過労死したアラフォーSE、異世界では穏やかに暮らすはずが⋯快適環境構築しまくった結果、国王にまで目をつけられてしまった件

ちゃぶ台

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第4話 異世界の子供はこうやって遊ぶ

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​村長宅の怒鳴り込み事件から数日後、俺の日常には新しい習慣が加わっていた。
村長の娘、アンリが毎日のように俺の家に遊びに来るようになったのだ。

​「シリウスー、畑行くのー?」
「ああ、今から父さんの手伝いだ」

​俺が農具を手に畑へ向かえば、アンリは当たり前のようにその後ろをついてくる。
栗色の髪をポニーテールに揺らしながら、俺が鍬を振るうのを土手から眺めていることもあれば、小さなスコップを手に「手伝ってあげるわ!」と土を掘り返していることもある。
その姿は、なんとも微笑ましいものだった。

​農作業が終わった後の時間は、俺とアンリの訓練の時間だ。
もちろん、周りからはただの子供の遊びにしか見えないだろうが。

​「もういいかーい?」
「もーいいよー!」

​村外れの空き地。
かくれんぼで鬼になった俺は、意識を集中させる。探索(サーチ)を発動すると、脳内に簡易マップが展開され、アンリの居場所を示す光点がチカチカと点滅していた。

(……茂みの裏か。相変わらず気配を消すのがうまいな)

アンリのユニークスキル『狩猟者』は伊達じゃない。
フィジカル、特に隠密行動や瞬発力に関しては、五歳の子供の枠には収まらない。
サーチを使わなければ、俺には絶対に見つけられないだろう。   

​「みーつけた!」

ご機嫌を損ねないよう、しばらく探すフリをしてから見つけてあげるのがポイントだ。

「むー、また見つかった! シリウス、あんた絶対ズルしてるでしょ!」
「し、してないさ。アンリの動きの癖がわかってきただけだよ」
「怪しい……だってシリウス以外、大人にだって見つからないのに、どうしてよ」
「いやぁ、僕も運が良いだけだよ」

​……すまない、アンリ。
大人になったら白状するよ、たぶん。

そして、他にもチャンバラごっこに見せかけた剣術基礎の訓練や、竹のような木で作った手製の弓での射的訓練など、俺たちは遊びの中で着実にスキルレベルを上げていった。

5歳児がバク転で攻撃を避けたり、ジャンプで軽く高さ2メートルくらいまで飛び上がれるのは、ここが異世界で俺とアンリに身体強化スキルがあるからであって、前世の公園で子供たちがこんなことをしていたら周りの大人は腰を抜かすだろうな。

時折、様子を見に来た村長が「おぉ、アンリ!ケガしていないかい」などと言ってとアンリに駆け寄るが、その度にアンリが「パパは黙ってて! これは私の特訓なんだから!」と一喝し、村長がしょんぼりと帰っていくのがお約束になっていた。

ブラック企業で摩耗していた前世では、考えられなかった優しい時間だと感じる。
これが、俺の望んだ異世界生活。
俺は、この何気ない日常を、心から愛おしいと感じていた。

​◇
アンリと別れ、家族との温かい夕食を終え、両親が寝静まる深夜。
俺はこっそりと家を抜け出し、村の近くの森へと足を運んでいた。

​「……よし、始めるか」

​昼間の訓練は、あくまで対人戦闘や身体能力の基礎を固めるもの。
俺の力の根幹である魔法の訓練は、人目につかないこの場所でしかできない。

​「灯火(ライト)、石弾(ストーンバレット)、水生成(クリエイトウォーター)……」

​俺は取得した魔法を一つ一つ確認するように、基礎的な魔法を無詠唱で発動させていく。
魔力の流れ、コントロールの精度、持続時間。
前世で幾度もやったデバッグ作業のように、俺は自らの能力を冷静に分析し、最適化を繰り返した。

