月の魔女と聖剣

空流眞壱

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辺境伯対他貴族

第73話 超えてはいけない一線

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月の魔女と聖剣

第73話 超えてはいけない一線

 カタリーナへの相談を終え、孤児院に戻ってくると異様な雰囲気になっていた。アレク司祭とシスターたちが孤児院の入り口で、男達と対峙していたからだ。

「教会の土地に踏み入るとは、貴方方は国の関係者ですか?」

「貴様に我らの事に関しては話す気は無い。この場所を接収するように上から言われているのでな」

 前に出た男がそれだけ言うと後ろに控えていた男たちが剣や斧でアレク司祭とシスターたちに襲いかかる。アレク司祭とシスターたちもメイスなどを持っていて、防戦していくが力量差があり、危なっかしい感じであった。

 それを見たパウエル達は孤児院の入り口の側まで加速すると男達がパウエル達に気づいて、驚きの表情を浮かべる。ここまで早く戻ってくると予想していなかったようだ。が、先ほど先頭に出た男はパウエル達を見て値踏みする。

「これはこれは、荒野の狼の皆さん。貴族に逆らった愚か者、お前達が戻ってきたのなら話は別。血祭りにして差し上げよう」

 その声を聞いた沙更が一気に魔力を解放する。一気に放出されていく濃密な魔力に、アレク司祭やシスターたちに襲いかかった男たちも背後から膨大な魔力の圧を感じて、一瞬の隙を作っていく。その隙を突いて、いったん入り口前にアレク司祭とシスターたちを退かせることが出来た。

「貴方たちが邪魔をしていたと言う事ですか、そうですか…」

 沙更はそれだけ言うとさらに魔力を解放していく。あまりにも膨大な魔力量に、先頭に立つ男も沙更の存在が危険なことだけは理解出来たらしい。

「くっ、これだけの魔力を持つ者など…。まさか、貴様が月の魔女か!?」

「これだけの魔力を持つのは私だけ、その時点で答えは出ているはず。孤児院を接収などさせない。貴方方にその権利はない!」

 魔力を放出させつつ、沙更は抑揚のない声でそう言い放った。沙更の横から真顔になったミリアも出て行く。

「孤児院に敵対するのなら、あたしが本気を出さないわけがないのに」

 沙更の側を離れたと思ったら、エアウォークの効力を生かして孤児院の入り口側まで一気に移動する。アレク司祭たちの負担を軽減させるためでもあり、ここを守ると決めているからであり、その速度に男達が妨害することも出来ない。

「カタリーナ様に敵対する貴族の手下なんだろうが、リーダーや俺やミリアとマジでやり合って無事で済むと思っているのかよ」

 ミリアがアレク司祭側に行った事を見てからガレムがそう言って、聖鋼の斧を背中から引き抜く。パウエルも魔鉄の青い剣を抜き、ヘレナも魔鉄のメイスを持ち、臨戦態勢に移行していく。

 男達もアレク司祭たちよりも先にパウエル達を排除しなければ、孤児院を接収することは出来ない事を悟ってこちらから襲いかかってきた。

 先に潰すのは沙更だと果敢に攻めてくるが、その動きに対応して沙更が無詠唱で仕掛けるは超音速の刃エアブレード。普通の魔法士の数百倍の魔力を使っての一撃は、近寄ろうとした男の片腕をあっさりと切り飛ばした。普通のエアブレードなら腕でも深手は負わせることが出来るが切り飛ばすことは出来ない。

 が、沙更のエアブレードは切れ味も速度も段違いであり、見て回避出来るのはミリアくらいだろう。見慣れていて直線に動くと言う事が分かっていない限り避けることはほぼ不可能であったから。

 沙更に襲いかかると同時にミリアやガレムにも仕掛けるが、それで相手の動きが易々と追えるのは二人とも冒険者として一流を超えたところにいるからだろう。

 男達の斬撃に、ガレムの聖鋼の斧が合わせる。相手の行動を見てから動いても余裕で合わせられてしまうことに、襲撃してきた男達が驚愕した。そして、相手の武器をあっさりと切断していく辺りは流石に素材の差がありすぎると言うこと。

「死にたいやつから来な。俺の相棒が死出の旅路に誘ってやるぜ」

 ヘレナを守りつつ、迎撃しているパウエルも男達の力量を既に見切っていた。男達の動きはベテラン冒険者に近いが暗殺者にも近い。が、それだけだった。

『ある程度こういった仕事に慣れているのだろうが、俺の剣でも十分に通用する』

 剣と剣が打ち合わされると同時に他の男が斬りかかるが、それにもその場からいったん後ろに退いて、近寄る男に一撃を加える。沙更と出会う前なら厳しかっただろうが、死線を伊達に乗り越えてきてはいなかった。

 アレク司祭たちを守る為に移動したミリアは、数人がかりで襲いかかる男達の動きを読んで最小限の動きで相手の武器を回避していた。

「回避するだけじゃ、俺たちを止められねえぜ」

「この動きであたしを止められると思ってるの?そう思ってる方が呆れるよ」

「なんだと!?」

 男達はミリアを囲む形で動くが、それを見てミリアは白の直刀を出して腰に差す。そうしておけば、いつでも使えるからで、一斉に仕掛けてきた男達がミリアを捉えたと思った時にはミリアはそこに居ない。相手の攻撃に合わせて、その場から体を回転させつつジャンプして後方に移動していたからだ。

「なっ、捉えたはずがどうして」

「残念だけど、あたしを捉えるのならもうちょっと腕が必要かな」

 そう言ったところで、さらに仕掛けてきた男達の攻撃に反応して白の直刀が閃く。男達の動きに合わせて、相手の武器と白の直刀を合わせた結果、次々と切り飛ばされていったのは男達の武器だった。

 そもそも、白の直刀はミスリルでも打ち合える頑丈さがあることを知らない時点で男達に勝ち目はなかったのだ。

 次々と武器を失うか傷ついて倒れていく男達。先頭に立った男は、その戦いを見てあまりにも戦力差がありすぎる事を理解するしか無かった。

『数人ずつで仕掛けても返り討ちにされているとは…。これはあの方の予想を超えている』

 攻めきれないことを悟った先頭の男は、周囲に閃光の魔法を放って目くらましをすると同時に孤児院の外に配置していた別の集団が中に入って、倒れた男達や武器を失った男達を回収していった。

 引き際だけはわきまえていたらしい。沙更としてもそこだけはしっかり出来ているんだなと変に感心してしまった。そのまま置いておかれてもこちらも困るだけに、追うことはしない。下手に追ったところで痕跡を消す位はやってのけるだろうと推測も出来ていたからだ。
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