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第六十七夜 爺ちゃん家
しおりを挟む大学の夏休み、バイトの休みが三日も取れた俺は、バイクで一人旅でもしようかと考えていた。
だが、母からの頼まれ事のせいで全て台無しになった。
「あんたバイトが休みなら、田舎のお爺ちゃんの様子を見てきてあげて。お父さんもお母さんも仕事でずっとお爺ちゃん家に行ってないし、暫く連絡も取ってないから心配なの。あと、お金も少し渡してきてあげて。お願いね~。」
母はそう言って俺にお金の入った封筒を強引に渡すと、さっさと仕事に行ってしまった。
俺は、一泊二日分の荷物を鞄に詰めて、新幹線で豊橋から京都・奈良方面を目指した。
母から往復の交通費は貰っていたので、新幹線の中でビールとお弁当を楽しみながら、祖父の元へと向かった。
駅からバスを乗り継いで、一時間近く歩いてやっと田舎の祖父の家にたどり着いた。
ピンポーン、
「爺ちゃーん、俺だよ、将生だよ。」
俺は祖父の家の玄関で、大声で祖父を呼んだ。
何回か呼ぶと、やっと祖父が出てきた。
「‥はい。誰ですか。」
「‥爺ちゃん、俺だよ、将生だよ。」
「‥まさき?孫のまさきか。‥何しに来た?」
「‥いや、お母さんが爺ちゃんの様子を見て来いって言うから来たんだけど、お母さんから聞いてない?」
「‥‥。」
「‥?明日の朝には帰るから、今日は泊めてよ。」
俺はやけに陰気臭くなった祖父の様子を訝りながらも、祖父の家へ入って行った。
中に入ると、見知らぬお婆さんが客間の丸テーブルでお茶を飲んでいた。驚きと怒りの表情で俺を見ていたので、一応挨拶をしておいた。
「あっ、お邪魔してます。爺ちゃんの孫の将生です。」
「‥‥。」
見知らぬお婆さんは、俺の言葉に何も返答をしなかった。相変わらず僕をずっと睨んで警戒心を剥き出しにしていた。
すると、玄関から客間に戻って来た祖父が、そのお婆さんにヒソヒソと何かを話しかけた。途端にお婆さんはニコニコして、俺にお茶を出してくれたのだった。
俺は出されたお茶を飲みながら、改めて祖父の家の中をよく観察した。
部屋の中は、女性が好きそうな小物や家具がたくさん置かれていた。客間から見える台所にも、調味料や食器が沢山あり、流しの開戸の取手のところには、女物のエプロンがかけられていた。
最初、祖父の恋人か茶飲み友達かと思ったこのお婆さんは、どうやら祖父ともっと深い関係性を持っているようだ。一緒に暮らしてるようなので、内縁の妻のような存在なのだろう。
俺は祖父が一人でない事に少し安心しつつも、この家に来てから祖父の様子に違和感をずっと感じていた。
だが、何となくその事に触れてはいけないような気がして、帰るまで黙っていようと心に誓った。
その晩、祖父とたわいもない世間話をして、祖父が買ってきてくれたビールとお寿司の夕食をご馳走してもらい、客間に布団を敷いて貰って寝た。
夜中、祖父とお婆さんのヒソヒソ声が聞こえてきたが、何を話してるのか分からなかった。お婆さんの話し声は外国語?のようにも
聞こえてきた。
結局、二人が何を話してるか分からないまま俺は寝てしまった。
朝目覚めると、祖父にご飯だからといって呼ばれてご飯を食べた。
二人は、これから用事があるからと言って、俺に早く帰るように促して来た。
俺はやはり何となく怪しいなぁ、と思いながらも、仕方なく帰り支度を整えて帰宅する事にした。
「あっ爺ちゃん、俺婆ちゃんの仏壇におまいりしてなかった。今からおまいりさせて。」
俺は履きかけた靴を脱いで、仏間にむかった。
「よし、爺ちゃんありがとう。彼女?も一緒に暮らしてるようだし安心したよ。じゃあね!」
俺はそう言って、祖父と別れて帰宅した。
帰る道中、俺はドキドキしていた。
あれは、爺ちゃんじゃない。偽物だった。顔は少し似ていたが、何となく違うような気もした。それに記憶の中の祖父は、あんなにも背が高くなかった気がした。
帰り際に入った仏間には、祖母の遺影が飾られてなかった。
それに、祖父と一緒に暮らしていたお婆さんは明らかに外国語を話していた。
今になって冷静に考えてみると、祖父と祖父の家には、おかしな点がたくさんあった。
‥祖父に渡すはずだったお金は‥‥あげなくて正解だった。
あの偽物の祖父に渡すかわりに俺が貰っておいた。
俺は家に帰るなり、母にその事を話して警察に相談に行った。
案の定、祖父の家にいた祖父は偽物だった。
二人は祖父とは顔見知りだったらしい。ある日、祖父と借金の事で口論になり祖父を殺してしまった二人は、祖父になりきり年金もちゃっかりもらいつつ、免許証も通帳も勝手に使って、住民票まで祖父になりきり役所で発行してもらっていたらしい。
祖父の遺体は、祖母の遺影と共に縁の下の土の中から見つかった。
遺体は白骨化していたという。
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