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一学期 夏休み前 編
第1話 好きな人に全部伝えられたらいいが、好きな人だからこそ伝えられないってこともある
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突然だがみんなに質問だ。
『密かに片思いをしている女子に偽彼氏になって欲しいと頼まれたらどうする?』
密かに片思いをしているって言う部分がキモだな。
そして付け加えさせてもらうとすれば、その女子は学校の中でもトップクラスに可愛くて、クールで、スタイル抜群なんだ。ただ、クールの延長線というか、少しばかり言葉がキツいところもある。
そして、一番重要なのはここだ。
※後ろから彼女の親衛隊(40人くらい)が追いかけてきている。
そんな状況はありえないから考えるだけ無駄だって?そんなことを言うやつには、パキッとするアイスが上手く割れなくなる呪いをかけてやる。
ちなみに、冷凍庫から取り出して10秒以上経つと上手く割れなくなるんだよな。
って、こんなことはどうでもいいんだ。
俺的には溶けかけのパ〇コを開けた時に、液体が飛び出してくるやつの方が困るし。とにかく、ありえないこそありえないんだ。だって、俺がまさに今、その状況だからな。話しを遡れば朝になる。俺がいつも通りの時間に学校に登校し、自分の机でぼーっとしていた時のことだ。
(ああ、今日も可愛いなぁ~)
俺は机に頬杖をつきながら、片思い相手である女子、笹倉 彩葉を眺めていた。
壁にもたれて腕を組みながら、金髪ギャルと談笑している姿はまさにクール。
俺の高校では入学時に購入するネクタイやリボンの色が一年毎に3色をローテーションする形で変わっていて、今は1年生が緑、3年生が青、俺たち2年生が赤になっている。男子はネクタイ限定、女子はリボンかネクタイのどちらを付けてもいいのだが、大抵の女子がリボンを付けている。暗黙の了解的なやつだ。
それでも笹倉 彩葉はネクタイを付けている。そこもまたクールポイントだな。
そして談笑と言えども大声で笑う訳ではなく、笑う時にも軽く口元に手を当てるという育ちの良さが垣間見える仕草。そこもまたポイント高いんだよな。
今は冬服の季節だから、肌の見える面積は少なく、唯一彼女の肌が見える場所といえば太ももだ。短めにされたスカートとハイソックスの間から覗くその白い肌は、決して不健康そうという訳ではなく、むしろ女子高生の賜物。美しいとしか言いようがない。賜物といえば制服の上からでもわかる豊満なバストも同じだ。
彼女のルックスには文句の付けようがない。性格は少しキツいが、それもまたクールビューティの名を底上げする形になっていて、控えめに言って最高だ。
俺の朝はこうやって毎日彼女を眺めることが日課となっているのだが、ここでいつも通り邪魔が入るんだよな。
「あおくーん!おはよ♪」
ほら、やっぱり来た。
俺の視界を遮るように目の前に飛び込んできた彼女は小森 早苗。茶髪のショートが似合うロリ系美少女だ。おまけに俺にとっては幼馴染という肩書きまでついている。
こいつとの付き合いは今年で13年目になるんだっけな。幼稚園に入園する前日に彼女が引っ越してきてからだから、かなりの付き合いになる。
性格は大人しくて控えめ。友達作りが苦手だった彼女は、初めの頃は俺にすら怯えていた。
だが、早苗の両親からよろしくねと頼まれたこともあり、俺は執拗に彼女に構ってやっていたのだが……。
「ねーねー、おはようってばぁ~!」
「ちょ、抱きつくなって!朝から暑苦しい……」
どこで間違えたのか、中学に入ったあたりから立場が逆転した。
基本的に一人行動を好む俺は、友達がいない訳では無いがひとりで過ごしていることが多い。
