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第90話 染色魔道士シキ
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「あれ、キルルくんじゃない」
王都の街中を歩いていたら、突然女の人に話しかけられた。白銀髮の綺麗なお姉さん――リリイのお母さんだった。
「あ、こ、こんにちは!」
緊張しながら挨拶すると、リリイのお母さんは微笑んだ。リリイのお母さんは、赤い生地に大きな花柄のワンピースを着ていて、相変わらずリリイと親子と思えないほど若く綺麗だ。
「今日はちょっと用事があってね。リリイはどう? 学校で迷惑かけてないかしら?」
リリイは今一般魔法の授業中だ。
「迷惑なんてとんでもない」
「本当かい? あの子も嫌いなことはとことん避けるからねえ。まあ私に似たんだけど。キルルくんは何してたの?」
「僕は一般教養の授業が始まるまでの間、本屋に……今から戻るところです」
「そう。私も学校に用があって来たの。一緒に行きましょう」
僕たちは学校に向けて歩きだした。好きな女の子のお母さんと歩くのってどきどきする。リリイのお母さんは、普段辺鄙な村に住んでるとは思えないほど、王都の街になじんでいて、石畳の道を颯爽と歩いていく。
学校に用ってなんだろう。やっぱり校長先生と話すのかな。校長先生ってリリイのお母さんと付き合ってたんだよね。元恋人に会うのってどんな気分なんだろう。
「校長先生はどう? 変なことされてない?」
リリイのお母さんの方から校長先生の話が出て、僕はびっくりした。
「変なこと?」
「あいつ、変なやつだし」
僕は少し吹き出しそうになった。確かに校長先生は変わっていると思うけど、特に嫌なことはされていない。
「ねえ、キルルくんは、校長先生の素顔、見たことある?」
「あ、はい」
「どんな顔だった? 目の色とか、髪の色、覚えてる?」
僕は、校長先生の素顔を頭に浮かべた。僕が校長先生の素顔を目にしたのは二回だけだ。クロを殺して泣いたときと、女王様と謁見したとき。
「校長先生は、綺麗な顔立ちで、髪が白くて、目が水色だったような――」
僕は、ここまで口に出してハッとなった。リリイと、校長先生って、色が同じだ。髪も目も同じ。
もしかして、校長先生って、リリイのお父さんなんじゃ……
「やっぱりね、あいつは変わんないわね。相変わらずだわ」
そう言ったリリイのお母さんの目はとても冷ややかだった。心底軽蔑しているものを頭に浮かべているときの目だった。
「キルルくん、うちのリリイのこと、好きでしょう」
「へっ!?」
ものすごくうろたえた僕を、リリイのお母さんは優しい目で見つめた。さっきとは打って変わった表情だ。
「いいのよ。『即死魔道士』が『蘇生魔道士』を好きになるのはお決まりよ。リリイと仲良くしてやってちょうだい」
ホッとする僕を置いて、リリイのお母さんは衝撃的なことを言った。
「あいつ、校長先生はね、キルルくんが気に入ってるのよ。だから、キルルくんが好きなリリイに見た目を寄せてるのよ」
「は?」
「校長先生、『染色魔道士シキ』は、染色魔法で髪の色や目の色を変えられるの。本当は、金髪の碧眼よ。キルルくんの前では色を変えてるの。キルルくんの好みに合わせてね……」
「校長先生はリリイのお父さん疑惑」は、あっさり否定されてしまった。
「校長先生はなんでそんなこと……」
「『生徒に単純に好かれたい』という理由ならいいんだけど、あいつの場合はなあ……あいつ、結局なんでもアリだからね。相手が男でも女でも年寄りでも若くても人型モンスターでも、本当にまじで来るもの拒まずなのよ。はっきり言って『ヤベー奴』よ」
「え……」
リリイのお母さんはぴたりと足を止めた。
「あいつ、乗り換えたんだよ……私から『即死魔道士』に……」
僕は目を見開きリリイのお母さんを見た。リリイのお母さんはとても複雑そうな顔をしていた。
最初聞いたときは意味がわからなかったが、要約すると、リリイのお母さんと校長先生は、学生時代付き合っていた。「旧即死魔道士」もリリイのお母さんを好きで、校長先生と「旧即死魔道士」は恋敵だった。はずが、どういうわけか校長先生は「旧即死魔道士」と浮気したのだ。
「お、男同士で浮気? 意味がわからないんですけど……」
僕が顔をこわばらせて言うと、リリイのお母さんも「私もよ」と呟いた。
「だから別れたんだわ。そんで、あいつも、素顔を見せるときキルルくんの好みに地味に寄せてるわけで……その、気をつけなよ。あいつ、わざわざ口説きはしないけど、心に入り込むのは天才的に上手いわよ」
「は、はい……」
校長先生も、この辺の事情はヘビーだとは言っていたけど、まさかこんなことだったとは……
学校についた。リリイのお母さんは迷いなく学校の中に入り、校長室に一直線に向かっていった。
