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第4話 勇者アオイ
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今わたしは、魔王城の調理場に立っている。先代魔王が勇者に討たれた後、魔王城に勤めていた者たちは逃げ散ってしまったようなので、新魔王たるわたし自らが料理しなくてはならないのだ。
……なんともしまらない。おまけに調理場は、やはり中世的世界観の通りにコンロはおろか上下水道も無く、土間にかまどがあるだけだった。やれやれ。
とりあえず魔王城の調理場にはたいした物は残っていなかったので、倉まで行ってそこに残っていた食料品を持って帰る。麦があったので麦粥をメインにした。
そして魔王城中庭の菜園だか薬草園だか判らないところから採ってきた野菜だか薬草だかを裏ごしして塩で味付けしたペースト、おそらくは豚か猪で作られたハムを刻んだもの、倉にあったデカい丸いチーズを一部切り取り細かく削ったものなどを添えた。
あとはワインと蜂蜜を見つけたので、ワインを水で割って蜂蜜を入れた物を付けた。と言うかこのワインは、色は薄赤くて味は見事に酸っぱい。水で薄めた上で蜂蜜混ぜないと、飲めたもんじゃない。
ああそう言えば、料理に使った水は井戸から汲んだものではない。井戸水が安全かどうか確かめる試薬もなかったため、この世界の魔法を使ってみる練習も兼ねて、『クリエイト・ウォーター』の魔法を試してみたのだ。結果は味のない水ができた。
わたしの超感覚で調べた結果、おそらくは不純物のない純水というか蒸留水であろうと思われる。まあたぶん、ではあるが。蒸留水であるならば、安全ではあるだろう。
さて料理が一応できたので、それを器に盛る。更に『ちょっとした細工』を施してから、わたしはそれを自室として使っている部屋へ持っていった。
「食事の用意ができたぞ。まあ、材料も調理機材もろくな物が無かったから、たいした物じゃないが……。それでも冷めると余計に不味くなるからな。さっさと食べてしまってくれ」
「……」
わたしが話しかけたのは、勇者の少女だ。あの後目覚めた彼女は、自分が得体のしれない薬液の満ちた水槽……調整培養槽に裸で浸けられていることに狼狽する。そして調整培養槽を内側からぶち壊そうとした。
その際わたしがとっさの判断で、『防御力向上』の術法を調整培養槽に対して行使しなければ、それは破壊されていただろう事は間違いない。
慌てたわたしは強烈な思念による念話で、調整培養槽の薬液が彼女の生命維持に必要であることを強く強く説明する。彼女は半信半疑ながら落ち着いてはくれた。
その後勇者は丸3日ばかり調整培養槽の中で過ごし、先ほどようやく出てこられたばかりだった。彼女が着ていた鎧下はズタボロになったあげく、彼女自身の血で染まっていて使い物にならない状態である。
そのためとりあえず代わりの衣類として、魔王城に残されていた衣類の中からあたりさわりの無い物を与えておいたのだが……。もう少し飾り気のある服を出して来た方が良かったかな。
それとも、やはり治療のためとは言え、10代前半の微妙な年頃の娘さんを裸に剥いたのがまずかったんだろうか。彼女はわたしのことを、きつい目つきで睨んでくる。
「あー、まあ食べなさい。色々文句があるのなら、あとから聞くから。んじゃ、いただきます」
「!? い、いただきますって!?」
「ん?」
何かわたしは変なことを言っただろうか。
「あー、だから食べ終えたら色々文句とか質問とか、ゆっくり聞く時間を取るから。なんにせよ、この料理はさっきも言った通りに、ろくな材料も設備もないところで作ったものだから、冷めると劇的に不味くなる。
ああ、それと君は数日間固形物は何も食べてないから、急いで食べ過ぎない様に。滋養分は調整培養槽の薬液で吸収してはいたが……。胃腸がびっくりするといけないからね」
「……いただきます」
銀製のスプーンでわたしは麦粥をすくい、口に運ぶ。がちりと牙にぶつかった。ああ、そう言えば戦闘形態のままだったな。まあ、いいか。なんか今更人間形態になるのも阿呆くさい。
味は……最後に施した『細工』が功を奏した様だ。21世紀日本の味覚を知り口が奢っているわたしでも、充分に満足が行くものだ。
ふと勇者の方を見遣る。彼女は仏頂面で麦粥を口に運び、一口食べて硬直した。その目が真ん丸になっている。次の瞬間、彼女はガツガツと物凄い勢いで料理をたいらげて行った。だからそんなに急いで食べるな、と。
彼女は時折野菜のペーストや刻んだハム、削ったチーズを麦粥にかけて食べ、蜂蜜入り水割りワインを飲んで一息つくと再度麦粥に取り掛かる。むう、そんなに美味かったか。やはり最後の仕上げに『美食化』の術法を行使しておいて良かった様だ。
わたしは微笑ましい気持ちになりながら自分も水割りワインを飲もうとして、ふと困った。戦闘形態のわたしには唇がなく、牙がむき出しになっている。コップに口をつけて中身を飲むことが難しいのだ。
