召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第30話 戦勝、そのはるか後方で

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 ザウエルが部下の魔道士たち3人に運ばせて、直径50cmはある大きな水晶球を司令室へ持ち込んで来た。わたしとアオイは、それを見て感嘆の溜息を吐く。

「「ほお……」」

「ようやく『通話水晶』の試作品が完成しましたよ。これだけの大きさの球体を削り出せるだけの、完全な透明度の巨大な水晶を見つけるのも手間でしたけど、微細な狂いも無く完全な球体に削り出すのも大変でした」

「その言い方からすると、魔力付与自体は苦労しなかったようだね。さすがは天才大魔導師だ」

 わたしの賞賛の言葉に、ザウエルは一見関心なさそうな様子を装っていたが、わたしもアオイも、彼の唇の端が一瞬嬉しそうに笑みの形になるのを見逃さなかった。まあ武士の情けで突っ込まないでいたが。

 ザウエルの部下の魔道士たちは、水晶球を司令室の奥に設置すると、こちらに敬礼をしてから部屋を出て行った。それを答礼して見送った後、水晶球を見遣りわたしは頷く。

「これが、『親』の水晶玉と言うわけだね。『子』の小さな水晶玉との間で、映像と音声の送受ができるわけか」

「まあそれだけではありませんよ。映像を記録し、再生することも可能です。あと『親』と『子』の間だけでなく、いったん親を経由する形になりますが『子』の水晶球同士の間でも通話が可能です」

「すごく便利になるわね」

 この水晶球があれば、遠く離れた場所で会話が可能になるわけだ。まあ話をするだけならば長距離念話を使えば良いのだが、言葉だけでは伝わり難い情報もある。映像まで送ることが可能な、こう言った物が出来たのは正直ありがたい。

 だが、少々残念なこともあった。

「だが、できればアーカル大陸侵攻軍が出発する前に完成できてればなあ。ガウルグルクたちに、『子』の水晶球を持たせてやれたんだけど。せめて第2次の補給物資と一緒に送れていればなあ」

「って言うか、本来の再侵攻はもう少し後の予定だったから……。本当なら、間に合うはずだった」

 わたしとアオイの言葉に、ザウエルはやれやれと首を振る。

「それは不可抗力でしょう。仕方ありませんよ。第3次の補給物資輸送時に、一緒に送ってやりましょう。
 それと、第3次の補給物資と一緒に送りたい物がまだあります」

「ほう? 何かな?」

「僕が研究していた、つい最近と言うか一昨日再現に成功した、古代魔法の魔法陣です。それを向こうに設置してもらうんです。まあ仕上げはこちらの大陸で、僕がやりますけどね」

 ザウエルは懐から1枚の紙片を取り出した。わたしとアオイの視線がそれに集中する。

「これはその魔法陣の、縮小した写しです。わかりますか?」

「わたしは駄目かな。あまりに緻密で解読困難」

「ふむ……。地脈にアクセスする術式が……。あ、いやこれは単に動力源として地脈から魔力を吸い上げてるだけだね。本命はこっちの空間そのものにアクセスする術式か。なるほど、超空間を使った長距離転移ゲートの魔法かあ」

「え゛! わ、わかるんですか!? 僕でも解読に随分かかったのにっ!?」

 ザウエルの表情が壊れた。愕然としている様子が、ありありと分かる。まあ、わたしはこの世界の魔法に関する知識を奥義級まで、魔王召喚魔法陣によりきっちり刻み込まれているのだ。

 だからザウエルにより綺麗に清書されて読みやすくなっているこの魔法陣なら、解読するだけであれば問題ないのだ。まあしかし、ザウエルの立場もおもんぱかってやらないといけないか。

「あー、きちんと清書してあるからね。そうでなければ、こんな短時間では読み解けなかったよ。それに、たぶんわたしじゃまだ扱えない魔法だね。大魔力に任せて無理にやることもできるけど。
 でもそんなことしたら、転移に失敗して次元の狭間に落っこちたり地面の中に出現したり……。そうでなくても、ほら、ここに書き込まれている超空間を渡る際の転移対象者を保護する術式があるけど、これを取りこぼしたら……。
 転移は成功したけど対象者が死んだ、なんてことになりかねない。この魔法陣を作成する魔法を行使できるとしたら、君ぐらいだろう、ザウエル」

「え、あ、お、おほん。ま、まあそうでしょうね。魔王様も最近魔法の腕がとんでもなく向上しましたが、それでも超一流とまではいきません。新生魔王軍の中で、魔法の技量と魔力量の両方の条件から、この魔法陣を作成できるのは、僕ぐらいしかいませんね。うん」

「自分を超一流って言ってるのと同じね……」

 まあまあ、アオイ。言ってやらないであげてくれ。にしても、なるほど。この魔法……『ゲート』の魔法か。

 A地点とB地点の両方に魔法陣を敷設し、双方を同調させることで互いの行き来を可能とするゲートを造り出す。ただし一度に転移できる量は、人間サイズにして最大10名程度。

 しかも魔法陣の起動にある程度大量の魔力が必要。出現した門は1回につき、最長5分で閉じる。そしてこの魔法陣の作成は、魔法としての難易度は最高レベルだ。確かにザウエル級の腕前がなければ危険だな。