それをいいことに、彼女は俺に執拗に構ってくる。
こいつ、俺以外とはまともに会話できないくせに、なんでこんなに絡んでくるんだろうか。最近になって、幼稚園の時の仕返しをされているのではないかと思い始めている。そんなに嫌だったんだろうか。
まあ、美少女幼馴染とイチャつけるのはご褒美でしかないからいいが、笹倉 彩葉の手前ということが良くない。
万が一こいつと付き合ってるのでは?なんて思われてみろ。お近付きになることすら無理ゲーになる。だから嬉しい気持ちはぐっと堪えて、早苗を引き剥がした。
「あんまりじゃれついてくるなよ」
「ダメなの?」
「ああ、ダメだ」
「どうしてどうして?どうしてダメなの?」
「あーもう!犬みたいに引っ付いてくるなっての!」
「がるるるるるるる!」
「本当に犬になるな!」
唸る彼女の額にデコピンを食らわせてやると、正気に戻った彼女がおでこを抑えながら言った。
「あおくん、また筋肉を見てたの?さすがは筋肉フェチ♪」
そう言う早苗は、笹倉の向こうにいるマッスルポーズをしている男子を指差した。
俺はこの学校でホモだという噂が流れている。
それにはとある事情があって……。
笹倉 彩葉には親衛隊というものがついている。彼らの熱意は本物で、彼女にまとわりつく目障りな虫は一瞬で抹殺されてしまうのだ。
俺も一度ボロを出して消されそうになったのだが、何とか言い訳をして難を逃れた。だが、その言い訳が悪かった。
『笹倉を見ていたんじゃない!後ろの筋肉を見ていたんだ!』
そう言って筋トレをしているアメフト部の方を指差した。
我ながら馬鹿なことをしたと思っている。俺は筋肉フェチじゃなくて太ももフェチだって言うのに。
まあ、消されないだけマシだとは思うが、これでは肝心の笹倉にすら変な人だと思われてしまう。
なんとか弁解しようと試みたことはあるんだが、広まりすぎた噂は回収不可能だ。おそらく、俺はこの高校生活をホモとして生きていくしかないんだろう。
まあ、そういう訳で早苗も勘違いしたままにしておいているのだが、よくここまで噂を信じ込めるよな。長い付き合いなんだし、少しは疑って欲しいと言うのが本音だ。
「ああ、そうだ。やっぱりあの筋肉の筋って言うのか?たまらないんだよなぁ~」
ここまで来れば俺もとっくに自分を捨てている。
そろそろ右脳が自分はホモなんじゃないかと勘違いし始めているレベルだ。
いくつもの役を演じる演者さんは、気を抜くと役柄と自分の性格が混同してパニックになると聞いたことがある。俺もそれなんだろうか。
「へぇ~、私には分からないけど……なんだか深そうだね!」
全くもって深くねえよ。こいつ、絶対適当に言っただろ。
「そうだな」
まあ、俺も適当に流してまた頬杖体勢に戻るんだけどな。ああ、やっぱり笹倉 彩葉は最高級の目の保養だぜぇ~♪
そして昼休み。
俺は食堂に向かおうと階段を下りていた。財布の中の残金を確認しながら下りていたため、前が見えていなかったんだ。1階に降りたところで、横から走ってきた人とぶつかってしまった。
「ご、ごめ……って笹倉!?」
俺にぶつかって尻もちをついていたのは笹倉 彩葉だった。「いてて……」と言いながらお尻をさすっている。彼女にぶつかって転ばせてしまったなんてのが親衛隊にバレたら……俺は今度こそ消されるかもしれない。
「彩葉様ぁ!まってくだせぇぇ!」
ドタドタドタドタドタドタ!
き、来たァァァァァァァ!?
廊下の向こうから走ってくるのは親衛隊隊長、通称コロ助。消してきたお邪魔虫は数知れず。可愛い呼び方とは裏腹に、コロ助のコロは『殺』だとも言われている。
その後ろに続くのは親衛隊隊員たち。ざっと数えて40はいるだろう。今起きた衝突事故をもう聞き付けてきたのか!?
