月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第143話 辺境伯の屋敷にて5

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月の魔女とよばれるまで

第143話 辺境伯の屋敷にて5

沙更が焼き上げたクッキーは、バターの香りが香るプレーンクッキー。本来ならばベーキングパウダーを使うところを重曹にしたことで、ビスケットではなくクッキーになってしまったが、それでも香りだけでも先ほどの物とは違うことを体現していた。

「なんかバターの香りが香っていますね。なんだかおいしそうです」

メアリーが初めて見る物ではあったが、これだけバターの香りが香る物は他で見たことが無かった。そんなメアリーを見て沙更が一つクッキーを差し出す。

「メアリーさん、一つ味見はいかが?」

「えっ、よろしいのですか?」

「ここまで案内していただきましたから、お礼にです」

沙更がそう言って、メアリーの手に一つクッキーを渡す。それを口に運ぶメアリー。口に入れた途端に広がるバターと控えめながら甘みがある生地。パサつかず、そしてサクッとする食感。

食べて、メアリーは思った。このクッキーは凄すぎると。同じ材料で作った先ほどのビスケットとは完全に別物として出来上がっていた。

「なんでしょう、この口当たりの良さと言い。パサつかずにバターの味とほのかに甘みがある感じがとてもおいしいです」

「同じ材料でも作り方が変われば、料理する人が違えばこれだけ違うのです。これをジークさん達に出しましょう。ある程度の数は作りましたから」
やはり、クッキーやビスケットは焼きたてが一番おいしいと沙更は思う。だから、焼いてすぐに出してあげたいと思っての行動だった。

小さめの厨房から焼きたてクッキーをリビングに持っていく。その間も香るバターのにおい。

リビングに来る頃には、余りのにおいにジークやパウエル達が沙更が来るのを待っている状態だった。

「良い匂いですが、バターですかな?持ってくるまでにこちらにも香ってきましたよ」

「やはり、セーナちゃんの料理の腕は凄いな。お菓子まで作れるなんて、そんな人間そんなに居ないぞ?」

「うん、おいしそうな匂いだね。セーナちゃんが作ったってすぐ分かるよ」

「良い匂いじゃねえか。焼き菓子でもさっきのと全然違うな」

「セーナちゃんの腕は凄いわね。お菓子までいけるなんて思ってなかったわ」

5人ともクッキーの匂いをかいでの感想なのだが、やはりミリアとヘレナの食いつきが凄い。が、それを上回る人間が一人居た。そう、リエットだ。

「幼い治癒士様が料理が出来るのは知っていましたが、お菓子もだったのですね。これだけの匂い、本当に誘われてしまいそうです」

沙更としては驚きではあったものの、やはり膨らまし粉の概念が無い状態では、パサついてしまうのも仕方が無いのかもと思う。

「私特製バタークッキーです。毒味は既にメアリーさんにして貰っていますし、毒を入れたりしていませんのでどうぞ手にとってください」

そう言うが早く、ミリアが先に手を伸ばす。やはり、こういう場面ではすばやさが物を言うらしい。

食べると同時にバターが香って、すぐに崩れていくがほのかな甘みが出てくる。余り大きくは作っていないために、数口食べればすぐに無くなってしまう。

そんな状態なので、30枚近く作ったのだが女性陣の行動が早すぎてすぐに売り切れてしまった。
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