(魔力総量は順調に増えている。魔力の制御もうまくなってきた。けど、子供の身体はやっぱり燃費が悪いな……)

すぐに体が疲労を訴え始める。前世のように〇ッドブル片手に徹夜で作業、というわけにはいかないのがもどかしい。

「今日はこんなところかな……ん?」

​その夜も、一通り訓練を終えて帰ろうとした時だった。
ガサリ、と茂みが揺れる。
​(……なんだ?)
​茂みからぬるりと現れたのは、青く、半透明なゲル状の物体。大きさはバスケットボールほど。
『グランオルタナティブ』における最弱モンスター、スライムだ。
この世界に来て、初めて遭遇する魔物だった。緊張で心臓が跳ねる。
​スライムはこちらに気づき、体を震わせながらゆっくりと距離を詰めてくる。
俺は冷静に右手を前に突き出した。最近覚えた攻撃魔法。
​「ファイヤーボール!」
​手のひらから放たれた小さな火の玉が、スライムに直撃し、しばらくパチパチとしばらく音を立てて燃えた。
最後にジュウ、と嫌な音を立ててスライムは消滅した。

​――経験値を獲得しました。シリウスのレベルが2に上がりました。

――スキルポイントを750pt獲得しました。

​脳内に響くシステムメッセージ。
初めてのレベルアップだ。
スキルポイントは本来レベルアップ時に500pt付与だが、最初に成長ブーストスキルを取っているためレベル30までは獲得量150%増しだ。

そして、スライムが消えた地面には、小指の爪ほどの大きさの、黒く濁った石が一つ転がっていた。
​「これが、魔石か……」
​開発時の知識によれば、魔物は倒されると、その魔力の源である魔石を残す。
そして、この魔石の品質は、色で判別できる。黒は、最も質の低く、市場での価値はほとんどない。

俺はそれを拾い上げると、慎重に指先に魔力を込めた。
​(……やれるか?)
​俺がこの世界で最も試してみたかったことの1つ。
――ルーンの刻印。
俺は指先をペン代わりに、魔力で魔石の表面に複雑な紋様を描いていく。古代文字に由来する、「風」を意味するルーンだ。

​すると、どうだろう。
俺の手の中の黒い石が、淡い緑色の光を放ち始めた。
ふわり、と俺の顔に心地よいそよ風が吹き付ける。魔石が、風を生み出しているのだ。

​「……成功だ!」

​興奮に、思わず声が漏れた。
風は10秒ほど吹き続けたが、やがて魔石の光が消えると同時に、石そのものがサラサラと灰になって崩れていった。
品質が低すぎたせいで、一度の魔法で限界を迎えてしまったのだろう。
​だが、俺の心は興奮で満たされていた。

もっと品質の高い魔石が欲しい。
赤や青、虹色に輝く高純度の魔石を手に入れたら?
風だけじゃない。
火、水、土、光、闇……様々なルーンを刻んだら、一体どんな現象が起きるんだ?

それは、この世界の新たな可能性。
この手のクラフト要素については、ゲームの開発時から、例の高性能AIが微妙な配合の違いやプレーヤーのスキルを元に結果を書き換える仕様になっていたのだから、どうなるのかは俺にだって分からなかった。

前世から気になることはとことん突き詰めたくなるタチだった。
こっちの世界でもそれは変わらない。
探求心という名の炎が、強く燃え上がった。

その後しばらく辺りをサーチで探ったが、魔物の気配は無く、その日はここまでにして帰宅した。

翌日以降の俺は、今までより少し森の奥まで立ち入るようになり、
スライムやキラーアント、ホーンラビットといった弱い魔物から魔石を集めるようになったのだった。

村の周りに出現するのはどれもEランク相当の魔物ばかりで、高純度の魔石にはまだ出会えていないが、ルーンの研究は少しずつ前進し始めた。

(……もっと質の良い魔石が欲しいな)

俺がそんな事を願ったせいか、このあとデポ村は大変な事態に陥ってしまうのだった。
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