月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第144話 辺境伯の屋敷にて6

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月の魔女とよばれるまで

第144話 辺境伯の屋敷にて6

沙更の作ったバタークッキーはやはり、辺境伯の屋敷の人間でも食べたことがない味だった。

「これだけの香りとほのかな甘みがほどよく上品そのものですぞ。これだけでも商売出来そうな程の出来栄えです」

「少なくともウエストエンドでは食べたことがない上品な味です」

ジークとメアリーが、沙更のクッキーを食べてそう感想を話してくれた。膨らまし粉がない中で作れば、パサついてしまっても仕方がないかもと思ってしまう。もっとあっさりと作って、サブレでも良かったかもと思ったが。

感想を聞いて、さらに考える沙更にリエットはやはり凄い子だと思っていた。

(あんなお菓子を作ったのに、偉ぶりもしないし、また考え事をし始めるなんて本当に凄い。そんな人に助けてもらえたのは運が良かったと言うべきなのでしょう)

そう考えるのは、それだけ感慨を受けたからと言うしかない。助ける理由もないのに、魔法を試したかったからと助ける人間は普通はいない。

理由もないのに助けてくれたと言う事実だけがそこにはある。だから、何かを返したいと思うのかもしれない。

ジークは、あまりのお菓子の味にお礼をするどころか、さらに恩が増えたことに苦笑を浮かべるしかなかった。リエットを助けてくれたこの幼い娘に、これだけのことをされてしまうとは予想もしていなかったのだから。

「これだけのお菓子ならば、商業ギルドも黙っていないでしょうね。露見すれば、本当に派手なことになります」

「ジークさんやリエットさんはこのクッキーのレシピを欲しいですか?」

沙更はそう言ったが、唯一作る現場を見ていたメアリーが首を振った。フレイムスクエアの火力調整が前提条件の時点で、沙更にしか作れない代物だと言うことに気づいていたからだ。

「あの魔法が前提ならこの子以外には作れないのではと思うのです。もし、あの魔法以外にも作る方法があるのなら是非とも教えてほしいです」

それでも、素直に欲しいと言えたことがメアリーのいい点であった。

沙更として、あの魔法は手間を惜しんだからであり、それ以外の方法も知っていたが、すぐに出来ることではないことから魔法で代用したに過ぎないのだから。

「魔法は手間を惜しんだから使っただけで、本来は窯を予め暖めて置かないといけないこと。そうじゃなければ、サックリとしたクッキーは作ることが出来ないのです。後、あの魔法自体私の独自の物なので他の方には使えないかと」

あっさりと種を明かしてみるとリエットもジークもメアリーもとても驚いた顔をしていた。これだけの味のお菓子の作り方だけにあっさり教えてくれるとは思っていなかったからだ。

沙更からしたら、そこまでクッキーの作り方をもったいぶる必要はないし、メアリーの素直な気持ちに応えてあげたくなっただけだった。
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