俺は慌てて逃げようとするも、運悪くこのタイミングで解けていた靴紐を踏んで転んでしまった。
大量の足音はだんだんと近づいてくる。
「碧斗くん、ここにいたら危ないから逃げるわよ!」
笹倉はそんな俺の手を取り、引っ張り起こしてくれた。
「あ、ああ……!」
俺はまた靴紐を踏まないようにと歪な走り方で、彼女の手招きした扉の中に駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……助かった……のか?」
扉の前を走っていく足音が聞こえた。
「ええ、上手く騙せたようね」
「俺がぶつかったせいであんなことになって……悪かったな」
部屋の中は電気がついておらず、暗くてよく見えないが、彼女のいると思われる方向に頭を下げた。
「何か勘違いをしているようね」
「え?」
「あの人たちはあなたが私にぶつかったことで追いかけた訳では無いわよ?私のとある噂が流れてしまってね……」
「とある噂?どんな噂だ?」
「それが……」
言いにくかったのか、彼女は少し間を空けた。
「……私に彼氏が出来たというものよ」
ほう、笹倉に彼氏が……。まあ、いないのが不思議だとは思っていたが、ついに出来たとは……って!
「えええええええええぇ!?」
俺はつい大声を出してしまった。
「あっちから聞こえたぞ!」という声が遠くから聞こえる。
「ちょっと静かに!もちろんその噂は嘘よ。だから弁解したのよ。でも、彼らは信じてくれなくて……」
「それで逃げていたと……」
良かったぁ!まだ彼氏いないのか!本当に、心臓に悪いぜ~!
「碧斗くん、あなたに聞きたいことがあるの」
「ん?なんだ?」
「私のこと、好き?」
突然の質問に俺は動揺してしまった。電気がついていないため、顔を見られないことが唯一の救いだ。
「ねえ……好き?」
そう言いながらジリジリと詰め寄ってくる彼女。
俺はそれにつられて後ろに下がる。だが、壁に背中がぶつかってもう下がれない。
「答えて?」
彼女の声がすぐそこで聞こえてくる。すぐに本心を答えればいいと言うのに、俺は何故かそれが出来なかった。
『もしかしたら俺を試しているのかもしれない』
そう感じてしまったから。
実は親衛隊の行動も全てが演技で、ここで好きだといえば彼らに消されてしまうんじゃないか。
その考えが浮かんだ瞬間から、俺は首を縦に振れなくなった。そして、こう言ってしまったのだ。
「好きじゃない」
もちろん心の中では猛烈に後悔していた。どうしてはっきり言わなかったんだ、と。
まあ、ある意味はっきりではあったが、伝えるべきことが真逆なんだよな。
彼女は「そう」と言うと、小さくため息をつく。その音だけが聞こえてきた。
「なら、私の偽彼氏になってくれる?」
「……は?」
好きじゃないと言った直後に偽彼氏……?俺の頭は単純に混乱していた。
「親衛隊の彼らはもう、彼氏がいないでは納得してくれないもの。碧斗くんという偽彼氏を作る方が手っ取り早いわ」
そんな適当な理由で俺は偽彼氏に……?ふざけるなよ…………超いいじゃねえか。
偽彼氏からの発展して本命に……なんて言うのはアニメじゃ定番だ。俺はそんな期待を抱きながら、首を縦に振った。だが、俺はまた余計なことを言う。
「偽彼氏にはなる。だが、それは笹倉と付き合うことでホモ疑惑を解消するためだからな?俺も笹倉と同じく相手を利用するだけだ」
またやってしまった……。素直になればいいのにな、俺。笹倉は俺の言葉を聞いてクスリと笑う。
「そうね、利用関係。その方が好都合だわ。私を好きじゃないなら余計な気を遣わなくていいもの。碧斗くん、あなた最高の条件ね」
褒められているのかバカにされているのか分からないが、とりあえず礼を言っておく。それと同時に扉がバンバンと叩かれた。
「彩葉様、ここにいらっしゃるのでしょう?あの男も一緒ですか?」
コロ助の声だ。だが、笹倉は恐れることも無く扉の鍵を開ける。
「ええ、居るわよ」
「なぜこのような場所にそんな男と!」
「そんな男ではないわ。私の彼氏よ、カ・レ・シ!」
コロ助は目を見開くと俺と笹倉を交互に見た。そして彼女の前に跪くと深々と頭を下げる。
「こ、こんな無礼なことを……本当に申し訳ありませんでした!」
「分かってくれればいいの、教室に戻りなさい」
「はっ!」
コロ助はよく分からない決めポーズをして、走り去っていった。
「これで私が追われることはなくなるわね」
「そうだな。役に立てたみたいで嬉しいよ」
「そうね。今度は私が役に立つ番なのだけれど……どうやらそれは心配なさそうね」
「どういうことだ?」
扉が開かれて、部屋の中はうっすらと照らされていた。
「だってここ、共用トイレだもの」
「……は?」
俺は周りを見渡してみる。洗面台に鏡、手すりにそして……便器!?