かと言って、人間形態になるのもなあ。正直面倒だ。ええい、とばかりにわたしは顔を上に向け、口を開いてそこへコップの中身を流し込む。行儀が悪いと言わば言え。……蜂蜜入りの水割りワインは、わたしの口にはかなり甘かった。
……なんともしまらない。おまけに調理場は、やはり中世的世界観の通りにコンロはおろか上下水道も無く、土間にかまどがあるだけだった。やれやれ。
とりあえず魔王城の調理場にはたいした物は残っていなかったので、倉まで行ってそこに残っていた食料品を持って帰る。麦があったので麦粥をメインにした。
そして魔王城中庭の菜園だか薬草園だか判らないところから採ってきた野菜だか薬草だかを裏ごしして塩で味付けしたペースト、おそらくは豚か猪で作られたハムを刻んだもの、倉にあったデカい丸いチーズを一部切り取り細かく削ったものなどを添えた。
あとはワインと蜂蜜を見つけたので、ワインを水で割って蜂蜜を入れた物を付けた。と言うかこのワインは、色は薄赤くて味は見事に酸っぱい。水で薄めた上で蜂蜜混ぜないと、飲めたもんじゃない。
ああそう言えば、料理に使った水は井戸から汲んだものではない。井戸水が安全かどうか確かめる試薬もなかったため、この世界の魔法を使ってみる練習も兼ねて、『クリエイト・ウォーター』の魔法を試してみたのだ。結果は味のない水ができた。
わたしの超感覚で調べた結果、おそらくは不純物のない純水というか蒸留水であろうと思われる。まあたぶん、ではあるが。蒸留水であるならば、安全ではあるだろう。
さて料理が一応できたので、それを器に盛る。更に『ちょっとした細工』を施してから、わたしはそれを自室として使っている部屋へ持っていった。
「食事の用意ができたぞ。まあ、材料も調理機材もろくな物が無かったから、たいした物じゃないが……。それでも冷めると余計に不味くなるからな。さっさと食べてしまってくれ」
「……」
わたしが話しかけたのは、勇者の少女だ。あの後目覚めた彼女は、自分が得体のしれない薬液の満ちた水槽……調整培養槽に裸で浸けられていることに狼狽する。そして調整培養槽を内側からぶち壊そうとした。
その際わたしがとっさの判断で、『防御力向上』の術法を調整培養槽に対して行使しなければ、それは破壊されていただろう事は間違いない。
慌てたわたしは強烈な思念による念話で、調整培養槽の薬液が彼女の生命維持に必要であることを強く強く説明する。彼女は半信半疑ながら落ち着いてはくれた。
その後勇者は丸3日ばかり調整培養槽の中で過ごし、先ほどようやく出てこられたばかりだった。彼女が着ていた鎧下はズタボロになったあげく、彼女自身の血で染まっていて使い物にならない状態である。
そのためとりあえず代わりの衣類として、魔王城に残されていた衣類の中からあたりさわりの無い物を与えておいたのだが……。もう少し飾り気のある服を出して来た方が良かったかな。
それとも、やはり治療のためとは言え、10代前半の微妙な年頃の娘さんを裸に剥いたのがまずかったんだろうか。彼女はわたしのことを、きつい目つきで睨んでくる。
「あー、まあ食べなさい。色々文句があるのなら、あとから聞くから。んじゃ、いただきます」
「!? い、いただきますって!?」
「ん?」
何かわたしは変なことを言っただろうか。
「あー、だから食べ終えたら色々文句とか質問とか、ゆっくり聞く時間を取るから。なんにせよ、この料理はさっきも言った通りに、ろくな材料も設備もないところで作ったものだから、冷めると劇的に不味くなる。
ああ、それと君は数日間固形物は何も食べてないから、急いで食べ過ぎない様に。滋養分は調整培養槽の薬液で吸収してはいたが……。胃腸がびっくりするといけないからね」
「……いただきます」
銀製のスプーンでわたしは麦粥をすくい、口に運ぶ。がちりと牙にぶつかった。ああ、そう言えば戦闘形態のままだったな。まあ、いいか。なんか今更人間形態になるのも阿呆くさい。
味は……最後に施した『細工』が功を奏した様だ。21世紀日本の味覚を知り口が奢っているわたしでも、充分に満足が行くものだ。
ふと勇者の方を見遣る。彼女は仏頂面で麦粥を口に運び、一口食べて硬直した。その目が真ん丸になっている。次の瞬間、彼女はガツガツと物凄い勢いで料理をたいらげて行った。だからそんなに急いで食べるな、と。
彼女は時折野菜のペーストや刻んだハム、削ったチーズを麦粥にかけて食べ、蜂蜜入り水割りワインを飲んで一息つくと再度麦粥に取り掛かる。むう、そんなに美味かったか。やはり最後の仕上げに『美食化』の術法を行使しておいて良かった様だ。
わたしは微笑ましい気持ちになりながら自分も水割りワインを飲もうとして、ふと困った。戦闘形態のわたしには唇がなく、牙がむき出しになっている。コップに口をつけて中身を飲むことが難しいのだ。
かと言って、人間形態になるのもなあ。正直面倒だ。ええい、とばかりにわたしは顔を上に向け、口を開いてそこへコップの中身を流し込む。行儀が悪いと言わば言え。……蜂蜜入りの水割りワインは、わたしの口にはかなり甘かった。
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