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1章:初期所持アイテム変更チート
大冒険の始まりは馬車の荷台
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目を覚ますと、太陽に照らされる真っ白い雲が目に入った。
空が一定方向に動いている。
「……痛っ!? たく……、そんなに、じゃ、ない? あ? どうなって?? なんだ? え? あ?」
「よかったぁ、目、覚めた?」
身体を起こすと、そこはボロボロな馬車の荷台に積まれた干し草の上だった。
オレには、シーツの様に、小汚い布がかぶされている。
「あ、あれ? え?」
御者台を見ると、銀髪に近いぐらいの美しいプラチナブロンドの髪が、雲の隙間から照らされる光でキラキラと風に揺れている。
風が止むと、まだ幼さを感じさせる顔立ちの、クリっとした大きな目をした、美人の女が手綱を引いているのが分かった。
馬車が止まる。
すると、女が荷台の方へやってきた。
格好は、薄汚れてこそいるが、ちゃんとした冒険者の装備に見える。
RPGの軽装初期装備と言った感じだ。
そんな事よりも、だ。
オレは自分がゲームのイベントごときで、マジの気絶をした事実に衝撃を受けた。
と言うか、ゲーム内で感じた痛みが、人生で感じた痛みの記録を更新してきた事に衝撃を受けた。
最新の洋ゲーが恐ろしいのか、FRWのβ版が、単に未調整のヤバいゲームなのか……
普通にヤバすぎるだろ。
「呼んでも全然目ぇ覚まさないから、本当に心配したんだよ」
ずいと寄ってくる顔に、オレはゲームながら照れてしまう。
こんなに近くで母親以外の女の人と話をするのは、学校以来だ。
ゲームと分かっていても、これは嫌に恥ずかしく感じる。
「あ、えっと、なんか……なんだ? ごめん。あんたが助けてくれた、って事だよな? あれ?」
照れながらも言葉に詰まった。
シンプルに状況が分からん。
こいつが一緒に捕まっていた女、シヴィなのか?
見たところ、傷跡っぽい痕跡はあるが、開いた傷は見当たらない。
エリクシールで全快したのか?
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲
「なんで謝るの? 君のお陰で助かったんだよ。それより、君って、何者なの?」
「何者? オレは……」
マジで、どういう設定だ?
自動生成されるイベントなので、流れがまるでつかめない。
やはり囚人仲間、って訳でもなさそうだ。
オークに捕まった一般人とかか?
「東人(東洋人)は、ここら辺だと珍しいから。う~ん、商人とかかな?」
東人?
だが、商人、と言うのは、設定的には十分あり得るな。
しかし、適当な事を言うのも、後で面倒になる。
こういう時は、出来るだけ嘘を言わずに情報を引き出した方が良い。
チートで長くプレイしていると、要らない嘘ほど足元をすくわれると言う事が身に染みてわかる。
チート以外は正直でないと、チートを守れない。
少なくとも、オレは、そんなに器用な奴じゃない。
「ごめん、実は良く思い出せないんだ」
「思い出せないって、もしかしてケガのせいで? 自分の名前は思い出せる?」
「名前は、大丈夫。ハル……、ハルだ。あんたは……シヴィ……だろ?」
「うん、そう。シヴィ、シヴィ……ライネン」
近くで見ると、オレよりも小柄で、細い。
顔の腫れはすっかり引き、痣のあとが僅かに残っている。
ま、まあ、とにかく、どうやらオレは、チュートリアルのバトルはクリア出来たらしい。
と言う事は、今はチュートリアルの続きなのか?
「シヴィ・ライネン……だな。シヴィ でも、さっきの檻に来る前が、ちゃんと思い出せないんだ」
「檻、って事は、オークに捕まった時に頭でも打ったのかもね」
「そう言えば、オレのケガは?」
チュートリアル終わりに自動回復でもしたのか?