「私をトイレに連れ込んだという噂が広がれば、ホモ疑惑も晴れるでしょうね」
そう言って笹倉はクスクスと笑う。確かにホモ疑惑自体は晴れるだろうが……別の良くない噂が蔓延するだろ……。
「連れ込んだのはお前だろ、笹倉……」
「さあ、忘れたわね。力の弱い私と男の子である碧斗くん、生徒たちはどちらを信じるかしら」
意地の悪い笑みを浮かべる彼女に見蕩れつつ、正気を保って。
「本当にお前は……最低だな……」
心の中で、彼女を好きではない自分を演じる決意をした。
昼休みが終わる頃には、俺と笹倉の噂は蔓延しており、女子と付き合ったことで俺のホモ疑惑も解消された。ちなみに、トイレに連れ込んだという噂は流されていなかった。
コロ助も目撃者だったはずだ。その噂は流さないとは……笹倉に迷惑にならないように気を遣ったんだろう。本当に笹倉信者なんだな。褒めてやりたいくらいだ。
ただ、人生はそんなに上手くいかないようで……。俺の知らないところで、あいつの様子が少しおかしくなったりしていた。
『密かに片思いをしている女子に偽彼氏になって欲しいと頼まれたらどうする?』
密かに片思いをしているって言う部分がキモだな。
そして付け加えさせてもらうとすれば、その女子は学校の中でもトップクラスに可愛くて、クールで、スタイル抜群なんだ。ただ、クールの延長線というか、少しばかり言葉がキツいところもある。
そして、一番重要なのはここだ。
※後ろから彼女の親衛隊(40人くらい)が追いかけてきている。
そんな状況はありえないから考えるだけ無駄だって?そんなことを言うやつには、パキッとするアイスが上手く割れなくなる呪いをかけてやる。
ちなみに、冷凍庫から取り出して10秒以上経つと上手く割れなくなるんだよな。
って、こんなことはどうでもいいんだ。
俺的には溶けかけのパ〇コを開けた時に、液体が飛び出してくるやつの方が困るし。とにかく、ありえないこそありえないんだ。だって、俺がまさに今、その状況だからな。話しを遡れば朝になる。俺がいつも通りの時間に学校に登校し、自分の机でぼーっとしていた時のことだ。
(ああ、今日も可愛いなぁ~)
俺は机に頬杖をつきながら、片思い相手である女子、笹倉 彩葉を眺めていた。
壁にもたれて腕を組みながら、金髪ギャルと談笑している姿はまさにクール。
俺の高校では入学時に購入するネクタイやリボンの色が一年毎に3色をローテーションする形で変わっていて、今は1年生が緑、3年生が青、俺たち2年生が赤になっている。男子はネクタイ限定、女子はリボンかネクタイのどちらを付けてもいいのだが、大抵の女子がリボンを付けている。暗黙の了解的なやつだ。
それでも笹倉 彩葉はネクタイを付けている。そこもまたクールポイントだな。
そして談笑と言えども大声で笑う訳ではなく、笑う時にも軽く口元に手を当てるという育ちの良さが垣間見える仕草。そこもまたポイント高いんだよな。
今は冬服の季節だから、肌の見える面積は少なく、唯一彼女の肌が見える場所といえば太ももだ。短めにされたスカートとハイソックスの間から覗くその白い肌は、決して不健康そうという訳ではなく、むしろ女子高生の賜物。美しいとしか言いようがない。賜物といえば制服の上からでもわかる豊満なバストも同じだ。