「じゃあ、私は校長先生と話があるから、キルルくん、ここでさよならね」
そこで、リリイのお母さんとは別れた。
王都の街中を歩いていたら、突然女の人に話しかけられた。白銀髮の綺麗なお姉さん――リリイのお母さんだった。
「あ、こ、こんにちは!」
緊張しながら挨拶すると、リリイのお母さんは微笑んだ。リリイのお母さんは、赤い生地に大きな花柄のワンピースを着ていて、相変わらずリリイと親子と思えないほど若く綺麗だ。
「今日はちょっと用事があってね。リリイはどう? 学校で迷惑かけてないかしら?」
リリイは今一般魔法の授業中だ。
「迷惑なんてとんでもない」
「本当かい? あの子も嫌いなことはとことん避けるからねえ。まあ私に似たんだけど。キルルくんは何してたの?」
「僕は一般教養の授業が始まるまでの間、本屋に……今から戻るところです」
「そう。私も学校に用があって来たの。一緒に行きましょう」
僕たちは学校に向けて歩きだした。好きな女の子のお母さんと歩くのってどきどきする。リリイのお母さんは、普段辺鄙な村に住んでるとは思えないほど、王都の街になじんでいて、石畳の道を颯爽と歩いていく。
学校に用ってなんだろう。やっぱり校長先生と話すのかな。校長先生ってリリイのお母さんと付き合ってたんだよね。元恋人に会うのってどんな気分なんだろう。
「校長先生はどう? 変なことされてない?」
リリイのお母さんの方から校長先生の話が出て、僕はびっくりした。
「変なこと?」
「あいつ、変なやつだし」
僕は少し吹き出しそうになった。確かに校長先生は変わっていると思うけど、特に嫌なことはされていない。
「ねえ、キルルくんは、校長先生の素顔、見たことある?」
「あ、はい」
「どんな顔だった? 目の色とか、髪の色、覚えてる?」
僕は、校長先生の素顔を頭に浮かべた。僕が校長先生の素顔を目にしたのは二回だけだ。クロを殺して泣いたときと、女王様と謁見したとき。
「校長先生は、綺麗な顔立ちで、髪が白くて、目が水色だったような――」
僕は、ここまで口に出してハッとなった。リリイと、校長先生って、色が同じだ。髪も目も同じ。
もしかして、校長先生って、リリイのお父さんなんじゃ……
「やっぱりね、あいつは変わんないわね。相変わらずだわ」
そう言ったリリイのお母さんの目はとても冷ややかだった。心底軽蔑しているものを頭に浮かべているときの目だった。
「キルルくん、うちのリリイのこと、好きでしょう」
「へっ!?」
ものすごくうろたえた僕を、リリイのお母さんは優しい目で見つめた。さっきとは打って変わった表情だ。
「いいのよ。『即死魔道士』が『蘇生魔道士』を好きになるのはお決まりよ。リリイと仲良くしてやってちょうだい」
ホッとする僕を置いて、リリイのお母さんは衝撃的なことを言った。
「あいつ、校長先生はね、キルルくんが気に入ってるのよ。だから、キルルくんが好きなリリイに見た目を寄せてるのよ」
「は?」
「校長先生、『染色魔道士シキ』は、染色魔法で髪の色や目の色を変えられるの。本当は、金髪の碧眼よ。キルルくんの前では色を変えてるの。キルルくんの好みに合わせてね……」
「校長先生はリリイのお父さん疑惑」は、あっさり否定されてしまった。
「校長先生はなんでそんなこと……」
「『生徒に単純に好かれたい』という理由ならいいんだけど、あいつの場合はなあ……あいつ、結局なんでもアリだからね。相手が男でも女でも年寄りでも若くても人型モンスターでも、本当にまじで来るもの拒まずなのよ。はっきり言って『ヤベー奴』よ」
「え……」
リリイのお母さんはぴたりと足を止めた。
「あいつ、乗り換えたんだよ……私から『即死魔道士』に……」
僕は目を見開きリリイのお母さんを見た。リリイのお母さんはとても複雑そうな顔をしていた。
最初聞いたときは意味がわからなかったが、要約すると、リリイのお母さんと校長先生は、学生時代付き合っていた。「旧即死魔道士」もリリイのお母さんを好きで、校長先生と「旧即死魔道士」は恋敵だった。はずが、どういうわけか校長先生は「旧即死魔道士」と浮気したのだ。
「お、男同士で浮気? 意味がわからないんですけど……」
僕が顔をこわばらせて言うと、リリイのお母さんも「私もよ」と呟いた。
「だから別れたんだわ。そんで、あいつも、素顔を見せるときキルルくんの好みに地味に寄せてるわけで……その、気をつけなよ。あいつ、わざわざ口説きはしないけど、心に入り込むのは天才的に上手いわよ」
「は、はい……」
校長先生も、この辺の事情はヘビーだとは言っていたけど、まさかこんなことだったとは……
学校についた。リリイのお母さんは迷いなく学校の中に入り、校長室に一直線に向かっていった。
「じゃあ、私は校長先生と話があるから、キルルくん、ここでさよならね」
そこで、リリイのお母さんとは別れた。
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