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第134話 音楽魔法
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補講期に入るころには、特殊クラスの生徒はほとんどレベル100になっていた。一番乗りの僕、次にトイ、その次がリリイで、それにキャサリンとワープマンが続き、ポールトーマスとネルも冬休みに入るころにレベル100になった。補講期にレベル上げが残っていたのは、リャとショウとカランドだ。
「リャさんは、魔力がやや少ないから、レベル上げに時間がかかっているだけで、順調ですし、卒業までには間に合いますね。ショウさんは気分にムラがあるので、レベル上げが進むときと進まないときがあるんですが、いつも進級直前にやる気だして間に合わせてたので大丈夫でしょう。一番心配なのはカランド君ですね。今レベル90か……」
校長先生が、珍しく校長先生らしく書類を見ながらつぶやいた。ちゃんと来客用の部屋の校長先生の椅子に座って。なんとめずらしい。格好はピエロだけど。
「カランドが?」
「ええ。『音楽魔法』は、レベルが上がるタイミングがわからないので、卒業までに間に合う保証がないです」
「そんな……カランドだけ卒業できないなんてやだよ!」
音楽魔道士カランド、音楽学校とうちの学校に両方通って、すごく頑張っている上、性格もすごく良くてなんの問題も起こしたことがない。そんなカランドが報われないなんて、そんなの悲しすぎる。
「そうですね。だけど、音楽魔法は唐突にレベルが5上がったりしますし、信じて待ってあげましょう」
「先生、たしか、カランドはときどき公園で演奏してるよ! 行ってみようよ!」
「じゃあ、公園に染色の材料探すついでに行きましょうか」
「うん! 先生ピエロで出かけるの?」
「素顔の方がいいですか?」
「うん」
僕は相変わらず先生にべったりだった。ここ最近は、一緒に染色したり、材料取りに外に出かけたりする時間が増えて、付き合い方も少し穏やかになった。
理由は多分、僕の殺しの衝動が落ち着いてきたからだろう。強さにこだわらなくなったら、だいぶ衝動から開放された。殺してもいいけど殺さなくてもいいぐらいに今は思える。
前は、殺しができなきゃセックスでもしないとおかしくなりそうだった。刺激がないと殺意が収まらなかった。今は、先生と王都の街を歩くだけでも十分楽しい。
「あっ、いた! カランドー!」
公園に着くなりカランドを見つけた。公園の片隅で演奏していた。黄緑色の髪が目立つからすぐわかる。
「キルル、先生も!」
カランドは、バイオリンの手を止め、笑顔を見せた。
「様子見に来たんだよ!」
「キルルくんが、カランド君の音楽魔法のレベルの上がり具合を心配していましてね。どうしても一緒に卒業したいから、なにか応援したいみたいです」
「そう……」
急に、カランドはぽろぽろと泣き出した。
「カランド、どうしたの?」
「そう言ってもらえて、嬉しい。音楽魔法は相変わらずなかなかレベル上がらないし、もう留年しようかと思ってた。だけど、やっぱり僕も一緒に卒業したい。やっとそう思えて来たよ」
「カランド……前も思ったけど、一人で奮闘しすぎだよ。行き詰まったときは、みんなを頼ったらいいのに」
「そうだね。ごめんね」
カランドは涙を拭った。
「キルル、何か好きな曲ある?」
「好きな曲? うーん、『僕が魔法を使えたら』が好き!」
「キルルらしいね」
「僕が魔法を使えたら」は、童謡だ。「将来魔法が使えるようになったらやりたいこと」を歌った子供向けの歌だ。
「『僕が魔法を使えたら』は、歌詞が大事だから弾き語りの方がいいよね」
カランドが呪文を唱えた。
カランドの前に、ピアノの鍵盤が、浮いて現れた。
「なにこれ!?」
「『音楽魔法』だよ。ピアノの鍵盤を出せるんだ」
「ええ! すごいすごい!」
「キルルは、音楽魔法をいつもすごいすごいって言うね」
「だって、すごいもん!」
殺すことしかできない僕にとって、他のみんなの魔法は多彩で、驚くことばかりだ。
「あんまり歌は自信ないけど、聞いてね」
僕に魔法が使えたら
火の魔法で母さんの料理を手伝って
水の魔法で乾いた畑をうるおして
土の魔法で家を守るんだ
風の魔法であの子の涙を乾かして
草の魔法で花畑を作るんだ
だから この国を 自然を愛そう
そうすれば きっと
精霊が力を貸してくれるよね
大人になったら
魔法が使えるようになれるよね
「この曲、よく歌ったな、懐かしい」
この歌の歌詞は、子供のころの僕の心そのままだ。夢を見ていたときって、幸せだったなと思う。
「わあ、懐かしい曲だね」
振り向くとポールトーマスがいた。横にネルもいる。
「子供のころよく歌ったよ」
「うん、僕も」
「カランド、もしレベル上げが間に合わなくても、卒業式来てよ。少しぐらい前倒しになってもいいじゃない。君ならいつかレベル100になれるよ」
演奏が終わるなりポールトーマスがそう言うと、カランドは笑って「ありがとう」と言った後、
「大丈夫、ちゃんとレベル100になって卒業するから」
「うん、頑張れ!」
その半月後、リャとショウが無事レベル100になった。残るはカランドのみとなった。卒業式まであと一週間だ。カランドは今レベル99。あともう少し!
