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第22話 恋話

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 僕は殺す対象を調べるのが好きなのか、連日モンスター図鑑と動物図鑑を読み耽るようになった。
 調べてみるといるもんだ。殺すのにちょうどいい生き物が。まずは「パープルキャット」というモンスター。姿形はネコなのだが、毛の色が毒々しい紫色で、牙に毒がある。王都に時々出没していて、これは退治すると市民から感謝される。見た目も色鮮やかで剥製にしても見栄えがよい。それと「ハナサキオウム」。見た目は花の模様があって、とても綺麗な鳥なのだが、凶暴で、害悪モンスターとして名高い。これも殺しても問題なかったし、剥製にしても綺麗だった。

 これで、わりと綺麗なモンスターの剥製コレクションが部屋に加わった。剥製にしてくれるところはスーに探してもらった。ネズミやカラスも一応一体は剥製にした。

 しかし、これは、あまり人に見せちゃいけないだろうと判断し、リリイの部屋を参考に自室を二つに分けた。入口の近くの方の部屋には本や勉強机や、ソファーを置いた。奥の部屋は剥製と枯れた花の部屋だ。当然、スーをいじめた連中と僕をいじめた連中の頭蓋骨も将来はここに加わる。ベットはここに置いて、僕は剥製に囲まれながら寝起きした。

 僕はレベル10にまでなっていた。留年組を除く8人の中では、リリイ、キャサリンに続き三番目にレベル10に到達した。

 ある日のことだ。夕方、僕はロビー魔導書を読んで過ごしていた。ロビーには、リリイもいたし、他にもトイやショウなど特殊クラスの生徒が何人かいた。
「あら……?」
 リリイの声が聞こえたので、本から顔を上げると、リリイが何か上の方を見ていた。
「リリイ、どうしたの?」
「今、何か通ったわ」
 リリイの言うとおり、ロビーの奥のソファーの辺りから何か音がする。僕がソファーに近づくと、何かがソファーから飛び立ち、壁に張り付いた。
「ムササビだわ」
 リリイが言った。一応この地下にも階段はあるし、どこからか紛れ込んだのだろう。
 僕は即死魔法の呪文を唱えようと、ムササビを指差した。対象物を指差した方が、呪文を上手く対象物に当てられるからだ。呪文を唱え始めたとき、
「待って」
 リリイが、僕の手を握って呪文を止めた。
「殺すのは、可哀想だわ。風魔法を使って外に誘導してあげましょう」
「あ、あ、ああ……」
 リリイに言われ、僕はあっさり手を降ろした。リリイは、僕の手を離すと、風魔法の呪文を唱えて、階段の方にムササビが飛んでゆくよう誘導するべくロビーを出ていった。

 僕は、今さっきリリイに握られた手を見つめた。リリイの手は、白くて細くてすべすべして、そして少しひんやりしていた。なのに、さっきから僕の顔も手も熱い。

 ふと視線を感じて、横を見ると、トイとショウがにやにやしながらこちらを見ている!

「キルルはわかりやすいなあー。ムササビに殺気を放ってた時とはうって変わって真っ赤になってるよー?」
 トイが僕の方に近づいてくる。
「そ、そりゃ、女の子に急に手を触られたらさ……」
「ふーん?」
 ショウが不意に僕の手を握る。
「全然顔色変わらないけどお?私も女の子なのになあー?」
「ちょ、ちょっと!」
「はーい、クイズです! キルルの好きな娘はだーれだ?」
「トイ!変なクイズ作らないで!」
 完全にからかわれている……
「まあまあ、キルルにもそんな一面があって安心したよ。普段は動物殺しばっかしてるんだからさ、たまにはそういう顔も見せてくれよ」
 トイの発言に僕は目を見開いた。なんで知ってるのさ。
「なんで知ってるのかって顔してるけど、いろいろ殺さなきゃこんなペースでレベル上がらないだろ。だいたいなにやってるかぐらい察しはついてるよ」
「あ……」
 トイの言うとおりだ。僕がレベルをどんどん上げているということはそういうことであって……
「ねえ、リリイは、僕が動物殺してることどう思ってるだろ?人一倍自然と動物が好きな子なのに」
「まあ、それがキルルのやらなきゃいけないことだってわかってるだろうし、大丈夫じゃね? さっきみたいに止められたら殺さないわけだし」
「そうかな……だといいけど」
 少し、不安だ。先代の即死魔道士も、片思いで終わったみたいだし、大丈夫だろうか。とりあえず、嫌われるのは嫌だ。あの剥製部屋は絶対見せないでおこう。

「そうだ、ムササビを殺すのって可哀想なの?」
 僕はさっき、あまり深く考えず殺そうとしてしまった。ロビーにいたら邪魔だから殺していいだろうと思ったんだけど。
「うーん? ちょっと可哀想かも?」
 ショウが答えた。
「どうして?」
「そんなに害があるわけじゃないし」
「なるほど……」
 僕は、犬や猫も殺しては可哀想とは思っていない。可哀想と思う人が多そうだから殺さないだけだ。ムササビは目の前に始めて現れたので殺したらどう思われるのかわからなかった。この点も気をつけないといけない。
 

 
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