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第89話 本名
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リリイに告白する思い切りがつかぬまま日々は過ぎた。だけど、誰かに取られるなんてそんなの受け入れられるわけなくて、リリイに男がよってきていないか注視していた。しかし、注視するにも限度があった。僕は一般魔法が使えないから、一般魔法の実技系の授業は取っていない。この一般魔法の実技授業で他の男子生徒に声をかけられたら僕は気づけない。
なので、他のクラスメイトに聞くしかなかった。
とりわけ話しやすいショウに、リリイの実技授業の様子をうかがった。
「リリイ、魔法に関する授業は真剣だからなあ。他の人が余計なこと話しかける隙なんてない感じよ」
「なるほど、そうだよね」
とりあえず安心した。
僕が様子を見ているところでも、リリイは、一般クラスの生徒に声をかけられても、当たり障りのない対応しかしておらず、他の男子に取られる心配はさほどなさそうだった。
「そうだ、キルルって、リリイの本名知ってるの?」
「へ?」
ショウの唐突な問いに、僕は間抜けな声がでてしまった。
「ほら、うちの学校みんな『魔道士ネーム』じゃない。『本名聞き出せたら両想い』ってよく言うし」
「『魔道士ネーム』……!?」
ショウは当たり前のように言ったが、「魔道士ネーム」という言葉自体が初耳だ。
「ちょ、ちょっと待って、みんなは本名じゃないの!?」
僕は思わず、声が大きくなってしまった。ロビーにいたので、他の特殊生徒達が僕の方を見た。ちなみにリリイはなにか用事があるようでロビーにはいない。
僕の反応にショウもびっくりしていて、
「『キルル』って本名なの?」
「本名だけど?」
「そうなんだ! ここに入学するときに、本名を名乗るのはやめたほうがいいって言われて、『魔道士ネーム』考えたけど、その話もなかったの?」
「なかったよ! というか……『即死魔法』は、呪文の最後に自分の名前を言わないといけないからあまり隠しても意味ないというか……」
そう、僕が「魔道士ネーム」と無縁だった理由はここだった。
後で校長先生に聞くと、「即死魔法」は使うときにどのみち名前を口に出すので、本名が伏せられないから「魔道士ネーム」を使う意味がないのだと。だから魔道士ネームの説明もなかったのだ。
「キルルくん、君は即死魔法レベル100になると、相手の本名と顔さえ知っていれば殺せるようになるでしょう? 他にも、相手の本名と顔さえ知っていればかけられる魔法があるので、それから身を守るために『魔道士ネーム』があるんですよ」
「な、なるほど……だけど、それじゃ僕は、『相手の顔と本名さえ知ってればかけられる魔法』から身を守れないってことですか?」
「そうなりますが……『即死魔法』を上回る恐ろしい魔法なんて、ないですからね。キルルくんはそんなに身を案じる必要ないですよ。もうぶっちゃけ、君のクラスメイトは、いやうちの学校の生徒は、『即死魔法』から身を守らせるために『魔道士ネーム』を使うように促しているわけです」
僕は、さすがに少しショックを受けた。クラスメイトの名前すら知らぬまま今まで過ごしていたなんて。
「すみません、この話をキルルくんにすると、キルルくんがショックを受けかねないので、伏せていました。学校としては、生徒を『即死魔法』から守るために、対策を打つ必要があると判断してこうしています。どの生徒にも『特殊魔法は強力なので、特殊魔道士には極力本名を教えないように』と言ってあります」
「そうですか……」
「それと、リリイさんも本名ですよ。君と同じく、『蘇生魔法』を使うために本名を名乗らないといけないし、何より『蘇生魔道士』は『即死魔法』を受けても、『蘇生魔法』が発動するように仕掛けられますから、すぐに生き返ることができるので、『即死魔法』を恐れる必要がないのです」
「なるほど!」
僕は、少し嬉しくなった。そうか、リリイは、僕のことを嫌う可能性はあるけど、恐れたり、警戒する必要はないんだ!
