月の魔女と聖剣

空流眞壱

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第22話 王都手前の大戦(おおいくさ)2

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月の魔女と聖剣

第22話 王都手前の大戦(おおいくさ)2

 王都の前に陣を張っている貴族の私兵達がリエット達を見つけて一気に行軍してきた。

 弓矢も飛んでくるが、それらは沙更が展開するウインドプロテクションによって弾かれていく。馬車全体を覆う程の範囲を防護するのは、魔法士としても高位なのを知らしめるかのようだ。

「くっ、弓矢を弾くだと!?しかも馬車全体をとなれば、あれが噂の辺境最強の冒険者たちという事か」

 私兵達の隊長は、相手の魔法により完全に弓矢での援護が出来ない状況にされたが、数は千倍にも及ぶだけに確保出来ると踏んでいた。が、相手が悪すぎることに気づいていない。

「まずは、弓矢を無効化出来ました。数でのごり押しを防ぐなら、ここに土の要塞でも作りましょう。王都の交通を遮断してしまいますが、相手が退けば直ぐに元に戻せますし」

 沙更はそうさらっと言うが、それが出来る魔法士は彼女だけだ。守る側として、砦が欲しいのは当然の話。平地で、数を頼りに押されては万が一があり得るし、危険度が高すぎた。

 それに、貴族の私兵だけにこれだけの人数を集められたが、食料や水を王都からの供給で補った場合、王都に住む民たちからの怒りが炸裂するのは目に見えていた。数千の兵を養うだけの兵站を確保するのは並大抵の努力ではないからだ。

 迫る貴族の私兵たちを見つつ、沙更は土魔法を操る。弓矢だけならず4属性の魔法すら飛んでくるが、それすらディヴァインベールの光の膜がそれ等を受け止めてかき消していく。2つの魔法をあっさりと操れる腕を持つのはまさに宮廷魔法士でも無理な話であり、私兵たちに動揺が広がるのも無理はなかった。

「なっ、魔法すら効かないだと2つの魔法を同時に操ると言うのか!?ありえん、そんなのは嘘だ」

 報告を受けて、取り乱す私兵の隊長。魔法を防ぐ魔法は失われて久しい。が、古代魔法士の英知を引き継ぐ沙更には訳もない。

 だが、ここで更に追い打ちがかかる。土魔法により、堅固な小要塞が地面から盛り上がってきたのだから。地面から盛り上がって出来た小要塞は、頑丈な岩肌を見せるように築き上げられていた。

 瞬時に作られたそれを見て、貴族の私兵たちが動揺しない訳がなかった。相手の力をまざまざと見せつけられる格好になっているし、門は岩で出来てるから容易に突破出来る物でもなかった。石造りの要塞をあっさりと作られては、攻める側として最初の思惑など吹っ飛んでしまって、攻め方を考えなければならなくなった。攻城戦の兵器など持ってきているわけがなかったからだ。

 本来ならば、援軍が来ないのに籠城は御法度なのだがそうしたのには理由があった。荒野の狼側として、相手の兵站がそれほどないだろうと踏んでいたこととガーゼルベルトが動けるだけの時間を稼ぐ事。

 カタリーナへ送った保険がこの戦いの鍵になる。王都の前でこれだけの大騒動を引き起こせば、王家としても動かざるを得なくなることも頭に入れてのことだ。

「さてと小さい要塞が完成しましたし、しばし引きこもりましょうか」

 沙更の言葉に、リエットと御者、そして荒野の狼のみんなして脱力してしまう。あれだけの数を相手どると意気込んだのにあっさりと砦を作って籠もる形になってしまったからだ。

「確かに、正々堂々とあれだけの数を相手にするのも馬鹿らしいとは思うけど、これはやり過ぎじゃない?」

「けれど、これで相手は攻城戦の用意をしなければならなくなりましたわ。時間稼ぎにはもってこいだと思います。小さい治癒士様は、大伯父様が動く時間を稼ぐお積もりですか?」

「宰相様と王家の方々はこれを見逃せないと思う。だから、貴族たちの暴走を止めるには時間を稼ぐ必要があったの。それに、相手の戦法に乗っかるのは私の主義じゃないし、ミリアお姉さんや荒野の狼のみんなを死地に追い込むのはなし。リエット様に心の傷を追わせるのも護衛として失格でしょう?」

 沙更はあっさりとそう言う。カタリーナへ手紙を送ったことも話をしていただけに、仕掛けてくるのが分かっていて、思惑に乗る気は無かったのだ。

「確かにあの数は、一年前の氾濫より少ないが面倒なことには変わりねえな」

「こちらの安全をセーナちゃんは優先してくれたってことだろう。引きこもるのはいいが、食料や水はいつまで持つ?」

 パウエルがしっかり聞くのは、籠城出来る時間を確認する為だ。食料も水も沙更の虚空庫に収められている。おかげで新鮮な野菜や肉、水も美味しいまま。籠城するのに、食料や水がなければ出来る話ではない。

「食料も水も二週間以上はあります。それと保険が効かなかった場合は、私の魔法で文字通り吹き飛ばします。王都に影響がない範囲でですけど」

 沙更の言葉にヘレナが青い顔をした。それでなくてもモンスターの氾濫時に、半数以上を魔法で消滅させたのは記憶に新しい。あの時の魔法は厄災レベルと言ってよかっただけに、また使う気かと思われたようだ。
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