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第74話 餌
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この国には、「蘇生魔道士」という、死んだ人を生き返すことができる魔道士がいるわけだが、じゃあこの国の人が「死んだ人が生き返る」という概念を持っているかというと、そうではない。
なぜなら「蘇生魔道士」の存在をほとんどの市民は知らないからだ。今のところ「蘇生魔道士」はリリイとリリイの母親の二人だけであり、しかもリリイはまだ死んだ人を生き返すレベルには到達していないから、実質死んだ人を生き返せるのはリリイの母親一人である。
「特殊魔道士」の存在自体、知らないという人がほとんどなのだ。実際、魔法使いに憧れていた僕でも適性検査を受ける日まで「特殊魔道士」の存在を知らなかったのだから。
アレンも、僕と出会うまで「特殊魔道士」の存在を知らなかった。つまり、あの飛び降りは本気で死に向かっていたわけである。
「キルルさん」
レベル上げのために学校を飛びだした僕をアレンが呼び止めた。約一月前、僕に殺人依頼をしてきたときと同じ状況だ。
「アレン、どうしたの」
「ちょっと、お話が」
僕はこの間と同じように、近くのベンチで話そうとしたが、
「ここで話すのはちょっとあれなので、こちらに……」
アレンは学校の近くの林に向かおうとした。
学校は王都の中でも外れの方にあるため、林が近くあるのだ。
林に入ると、アレンは木の下にある大きな荷物の前に向かって歩いていく。
「その荷物、アレンのなの?」
「はい、キルルさん、今日はこれを持ってきました」
アレンが大きな鞄から取り出したのは籠だった。中には白いフクロウがいた。僕の気配に戦いているのか籠の中で暴れまわっている。
「かわいい!! この子、どうしたの?」
「僕の実家で飼っていたものです。うちの故郷にはよくいるので捕まえたものですが、この辺では珍しいようなので」
「そうなんだ」
「キルルさん、どうぞ、殺してください」
「え?」
「こういうの、殺したいって仰ってたでしょう。さあ、どうぞ」
アレンがずいと籠を差し出した。白フクロウは僕から離れたところの籠の隅に張り付いて背を向けている。これから何が起こるか察しているようで怯えているようだ。
「だけど、大事なペットなんじゃないのかい?」
「構いません。依頼料だと思って受け取ってください。近いうちに僕も死ぬ予定ですしね」
アレンは、こんな時に限って生き生きした顔をする。
僕は、白フクロウの後ろ姿を見つめた。羽には黒い斑点がところどころあり、よく回る首で時折僕を見つめる。黄色くて綺麗な目だった。
ああ、やっぱり綺麗。殺して持って帰りたい。
結局僕が迷っていたのはすごく短い時間だった。即死魔法の呪文を唱える。今までにないわくわくした気持ちが溢れて声が震えた。
呪文を唱え終ると白フクロウはあっけなく絶命した。籠の中で眠る白フクロウを僕は早速引っ張り出した。まだ温かかったが、直に冷たくなっていくだろう。
「かわいいなあ。この子、もらっていいんだよね?」
僕は白い羽を夢中で撫でた。
「どうぞ。喜んでくれたようでなによりです」
「うん、こういう綺麗な生き物も部屋に欲しかったんだ。ふふふ」
しかし、ふと我にかえった。僕は今まで、殺したい殺したい言いつつも、モンスターと、人間に害をもたらした動物しか殺してこなかった。だけど、とうとうなんの罪もない生き物を手にかけてしまったんだ。
「キルルさん?」
僕の様子に気づいたアレンが話しかけた。
「い、いや、ありがとう」
「これからも、こういうのたくさん持ってきますね」
「え……」
「キルルさんには、将来は見境なく人を殺す人になっていただかないと、僕が死ねないですから」
「なっ……!」