なんだか、急にリリイが自分に近い存在に思えた。いや、どちらかというと、他のみんなが遠のいた感覚がしたから、リリイが近くにいるような気がする、というのが正しい。
リリイ以外の校内の生徒は、僕に本名を教えてくれないだろう。
リリイの気質を考えると、僕はリリイの恋人なんて、難しいんじゃないかと思っていた。殺し好きの僕を、リリイが好いてくれる自信なんてなかった。
だけど、よく考えたら他の人の方が恋人になりにくくないだろうか。僕に殺されるリスクがあるのだから。水面下では警戒してしまうだろう。リリイは少なくとも、そのリスクとは無縁なのだ。
なので、他のクラスメイトに聞くしかなかった。
とりわけ話しやすいショウに、リリイの実技授業の様子をうかがった。
「リリイ、魔法に関する授業は真剣だからなあ。他の人が余計なこと話しかける隙なんてない感じよ」
「なるほど、そうだよね」
とりあえず安心した。
僕が様子を見ているところでも、リリイは、一般クラスの生徒に声をかけられても、当たり障りのない対応しかしておらず、他の男子に取られる心配はさほどなさそうだった。
「そうだ、キルルって、リリイの本名知ってるの?」
「へ?」
ショウの唐突な問いに、僕は間抜けな声がでてしまった。
「ほら、うちの学校みんな『魔道士ネーム』じゃない。『本名聞き出せたら両想い』ってよく言うし」
「『魔道士ネーム』……!?」
ショウは当たり前のように言ったが、「魔道士ネーム」という言葉自体が初耳だ。
「ちょ、ちょっと待って、みんなは本名じゃないの!?」
僕は思わず、声が大きくなってしまった。ロビーにいたので、他の特殊生徒達が僕の方を見た。ちなみにリリイはなにか用事があるようでロビーにはいない。
僕の反応にショウもびっくりしていて、
「『キルル』って本名なの?」
「本名だけど?」
「そうなんだ! ここに入学するときに、本名を名乗るのはやめたほうがいいって言われて、『魔道士ネーム』考えたけど、その話もなかったの?」
「なかったよ! というか……『即死魔法』は、呪文の最後に自分の名前を言わないといけないからあまり隠しても意味ないというか……」
そう、僕が「魔道士ネーム」と無縁だった理由はここだった。
後で校長先生に聞くと、「即死魔法」は使うときにどのみち名前を口に出すので、本名が伏せられないから「魔道士ネーム」を使う意味がないのだと。だから魔道士ネームの説明もなかったのだ。
「キルルくん、君は即死魔法レベル100になると、相手の本名と顔さえ知っていれば殺せるようになるでしょう? 他にも、相手の本名と顔さえ知っていればかけられる魔法があるので、それから身を守るために『魔道士ネーム』があるんですよ」
「な、なるほど……だけど、それじゃ僕は、『相手の顔と本名さえ知ってればかけられる魔法』から身を守れないってことですか?」
「そうなりますが……『即死魔法』を上回る恐ろしい魔法なんて、ないですからね。キルルくんはそんなに身を案じる必要ないですよ。もうぶっちゃけ、君のクラスメイトは、いやうちの学校の生徒は、『即死魔法』から身を守らせるために『魔道士ネーム』を使うように促しているわけです」
僕は、さすがに少しショックを受けた。クラスメイトの名前すら知らぬまま今まで過ごしていたなんて。
「すみません、この話をキルルくんにすると、キルルくんがショックを受けかねないので、伏せていました。学校としては、生徒を『即死魔法』から守るために、対策を打つ必要があると判断してこうしています。どの生徒にも『特殊魔法は強力なので、特殊魔道士には極力本名を教えないように』と言ってあります」
「そうですか……」
「それと、リリイさんも本名ですよ。君と同じく、『蘇生魔法』を使うために本名を名乗らないといけないし、何より『蘇生魔道士』は『即死魔法』を受けても、『蘇生魔法』が発動するように仕掛けられますから、すぐに生き返ることができるので、『即死魔法』を恐れる必要がないのです」
「なるほど!」
僕は、少し嬉しくなった。そうか、リリイは、僕のことを嫌う可能性はあるけど、恐れたり、警戒する必要はないんだ!
なんだか、急にリリイが自分に近い存在に思えた。いや、どちらかというと、他のみんなが遠のいた感覚がしたから、リリイが近くにいるような気がする、というのが正しい。
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