 だけど緊急時の脱出用とか、貴重品の急ぎの輸送とかには便利だな。この『ゲート』の魔法陣でアーカル大陸占領地と新生魔王軍本部基地を繋いでおけば……。うん、使える。

「大魔導師ザウエル……。今の内に正式に、命令にしておこう。この魔法による『ゲート』を、アーカル大陸占領地と新生魔王軍本部基地との間に敷設してくれ。できるだけ早い内に、だ」

「了解です。最初からそれを提案するつもりでいましたから」

 ザウエルはにやりと笑う。と、ここで司令室の扉をノックする音が聞こえた。……本部基地全体の電化の見込みが立ったんだから、インターホンぐらい設置しようかね。ともあれ、わたしは扉の外へ声をかける。

「入室を許可する。入りたまえ」

「はっ! 失礼いたします!」

 それはザウエルの部下の魔道士だった。と言うか、以前よく会議の議事録を取らせていた、魔道士アンブローズだ。彼はこちらに敬礼をする。わたし、アオイ、ザウエルが答礼をした。わたしは彼に話しかける。

「君か。久しいね。今は文官も揃ってきてるから、君らに事務仕事とか頼むことも少なくなったからなあ」

「はっ!」

「で、まあ本題に入ってくれたまえ」

「はっ! 了解いたしました!」

 魔道士アンブローズは手に持っていた紙を広げ、読み上げる。

「アーカル大陸侵攻軍より長距離念話にて戦勝報告が届きました!」

「ほう?」

「アーカル大陸南部、ダムバ台地での戦いにおいて、アーカル大陸諸国家連合軍を撃破したとのことです! 更にこの戦いにおいて、『ヴァルタール帝国』の竜騎士と会敵し、80騎の敵の内その7割を撃墜したと報告が!
 ただ、その際にわが軍の魔竜11体が負傷、一時後送されたそうです……。それと、魔像軍団のウッドゴーレム、マッドゴーレム、クレイゴーレム合計2,000体強が、撃破または損傷大にて遺棄いきされました。主に敵の魔道士による被害だとのことです」

 わたしは頷いて、彼に問うた。

「その他の部隊の被害報告は無いのだね?」

「はっ! ありません!」

「ならばいいさ。報告書をそこに置いて、下がってくれたまえ」

「はっ! 失礼いたします!」

 敬礼して去っていく魔道士アンブローズに答礼をし、わたしはアオイとザウエルに話を振る。

「魔竜11体の負傷程度で、敵が出してきた竜騎士の7割を撃墜かあ。正直もうちょっと損害が出るかと覚悟してたけどね。どう思う?」

「訓練の成果が出たんじゃない?あと、敵が80騎だって言ってたけど、こちらの魔竜の数は幼竜や若竜まで含めれば400体超えるから。慢心せずに数で押し潰せばいいだけ。
 それより、魔像軍団の被害の方が心配」

「あー、大丈夫ですよ、それは。あと10日もすれば向こうに届く第2次補給物資と一緒に、総数5,000体のマッドゴーレム、クレイゴーレム、ストーンゴーレムが届きますからね。魔王様が張り切って創ってたでしょう。第3次にもまた同じだけ、ゴーレムが付けられる予定ですし」

 楽観的な答えを返したザウエルに、しかしアオイは首を横に振る。

「そう言うことじゃない。ゴーレムは普通の兵士から見れば、とても相手にならない強敵。それを魔道士とは言え2,000ちょっとも潰せるってことは、それなりの戦力がいることになる。しかも今の報告では、敵の魔道士を潰したって言ってない」

「な、なるほど……」

「逃げられたとすると、厄介」

 わたしは魔道士アンブローズが置いて行った報告書を読む。しかしこれは、とりあえずの報告である様だ。戦闘詳報は、改めて後から送ると書かれている。

 アオイとザウエルの顔を見遣り、わたしはとりあえずの結論を出す。

「今はどうこう言っても、どうにもならないなあ。現場の……ガウルグルクの判断を信じるだけさ。後から送られてくる戦闘詳報を待とう。
 それと今回の勝利を喧伝しよう。新生魔王軍だけじゃなく一般の魔物たちにも、今回の勝利を知らしめて士気を高めないとね」

「それなんですが、魔王様。『グレート・スピーチ』の魔法はどうでしょう。魔王様の魔力でしたら、バルゾラ大陸全体に演説を届けても、まったく問題ないはずですが」

 この『グレート・スピーチ』と言う魔法は、読んで字のごとく演説用の魔法である。わたしは今までこの魔法を使ったことは無かった。

「あー、そう言えば、そんな魔法もあったね。『コンヴェイ・シンキング』が便利だから使った事なかったなあ」

「単にやたら広範囲に広く意思を伝達するのには、『グレート・スピーチ』の方がいいですよ」

 ザウエルの勧めに、アオイも頷く。わたしはその魔法を使って、バルゾラ大陸全域に演説をぶちかますことにした。



 ……演説かあ。正直、あんまり得意じゃないんだけどね。
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