月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第73話 初めての買い物

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月の魔女とよばれるまで

第73話 初めての買い物

冒険者ギルドで、魔石の換金を行ったことで思った以上に資金に余裕が出来た。金貨8枚は、流石にCランクと言えど馬鹿に出来ない金額であった。

大体一回の依頼で入る金額がCランクの場合金貨10枚前後の物が多いからだ。おかげで、領都ウエストエンドに行くまでの資金を稼ぐことが出来たのだから。

流石に、受付嬢が後ろに行ってからパウエルたちは冒険者ギルドを後にしていた。それ以上、長居をする必要性もなかった。こちらをちらちら見る冒険者たちも多かったことで、その視線がうっとうしいと思ったこともあったからだ。

かなりの数の魔石を売却したことが注目を集める結果になってしまったのだった。それだけ、ここの冒険者たちの質が低いと言う証明でもあった。

実際アイスジャイアントの魔石を売ろう物なら、流石に金貨100枚は堅い。そして、沙更の魔力を込めた宝石を売ったら、それで済むはずが無く、それ以上の値段が付くのは確実視されていた。

それだけに、商業ギルドも巻き込むかたちでの大事になるのだが、それは後の話。

まとまったお金が出来たことで、足りなくなってきた食料を買い求めようと思うのは当然の話だった。少なくても、ここにある食料では心許ないと言って良かった。

昼過ぎともなると既に、市場もある程度売り切れが出てくる時間だった。お目当ての物を買うならば、早朝に行かなくては手に入らないのだから。

開拓村の面々も買い物に来る為、ここの人口よりも物の動きが活発であって、それなりの品が集まっているのがよく分かる。それ故に、売り切れた品が目立っていた。それでも、まだまだ人が居るのは掘り出し物をさがしているのだろうか?

そんな光景をみて、パウエルが口を開く。
「思った以上に、なかなか繁盛してそうだな」

「食料系はやっぱり朝早くないと物が少なくなってるね。残ってるのは小麦粉とか葉物の野菜くらいかな?」

ミリアが露店を遠目で見て、確認出来たのがそれくらいだった。でも、小麦粉と聞いてセーナとしてはかなりバリエーションが増えるなあと思っていた。小麦粉はいろいろな物を作るのに必要だからだ。

「小麦粉と葉物の野菜を買ってきます。これで、少しはいろいろと作れるようになるので楽しみです」

沙更がそう言うと小麦粉と野菜が売っている場所へと走って行く。その後をミリアが何も言わずについて行く。沙更だけでは面倒ごとに巻き込まれた場合、被害が大きくなりやすい。だから、ミリアで捌くつもりだった。

市場に行く沙更に、セーナがパウエルから渡されたお金を渡す。ここで、一番買い物をするのは沙更だったからだ。食料の善し悪しまで分かるのが沙更だけだったというのもあったのだが。

「はい、セーナちゃん。銀貨4枚渡しておくね、これだけあればそれなりには買えるから」

「ありがとうございますミリアお姉さん。野菜と小麦粉のめぼしいのがあれば買ってきますね」

お金を受け取った沙更が向かったのは、市場でも若干端の方の露店だった。旗に小麦粉ありますと書いてあるあたり、小麦粉が主力のようだ。

沙更がやってくると露店のおばさんが微笑ましいと思ったらしく、声をかけてきた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。なにをお探しだい?」

「小麦粉と葉物の野菜とこの丸い野菜をこれで買えるだけ買いたいんですけど」

そう言って、見せた銀貨四枚におばさんの顔が引きつる。

「お嬢ちゃん、あんたうちの品物全て買う気かい?それでも、この金額だとおつりが来ちゃうよ」

「銀貨4枚で、これ全て買えるんですか?」

「小麦粉全てで銀貨1枚と銅貨8枚に葉物の野菜と丸い野菜の全てで銅貨7枚さ。銀貨1枚と銅貨5枚がおつりになるよ。でも、良いのかい?他に買う物もあるんじゃ無いのかい?」

露店のおばさんは心配そうにセーナの顔を見る。お使いだと思っているのはセーナとしても好都合だったから、そこを否定する気はなかった。

「はい、小麦粉と野菜を買いに来たので大丈夫です。じゃあ、銀貨三枚で良いですか?」

「ああ、ありがとうよ。今日も売れ残ると思ったんだけど、あたしの方こそお礼を言わないといけないねえ」

「えっと、いつもここに露店を出しているんですか?」

沙更は露店のおばさんにそう聞く。目の前で見る小麦粉の質は、今見えるこの辺の露店で売っている物よりも1ランク上の物だった。実際、軽く魔力鑑定をしつつ、おばさんに話しかけていたのだ。おつりの銅貨5枚を受け取りつつもさらに話を続ける。

「ああ、今の時期は小麦の収穫時期が終わってすぐだからね。うちで取れた小麦を粉にして売っているのさ。野菜もうちで作ったやつなんだよ。でも、小麦粉は良いとして野菜をこんなに買って使い切れるのかい?」

「それは、大丈夫です。結構大所帯なので、これくらい買わないとすぐなくなっちゃうので」

「大変そうだねえ。そうだ、お嬢ちゃんが一杯買ってくれたから、これをおまけしてあげるよ」

そう言って、おばさんが渡してくれたのはとうもろこしだった。二十本くらいはあるだろうか。

「おばさん、これ良いんですか?」

「ああ、良いんだよ。それは、余り育てて無くてね。売れない物でもあるのよ」

おばさんの言葉に、セーナは衝撃を受けた。とうもろこしは塩ゆですれば、甘みが増しておいしくなるのをこの世界の人たちはどうやら知らないのかもしれないと思ったからだ。

「おまけ、ありがとうございます。また買いに来ますね」

「嬢ちゃんみたいな上客はいつでも歓迎だよ。またおいで」

お礼を言って、おばさんのいた露店を離れる。そこに、ミリアがセーナの側に寄る。ある程度治安は守られているものの、警戒するに越したことは無いとミリア自身が思っていたからだ。

「セーナちゃん、どう?良い物を買えた?」

「ミリアお姉さん、小麦粉と玉ねぎに葉物の野菜が買えました。露店のおばさんにとうもろこしをおまけして貰ったので、後で塩ゆでしますね」

「とうもろこしねえ。あれ、おいしいの?生でしか食べたことが無いから、甘いのは分かるんだけど」

「ミリアお姉さんもですか、とうもろこしは塩ゆでしてあげると甘みが増すんですよ。おやつにいいかもしれませんし、スープにしても甘みが出ればおいしいですよ。戻ったらすぐにやりますね」

沙更がそう言う物だから、ミリアはそれ以上なにも言わない。料理に関しては沙更にお任せだったからだ。
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