彼女のルックスには文句の付けようがない。性格は少しキツいが、それもまたクールビューティの名を底上げする形になっていて、控えめに言って最高だ。
俺の朝はこうやって毎日彼女を眺めることが日課となっているのだが、ここでいつも通り邪魔が入るんだよな。
「あおくーん!おはよ♪」
ほら、やっぱり来た。
俺の視界を遮るように目の前に飛び込んできた彼女は小森 早苗。茶髪のショートが似合うロリ系美少女だ。おまけに俺にとっては幼馴染という肩書きまでついている。
こいつとの付き合いは今年で13年目になるんだっけな。幼稚園に入園する前日に彼女が引っ越してきてからだから、かなりの付き合いになる。
性格は大人しくて控えめ。友達作りが苦手だった彼女は、初めの頃は俺にすら怯えていた。
だが、早苗の両親からよろしくねと頼まれたこともあり、俺は執拗に彼女に構ってやっていたのだが……。
「ねーねー、おはようってばぁ~!」
「ちょ、抱きつくなって!朝から暑苦しい……」
どこで間違えたのか、中学に入ったあたりから立場が逆転した。
基本的に一人行動を好む俺は、友達がいない訳では無いがひとりで過ごしていることが多い。
それをいいことに、彼女は俺に執拗に構ってくる。
こいつ、俺以外とはまともに会話できないくせに、なんでこんなに絡んでくるんだろうか。最近になって、幼稚園の時の仕返しをされているのではないかと思い始めている。そんなに嫌だったんだろうか。
まあ、美少女幼馴染とイチャつけるのはご褒美でしかないからいいが、笹倉 彩葉の手前ということが良くない。
万が一こいつと付き合ってるのでは?なんて思われてみろ。お近付きになることすら無理ゲーになる。だから嬉しい気持ちはぐっと堪えて、早苗を引き剥がした。
「あんまりじゃれついてくるなよ」
「ダメなの?」
「ああ、ダメだ」
「どうしてどうして?どうしてダメなの?」
「あーもう!犬みたいに引っ付いてくるなっての!」
「がるるるるるるる!」
「本当に犬になるな!」
唸る彼女の額にデコピンを食らわせてやると、正気に戻った彼女がおでこを抑えながら言った。
「あおくん、また筋肉を見てたの?さすがは筋肉フェチ♪」
そう言う早苗は、笹倉の向こうにいるマッスルポーズをしている男子を指差した。
俺はこの学校でホモだという噂が流れている。
それにはとある事情があって……。
笹倉 彩葉には親衛隊というものがついている。彼らの熱意は本物で、彼女にまとわりつく目障りな虫は一瞬で抹殺されてしまうのだ。
俺も一度ボロを出して消されそうになったのだが、何とか言い訳をして難を逃れた。だが、その言い訳が悪かった。
『笹倉を見ていたんじゃない!後ろの筋肉を見ていたんだ!』
そう言って筋トレをしているアメフト部の方を指差した。
我ながら馬鹿なことをしたと思っている。俺は筋肉フェチじゃなくて太ももフェチだって言うのに。
まあ、消されないだけマシだとは思うが、これでは肝心の笹倉にすら変な人だと思われてしまう。
なんとか弁解しようと試みたことはあるんだが、広まりすぎた噂は回収不可能だ。おそらく、俺はこの高校生活をホモとして生きていくしかないんだろう。
