月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第139話 辺境伯の屋敷にて1

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月の魔女とよばれるまで

第139話 辺境伯の屋敷にて1

とりあえず、古代遺跡調査の依頼に関する報告は無事に終わり、ウエストエンド冒険者ギルドを後にする。再度右門に戻ってくると既にジークとリエットが5人を待っていた。

「予想外に時間が掛かった様子ですかな?こちらの用意は終わりました。お屋敷へとご招待しましょう」

「ジークったら張り切りすぎよ?冒険者の皆さんと小さい治癒士様には、ささやかな食事やお菓子も用意してあるの。楽しみにしていてね」

無事にウエストエンドに戻ってこられたことが嬉しいらしく、リエットの表情に変化が現れていた。それを見た沙更は心の傷はあるとは思うけれど、日常生活を送るだけなら大丈夫かもしれないと感じた。

(ジークさんと再会したことで、心に余裕が出来たみたい。私が心配しすぎだったのかも知れないけれど、これならもう大丈夫そう)

そう思いつつも、沙更を含めた5人はジークが乗ってきた馬車に乗り込む。辺境伯が持つ馬車でも大人数を乗せられる4頭立ての馬車はかなりの大きさだ。中も魔獣の一枚革を使った高級なシートを使っていて座り心地はかなり良かった。

ウエストエンドは王国の中でもかなり古い町で、石造りの家や石畳が多い。そんな石畳で出来た道を一行を乗せた馬車が駆けていく。

沙更はそんな中こうなったのが、自分がリエットを助けたからだと思うと不思議な気がした。

「リエット様、今後どうされますか?先程表情を確認しましたが、精神的にジークさんと再会したことで大分精神的に安定してきています。通常の生活なら大丈夫かと」

「えっ、幼い治癒士様がそう言うのなら…。確かに、ジークに会えてほっとしたのは確かですし、頼れる相手がいるのはやはり違うのですね」

「人の精神は安定しているようで、揺れているもの。リエット様は、信頼出来る人を沢山作ると良いでしょう」

沙更として、軽い助言をリエットにしておく。いづれ、親の辺境伯と争うことになろうとも培ってきた絆が役に立つことを信じて。

それを傍らで聞いていたジークは、この幼い娘の知恵に驚いていた。まるで、長年生きたかのような助言だったからだ。しかも、親て敵対していることすら知っての助言なのだ。普通ならば関与することすら厭う程なのに、それすら気にもしていないと言う反応は珍しすぎた。

貴族と敵対することは基本的に人生の破滅を意味していると言うのに、この幼い娘はそれすら弾き返す力を持っているようにジークには感じられた。

(やはり、あの強い魔力は彼女の力。あれほどの魔力は、貴族どころか王族ですら敵わぬほど。彼女は、一体何者なのだ?)

ジークには、沙更の力を感じてしまうが故に気になって仕方がなかった。これだけの魔力を持ち合わせる人など今まで存在すらしていなかったのだから。
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