「私に飲ませてくれた薬があったでしょ? 他の瓶に同じのがあったから勝手に飲ませたけど、あの薬、本当に凄いね。私のケガも、すっかり治っちゃった」
自動回復なんて無かった。
オレは背筋に寒い物を感じた。
他人のアイテムを勝手に使うNPCがいるのかよ、と。
ゲーム的に、嫌な仕様だ。
これは、まずい。
エリクシールが無いと、チート生活プランが狂ってしまう。
なのに、ポケットを触ってもエリクシールの瓶の感触が無い。
「エリクシールは! まさか全部!?」
「エリクシール? これって、そういう名前なんだ」
シヴィは空の小瓶を3つ、手に持って「へぇ~」と無害そうな声を上げた。
「なっ!?」
終わった。
「あ……全ロス……? ははは……」
「その……言いにくいんだけど、ごめん。ちゃんと説明するから聞いて」
シヴィに檻の中で1本飲ませ、オレにもシヴィが1本飲ませた。
二人のケガが治っている所を見ると、間違いなくエリクシールへのデータ改ざんは上手く行った様だが、もう1本はどこで使った?
シヴィが言うには、こうだ。
オレが意識を失った直後、シヴィはオークの攻撃を受けながらも、相討ち覚悟で闘い続けたという。
その結果、ギリギリだがオーク達を倒した。
しかし、致命傷によって再びその場で倒れてしまったらしい。
その時、オレが自分にいつでも使える様にと握りしめていたエリクシールの小瓶が、床に落ちていたのを見つけたと言うのだ。
死にかけている状況で、助かるかもしれないなら、どうする?
迷うことなく、薬である事を祈ってシヴィはエリクシールを自ら飲み、一命を取り留めた。
それからオレにも、持っていた最後の1本を飲ませたと言う話であった。
うん、しっかり3本消費している。
「ああああ……マジかよ……エリクシールが……銀貨1枚でこの先どうすんだよ、えええ……」
こんな事なら、銀貨を金貨にでも変えておくか、エリクシールの数を10個にでも変更しておけばよかった……
いや、その両方をやっておけば、もっと余裕だったのに……
いきなり計画の大幅な変更を余儀なくされ、オレは頭を抱えた。
オレにとって、今のタイミングはゲーム運営のチート対策とのスタートダッシュの競争なのだ。
このタイムロスは、かなり痛い。
死にかけた時に覚悟はしていたが、実際になると、マジで辛い。
「ごめんね、ほんとにごめん。でも……さ? そんなに大事な物、なんで初めて会った私に、分けてくれたの?」
「……え?」
「なんで、かな? って、不思議で。それを聞きたくって。私なんて、ほっておく事も出来た、よね?」
「……ほっておけなかったし、それに……」
「それに?」
あ……と思った。
いらない「それに」だった。
「あんたに、死んで欲しくないって、思った、のかもな……たぶん……」
オレは、なぜか照れ隠しに誤魔化しながら、言葉を濁す。
くそ。
正直すぎる。
「たぶん? ははは、でも、それを聞いて少し安心した、かな……なんにも覚えてないって訳じゃないみたいだし」
シヴィの、嘘を見通しそうな、全てを見透かしている様な視線に、ギクリとした。
記憶喪失を演じるなら、エリクシールも名前を出さないほうが良かったかもしれない。
早々に墓穴を掘ったか。
エリクシールの事は、口止めした方が良さそうだ。
そんな事を考えていると、シヴィは一転して朗らかな表情にコロリと変わり、こんな事を言った。
「君は、思った通り、善い人みたいだね。私も、助けて良かったよ」
「はい」と、律儀にエリクシールの空き瓶を手渡されながら、シヴィの言う言葉に、オレは小さな後ろめたさを感じていた。
この感覚は、今までも、何度か味わった事がある。
チーターである事を隠したまま知り合った他のゲームプレイヤーにフレンドとして、強力なキャラクターでなく、オレ自身の事を言われた時、オレは複雑な気持ちになる。
自分がズルをして有利にゲームを楽しむ為にチートに手を染めているのに、ゲームの外に目を向ける切欠を与えられる度にだ。