まあ、そういう訳で早苗も勘違いしたままにしておいているのだが、よくここまで噂を信じ込めるよな。長い付き合いなんだし、少しは疑って欲しいと言うのが本音だ。
「ああ、そうだ。やっぱりあの筋肉の筋って言うのか?たまらないんだよなぁ~」
ここまで来れば俺もとっくに自分を捨てている。
そろそろ右脳が自分はホモなんじゃないかと勘違いし始めているレベルだ。
いくつもの役を演じる演者さんは、気を抜くと役柄と自分の性格が混同してパニックになると聞いたことがある。俺もそれなんだろうか。
「へぇ~、私には分からないけど……なんだか深そうだね!」
全くもって深くねえよ。こいつ、絶対適当に言っただろ。
「そうだな」
まあ、俺も適当に流してまた頬杖体勢に戻るんだけどな。ああ、やっぱり笹倉 彩葉は最高級の目の保養だぜぇ~♪
そして昼休み。
俺は食堂に向かおうと階段を下りていた。財布の中の残金を確認しながら下りていたため、前が見えていなかったんだ。1階に降りたところで、横から走ってきた人とぶつかってしまった。
「ご、ごめ……って笹倉!?」
俺にぶつかって尻もちをついていたのは笹倉 彩葉だった。「いてて……」と言いながらお尻をさすっている。彼女にぶつかって転ばせてしまったなんてのが親衛隊にバレたら……俺は今度こそ消されるかもしれない。
「彩葉様ぁ!まってくだせぇぇ!」
ドタドタドタドタドタドタ!
き、来たァァァァァァァ!?
廊下の向こうから走ってくるのは親衛隊隊長、通称コロ助。消してきたお邪魔虫は数知れず。可愛い呼び方とは裏腹に、コロ助のコロは『殺』だとも言われている。
その後ろに続くのは親衛隊隊員たち。ざっと数えて40はいるだろう。今起きた衝突事故をもう聞き付けてきたのか!?
俺は慌てて逃げようとするも、運悪くこのタイミングで解けていた靴紐を踏んで転んでしまった。
大量の足音はだんだんと近づいてくる。
「碧斗くん、ここにいたら危ないから逃げるわよ!」
笹倉はそんな俺の手を取り、引っ張り起こしてくれた。
「あ、ああ……!」
俺はまた靴紐を踏まないようにと歪な走り方で、彼女の手招きした扉の中に駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……助かった……のか?」
扉の前を走っていく足音が聞こえた。
「ええ、上手く騙せたようね」
「俺がぶつかったせいであんなことになって……悪かったな」
部屋の中は電気がついておらず、暗くてよく見えないが、彼女のいると思われる方向に頭を下げた。
「何か勘違いをしているようね」
「え?」
「あの人たちはあなたが私にぶつかったことで追いかけた訳では無いわよ?私のとある噂が流れてしまってね……」
「とある噂?どんな噂だ?」
「それが……」
言いにくかったのか、彼女は少し間を空けた。
「……私に彼氏が出来たというものよ」
ほう、笹倉に彼氏が……。まあ、いないのが不思議だとは思っていたが、ついに出来たとは……って!
「えええええええええぇ!?」
俺はつい大声を出してしまった。
「あっちから聞こえたぞ!」という声が遠くから聞こえる。
「ちょっと静かに!もちろんその噂は嘘よ。だから弁解したのよ。でも、彼らは信じてくれなくて……」
「それで逃げていたと……」
良かったぁ!まだ彼氏いないのか!本当に、心臓に悪いぜ~!
