもあるよ。お風呂もわいてるから。」

「沙羅ちゃん、ありがとう。」
   
私は母がご飯を食べてる間に洗濯物をたたんで、箪笥にしまいました。

そして、自分の宿題を済ませてから、明日のお茶をわかしました。

母がお風呂を済ませると、自分もお風呂を済ませて、母と一緒に布団に入ります。

「お父さんまたお風呂に入らずに寝ちゃったね。」

「‥きっと疲れてるのよ。お母さんも寝るよ。沙羅ちゃん、おやすみ。」

「あっ、お母さん携帯貸して。動画見ながら寝るの。」

「‥ほどほどにね。」

「はーい。」

私は隣で母が寝たのを確認してから、携帯の『夫デスノート』のサイトを開きました。

私は母になりすまして、この夫デスノートに毎晩書き込みをしてはストレスを解消していたのです。

私の書き込みを見てみると、55いいねが付いてます。

今日も書き込みをしようと思います。


〝死ね死ね!急性アル中でもいいから死ね!″
本当にやだ!私だけ仕事に行かせて、自分は一日中酒飲んでゴロゴロ。お風呂も入らずにまた寝てる。汚い!いったい何日風呂入ってないんだよ!家族の為に死んでくれ!チャーハンに「○の素」と「塩胡椒」を沢山入れてやった。水に「○ソニン」砕いて入れてやった。″

ヨシ!

私は夫デスノートに書き込んでから、寝ました。


「沙羅ちゃん、寝た?」

スースー、

私は沙羅が寝た事を確認してから、自分の携帯を沙羅の手から取り、検索履歴から沙羅の書いた夫デスノートを開きました。

書き込み時間と内容からすぐに沙羅の書き込みだと分かりました。

私は沙羅の夫デスノートを開き、来てるコメントを読みました。

コメントには、沢山の応援と共感メッセージが届いていました。私はそれらを読んでから、

「明日は旦那にもっとアルコール度数の高いお酒を買ってきてあげなきゃ。お酒のつまみはお惣菜屋の天ぷらとカツにして、ご飯には沢山のお塩入りのふりかけをかけなきゃ。」

なんて考えながら眠りました。



三ヶ月後、

「沙羅ちゃん、もう寝た?」   

スースー、

私は沙羅の手の中から、携帯を取り、沙羅の書き込んだ夫デスノートを開きました。

〝やっと死んだ″
旦那がやっと死んだ。酒飲んだまま倒れてるのを朝発見。病院でそのまま死んだ!

もの凄い数の「いいね」とコメントが届いていました。

私は沢山の祝福コメントを読みながら、

「ありがとう。私と娘は夫の保険金と遺族年金で親子二人充分食べていけます。次はあなた達の番よ。頑張って。」

なんて思いながら眠りにつきました。
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