「カランド、頑張って!」
公園の演奏に、みんな応援に来た。特殊クラス全員だ。
「カランド先輩、頑張ってください!」
特殊クラスの二年生と一年生もやってきた。
「みんな、ありがとう。すごく嬉しい」
みんなでカランドを取り囲んで、演奏を聞いた。
カランドは、卒業式の前日に、無事レベル100になった。全員卒業が決った。
あとは、卒業式だけ。
僕達は、明日卒業する――
「リャさんは、魔力がやや少ないから、レベル上げに時間がかかっているだけで、順調ですし、卒業までには間に合いますね。ショウさんは気分にムラがあるので、レベル上げが進むときと進まないときがあるんですが、いつも進級直前にやる気だして間に合わせてたので大丈夫でしょう。一番心配なのはカランド君ですね。今レベル90か……」
校長先生が、珍しく校長先生らしく書類を見ながらつぶやいた。ちゃんと来客用の部屋の校長先生の椅子に座って。なんとめずらしい。格好はピエロだけど。
「カランドが?」
「ええ。『音楽魔法』は、レベルが上がるタイミングがわからないので、卒業までに間に合う保証がないです」
「そんな……カランドだけ卒業できないなんてやだよ!」
音楽魔道士カランド、音楽学校とうちの学校に両方通って、すごく頑張っている上、性格もすごく良くてなんの問題も起こしたことがない。そんなカランドが報われないなんて、そんなの悲しすぎる。
「そうですね。だけど、音楽魔法は唐突にレベルが5上がったりしますし、信じて待ってあげましょう」
「先生、たしか、カランドはときどき公園で演奏してるよ! 行ってみようよ!」
「じゃあ、公園に染色の材料探すついでに行きましょうか」
「うん! 先生ピエロで出かけるの?」
「素顔の方がいいですか?」
「うん」
僕は相変わらず先生にべったりだった。ここ最近は、一緒に染色したり、材料取りに外に出かけたりする時間が増えて、付き合い方も少し穏やかになった。
理由は多分、僕の殺しの衝動が落ち着いてきたからだろう。強さにこだわらなくなったら、だいぶ衝動から開放された。殺してもいいけど殺さなくてもいいぐらいに今は思える。
前は、殺しができなきゃセックスでもしないとおかしくなりそうだった。刺激がないと殺意が収まらなかった。今は、先生と王都の街を歩くだけでも十分楽しい。
「あっ、いた! カランドー!」
公園に着くなりカランドを見つけた。公園の片隅で演奏していた。黄緑色の髪が目立つからすぐわかる。
「キルル、先生も!」
カランドは、バイオリンの手を止め、笑顔を見せた。
「様子見に来たんだよ!」
「キルルくんが、カランド君の音楽魔法のレベルの上がり具合を心配していましてね。どうしても一緒に卒業したいから、なにか応援したいみたいです」
「そう……」
急に、カランドはぽろぽろと泣き出した。
「カランド、どうしたの?」
「そう言ってもらえて、嬉しい。音楽魔法は相変わらずなかなかレベル上がらないし、もう留年しようかと思ってた。だけど、やっぱり僕も一緒に卒業したい。やっとそう思えて来たよ」
「カランド……前も思ったけど、一人で奮闘しすぎだよ。行き詰まったときは、みんなを頼ったらいいのに」
「そうだね。ごめんね」
カランドは涙を拭った。
「キルル、何か好きな曲ある?」
「好きな曲? うーん、『僕が魔法を使えたら』が好き!」
「キルルらしいね」
「僕が魔法を使えたら」は、童謡だ。「将来魔法が使えるようになったらやりたいこと」を歌った子供向けの歌だ。
「『僕が魔法を使えたら』は、歌詞が大事だから弾き語りの方がいいよね」
カランドが呪文を唱えた。
カランドの前に、ピアノの鍵盤が、浮いて現れた。
「なにこれ!?」
「『音楽魔法』だよ。ピアノの鍵盤を出せるんだ」
「ええ! すごいすごい!」
「キルルは、音楽魔法をいつもすごいすごいって言うね」
「だって、すごいもん!」
殺すことしかできない僕にとって、他のみんなの魔法は多彩で、驚くことばかりだ。
「あんまり歌は自信ないけど、聞いてね」
僕に魔法が使えたら
火の魔法で母さんの料理を手伝って
水の魔法で乾いた畑をうるおして
土の魔法で家を守るんだ
風の魔法であの子の涙を乾かして
草の魔法で花畑を作るんだ
だから この国を 自然を愛そう
そうすれば きっと
精霊が力を貸してくれるよね
大人になったら
魔法が使えるようになれるよね
「この曲、よく歌ったな、懐かしい」
この歌の歌詞は、子供のころの僕の心そのままだ。夢を見ていたときって、幸せだったなと思う。
「わあ、懐かしい曲だね」
振り向くとポールトーマスがいた。横にネルもいる。
「子供のころよく歌ったよ」
「うん、僕も」
「カランド、もしレベル上げが間に合わなくても、卒業式来てよ。少しぐらい前倒しになってもいいじゃない。君ならいつかレベル100になれるよ」
演奏が終わるなりポールトーマスがそう言うと、カランドは笑って「ありがとう」と言った後、
「大丈夫、ちゃんとレベル100になって卒業するから」
「うん、頑張れ!」
その半月後、リャとショウが無事レベル100になった。残るはカランドのみとなった。卒業式まであと一週間だ。カランドは今レベル99。あともう少し!
「カランド、頑張って!」
公園の演奏に、みんな応援に来た。特殊クラス全員だ。
「カランド先輩、頑張ってください!」
特殊クラスの二年生と一年生もやってきた。
「みんな、ありがとう。すごく嬉しい」
みんなでカランドを取り囲んで、演奏を聞いた。
カランドは、卒業式の前日に、無事レベル100になった。全員卒業が決った。
あとは、卒業式だけ。
僕達は、明日卒業する――
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