「碧斗くん、あなたに聞きたいことがあるの」
「ん?なんだ?」
「私のこと、好き?」
突然の質問に俺は動揺してしまった。電気がついていないため、顔を見られないことが唯一の救いだ。
「ねえ……好き?」
そう言いながらジリジリと詰め寄ってくる彼女。
俺はそれにつられて後ろに下がる。だが、壁に背中がぶつかってもう下がれない。
「答えて?」
彼女の声がすぐそこで聞こえてくる。すぐに本心を答えればいいと言うのに、俺は何故かそれが出来なかった。
『もしかしたら俺を試しているのかもしれない』
そう感じてしまったから。
実は親衛隊の行動も全てが演技で、ここで好きだといえば彼らに消されてしまうんじゃないか。
その考えが浮かんだ瞬間から、俺は首を縦に振れなくなった。そして、こう言ってしまったのだ。
「好きじゃない」
もちろん心の中では猛烈に後悔していた。どうしてはっきり言わなかったんだ、と。
まあ、ある意味はっきりではあったが、伝えるべきことが真逆なんだよな。
彼女は「そう」と言うと、小さくため息をつく。その音だけが聞こえてきた。
「なら、私の偽彼氏になってくれる?」
「……は?」
好きじゃないと言った直後に偽彼氏……?俺の頭は単純に混乱していた。
「親衛隊の彼らはもう、彼氏がいないでは納得してくれないもの。碧斗くんという偽彼氏を作る方が手っ取り早いわ」
そんな適当な理由で俺は偽彼氏に……?ふざけるなよ…………超いいじゃねえか。
偽彼氏からの発展して本命に……なんて言うのはアニメじゃ定番だ。俺はそんな期待を抱きながら、首を縦に振った。だが、俺はまた余計なことを言う。
「偽彼氏にはなる。だが、それは笹倉と付き合うことでホモ疑惑を解消するためだからな?俺も笹倉と同じく相手を利用するだけだ」
またやってしまった……。素直になればいいのにな、俺。笹倉は俺の言葉を聞いてクスリと笑う。
「そうね、利用関係。その方が好都合だわ。私を好きじゃないなら余計な気を遣わなくていいもの。碧斗くん、あなた最高の条件ね」
褒められているのかバカにされているのか分からないが、とりあえず礼を言っておく。それと同時に扉がバンバンと叩かれた。
「彩葉様、ここにいらっしゃるのでしょう?あの男も一緒ですか?」
コロ助の声だ。だが、笹倉は恐れることも無く扉の鍵を開ける。
「ええ、居るわよ」
「なぜこのような場所にそんな男と!」
「そんな男ではないわ。私の彼氏よ、カ・レ・シ!」
コロ助は目を見開くと俺と笹倉を交互に見た。そして彼女の前に跪くと深々と頭を下げる。
「こ、こんな無礼なことを……本当に申し訳ありませんでした!」
「分かってくれればいいの、教室に戻りなさい」
「はっ!」
コロ助はよく分からない決めポーズをして、走り去っていった。
「これで私が追われることはなくなるわね」
「そうだな。役に立てたみたいで嬉しいよ」
「そうね。今度は私が役に立つ番なのだけれど……どうやらそれは心配なさそうね」
「どういうことだ?」
扉が開かれて、部屋の中はうっすらと照らされていた。
「だってここ、共用トイレだもの」
「……は?」
俺は周りを見渡してみる。洗面台に鏡、手すりにそして……便器!?
「私をトイレに連れ込んだという噂が広がれば、ホモ疑惑も晴れるでしょうね」
そう言って笹倉はクスクスと笑う。確かにホモ疑惑自体は晴れるだろうが……別の良くない噂が蔓延するだろ……。
「連れ込んだのはお前だろ、笹倉……」
「さあ、忘れたわね。力の弱い私と男の子である碧斗くん、生徒たちはどちらを信じるかしら」
意地の悪い笑みを浮かべる彼女に見蕩れつつ、正気を保って。
「本当にお前は……最低だな……」
心の中で、彼女を好きではない自分を演じる決意をした。
昼休みが終わる頃には、俺と笹倉の噂は蔓延しており、女子と付き合ったことで俺のホモ疑惑も解消された。ちなみに、トイレに連れ込んだという噂は流されていなかった。
コロ助も目撃者だったはずだ。その噂は流さないとは……笹倉に迷惑にならないように気を遣ったんだろう。本当に笹倉信者なんだな。褒めてやりたいくらいだ。
ただ、人生はそんなに上手くいかないようで……。俺の知らないところで、あいつの様子が少しおかしくなったりしていた。
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ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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