チートをしていなければ純粋に知り合えた筈のフレンドの、期待を裏切る自分である事が、辛い。
ズルする人間が、善人なわけが無いだろ、とオレは分かっている。
オレからチートを取ったら、ただのニートだぞと、嫌な事を思い出すのだ。
NPCの言葉なのに。
その筈なのに、オレは、そんな気持ちになっていた。
空が一定方向に動いている。
「……痛っ!? たく……、そんなに、じゃ、ない? あ? どうなって?? なんだ? え? あ?」
「よかったぁ、目、覚めた?」
身体を起こすと、そこはボロボロな馬車の荷台に積まれた干し草の上だった。
オレには、シーツの様に、小汚い布がかぶされている。
「あ、あれ? え?」
御者台を見ると、銀髪に近いぐらいの美しいプラチナブロンドの髪が、雲の隙間から照らされる光でキラキラと風に揺れている。
風が止むと、まだ幼さを感じさせる顔立ちの、クリっとした大きな目をした、美人の女が手綱を引いているのが分かった。
馬車が止まる。
すると、女が荷台の方へやってきた。
格好は、薄汚れてこそいるが、ちゃんとした冒険者の装備に見える。
RPGの軽装初期装備と言った感じだ。
そんな事よりも、だ。
オレは自分がゲームのイベントごときで、マジの気絶をした事実に衝撃を受けた。
と言うか、ゲーム内で感じた痛みが、人生で感じた痛みの記録を更新してきた事に衝撃を受けた。
最新の洋ゲーが恐ろしいのか、FRWのβ版が、単に未調整のヤバいゲームなのか……
普通にヤバすぎるだろ。
「呼んでも全然目ぇ覚まさないから、本当に心配したんだよ」
ずいと寄ってくる顔に、オレはゲームながら照れてしまう。
こんなに近くで母親以外の女の人と話をするのは、学校以来だ。
ゲームと分かっていても、これは嫌に恥ずかしく感じる。
「あ、えっと、なんか……なんだ? ごめん。あんたが助けてくれた、って事だよな? あれ?」
照れながらも言葉に詰まった。
シンプルに状況が分からん。
こいつが一緒に捕まっていた女、シヴィなのか?
見たところ、傷跡っぽい痕跡はあるが、開いた傷は見当たらない。
エリクシールで全快したのか?
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「なんで謝るの? 君のお陰で助かったんだよ。それより、君って、何者なの?」
「何者? オレは……」
マジで、どういう設定だ?
自動生成されるイベントなので、流れがまるでつかめない。
やはり囚人仲間、って訳でもなさそうだ。
オークに捕まった一般人とかか?
「東人(東洋人)は、ここら辺だと珍しいから。う~ん、商人とかかな?」
東人?
だが、商人、と言うのは、設定的には十分あり得るな。
しかし、適当な事を言うのも、後で面倒になる。
こういう時は、出来るだけ嘘を言わずに情報を引き出した方が良い。
チートで長くプレイしていると、要らない嘘ほど足元をすくわれると言う事が身に染みてわかる。
チート以外は正直でないと、チートを守れない。
少なくとも、オレは、そんなに器用な奴じゃない。
「ごめん、実は良く思い出せないんだ」
「思い出せないって、もしかしてケガのせいで? 自分の名前は思い出せる?」
「名前は、大丈夫。ハル……、ハルだ。あんたは……シヴィ……だろ?」
「うん、そう。シヴィ、シヴィ……ライネン」
近くで見ると、オレよりも小柄で、細い。
顔の腫れはすっかり引き、痣のあとが僅かに残っている。
ま、まあ、とにかく、どうやらオレは、チュートリアルのバトルはクリア出来たらしい。
と言う事は、今はチュートリアルの続きなのか?
「シヴィ・ライネン……だな。シヴィ でも、さっきの檻に来る前が、ちゃんと思い出せないんだ」
「檻、って事は、オークに捕まった時に頭でも打ったのかもね」
「そう言えば、オレのケガは?」
チュートリアル終わりに自動回復でもしたのか?