この白フクロウは、餌だったのだ。
僕を立派な人殺しにするための――。
「や、やめてよ。僕はこれで十分だし。もう持ってこないで」
アレンはただ静かに微笑んだ。
なぜなら「蘇生魔道士」の存在をほとんどの市民は知らないからだ。今のところ「蘇生魔道士」はリリイとリリイの母親の二人だけであり、しかもリリイはまだ死んだ人を生き返すレベルには到達していないから、実質死んだ人を生き返せるのはリリイの母親一人である。
「特殊魔道士」の存在自体、知らないという人がほとんどなのだ。実際、魔法使いに憧れていた僕でも適性検査を受ける日まで「特殊魔道士」の存在を知らなかったのだから。
アレンも、僕と出会うまで「特殊魔道士」の存在を知らなかった。つまり、あの飛び降りは本気で死に向かっていたわけである。
「キルルさん」
レベル上げのために学校を飛びだした僕をアレンが呼び止めた。約一月前、僕に殺人依頼をしてきたときと同じ状況だ。
「アレン、どうしたの」
「ちょっと、お話が」
僕はこの間と同じように、近くのベンチで話そうとしたが、
「ここで話すのはちょっとあれなので、こちらに……」
アレンは学校の近くの林に向かおうとした。
学校は王都の中でも外れの方にあるため、林が近くあるのだ。
林に入ると、アレンは木の下にある大きな荷物の前に向かって歩いていく。
「その荷物、アレンのなの?」
「はい、キルルさん、今日はこれを持ってきました」
アレンが大きな鞄から取り出したのは籠だった。中には白いフクロウがいた。僕の気配に戦いているのか籠の中で暴れまわっている。
「かわいい!! この子、どうしたの?」
「僕の実家で飼っていたものです。うちの故郷にはよくいるので捕まえたものですが、この辺では珍しいようなので」
「そうなんだ」
「キルルさん、どうぞ、殺してください」
「え?」
「こういうの、殺したいって仰ってたでしょう。さあ、どうぞ」
アレンがずいと籠を差し出した。白フクロウは僕から離れたところの籠の隅に張り付いて背を向けている。これから何が起こるか察しているようで怯えているようだ。
「だけど、大事なペットなんじゃないのかい?」
「構いません。依頼料だと思って受け取ってください。近いうちに僕も死ぬ予定ですしね」
アレンは、こんな時に限って生き生きした顔をする。
僕は、白フクロウの後ろ姿を見つめた。羽には黒い斑点がところどころあり、よく回る首で時折僕を見つめる。黄色くて綺麗な目だった。
ああ、やっぱり綺麗。殺して持って帰りたい。
結局僕が迷っていたのはすごく短い時間だった。即死魔法の呪文を唱える。今までにないわくわくした気持ちが溢れて声が震えた。
呪文を唱え終ると白フクロウはあっけなく絶命した。籠の中で眠る白フクロウを僕は早速引っ張り出した。まだ温かかったが、直に冷たくなっていくだろう。
「かわいいなあ。この子、もらっていいんだよね?」
僕は白い羽を夢中で撫でた。
「どうぞ。喜んでくれたようでなによりです」
「うん、こういう綺麗な生き物も部屋に欲しかったんだ。ふふふ」
しかし、ふと我にかえった。僕は今まで、殺したい殺したい言いつつも、モンスターと、人間に害をもたらした動物しか殺してこなかった。だけど、とうとうなんの罪もない生き物を手にかけてしまったんだ。
「キルルさん?」
僕の様子に気づいたアレンが話しかけた。
「い、いや、ありがとう」
「これからも、こういうのたくさん持ってきますね」
「え……」
「キルルさんには、将来は見境なく人を殺す人になっていただかないと、僕が死ねないですから」
「なっ……!」
この白フクロウは、餌だったのだ。
僕を立派な人殺しにするための――。
「や、やめてよ。僕はこれで十分だし。もう持ってこないで」
アレンはただ静かに微笑んだ。
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