「私に飲ませてくれた薬があったでしょ? 他の瓶に同じのがあったから勝手に飲ませたけど、あの薬、本当に凄いね。私のケガも、すっかり治っちゃった」
自動回復なんて無かった。
オレは背筋に寒い物を感じた。
他人のアイテムを勝手に使うNPCがいるのかよ、と。
ゲーム的に、嫌な仕様だ。
これは、まずい。
エリクシールが無いと、チート生活プランが狂ってしまう。
なのに、ポケットを触ってもエリクシールの瓶の感触が無い。
「エリクシールは! まさか全部!?」
「エリクシール? これって、そういう名前なんだ」
シヴィは空の小瓶を3つ、手に持って「へぇ~」と無害そうな声を上げた。
「なっ!?」
終わった。
「あ……全ロス……? ははは……」
「その……言いにくいんだけど、ごめん。ちゃんと説明するから聞いて」
シヴィに檻の中で1本飲ませ、オレにもシヴィが1本飲ませた。
二人のケガが治っている所を見ると、間違いなくエリクシールへのデータ改ざんは上手く行った様だが、もう1本はどこで使った?
シヴィが言うには、こうだ。
オレが意識を失った直後、シヴィはオークの攻撃を受けながらも、相討ち覚悟で闘い続けたという。
その結果、ギリギリだがオーク達を倒した。
しかし、致命傷によって再びその場で倒れてしまったらしい。
その時、オレが自分にいつでも使える様にと握りしめていたエリクシールの小瓶が、床に落ちていたのを見つけたと言うのだ。
死にかけている状況で、助かるかもしれないなら、どうする?
迷うことなく、薬である事を祈ってシヴィはエリクシールを自ら飲み、一命を取り留めた。
それからオレにも、持っていた最後の1本を飲ませたと言う話であった。
うん、しっかり3本消費している。
「ああああ……マジかよ……エリクシールが……銀貨1枚でこの先どうすんだよ、えええ……」
こんな事なら、銀貨を金貨にでも変えておくか、エリクシールの数を10個にでも変更しておけばよかった……
いや、その両方をやっておけば、もっと余裕だったのに……
いきなり計画の大幅な変更を余儀なくされ、オレは頭を抱えた。
オレにとって、今のタイミングはゲーム運営のチート対策とのスタートダッシュの競争なのだ。
このタイムロスは、かなり痛い。
死にかけた時に覚悟はしていたが、実際になると、マジで辛い。
「ごめんね、ほんとにごめん。でも……さ? そんなに大事な物、なんで初めて会った私に、分けてくれたの?」
「……え?」
「なんで、かな? って、不思議で。それを聞きたくって。私なんて、ほっておく事も出来た、よね?」
「……ほっておけなかったし、それに……」
「それに?」
あ……と思った。
いらない「それに」だった。
「あんたに、死んで欲しくないって、思った、のかもな……たぶん……」
オレは、なぜか照れ隠しに誤魔化しながら、言葉を濁す。
くそ。
正直すぎる。
「たぶん? ははは、でも、それを聞いて少し安心した、かな……なんにも覚えてないって訳じゃないみたいだし」
シヴィの、嘘を見通しそうな、全てを見透かしている様な視線に、ギクリとした。
記憶喪失を演じるなら、エリクシールも名前を出さないほうが良かったかもしれない。
早々に墓穴を掘ったか。
エリクシールの事は、口止めした方が良さそうだ。
そんな事を考えていると、シヴィは一転して朗らかな表情にコロリと変わり、こんな事を言った。
「君は、思った通り、善い人みたいだね。私も、助けて良かったよ」
「はい」と、律儀にエリクシールの空き瓶を手渡されながら、シヴィの言う言葉に、オレは小さな後ろめたさを感じていた。
この感覚は、今までも、何度か味わった事がある。
チーターである事を隠したまま知り合った他のゲームプレイヤーにフレンドとして、強力なキャラクターでなく、オレ自身の事を言われた時、オレは複雑な気持ちになる。
自分がズルをして有利にゲームを楽しむ為にチートに手を染めているのに、ゲームの外に目を向ける切欠を与えられる度にだ。
チートをしていなければ純粋に知り合えた筈のフレンドの、期待を裏切る自分である事が、辛い。
ズルする人間が、善人なわけが無いだろ、とオレは分かっている。
オレからチートを取ったら、ただのニートだぞと、嫌な事を思い出すのだ。
NPCの言葉なのに。
その筈なのに、オレは、そんな気持ちになっていた。
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