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第37話 蜥蜴人救出作戦
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ジャハーたちと会見したその翌日、わたしはアオイを横抱き――いわゆるお姫様抱っこ――にして、大空を飛翔していた。背中の重力制御用翼が唸り、超音速での飛行を可能としている。
ちなみに大気摩擦で高熱が発生しないように、『防風結界』の術法を最大強度で行使した。そうしないと、アオイが高熱で大火傷を負ってしまうし、呼吸もできないだろう。いや超音速で飛ぶことによる衝撃波で大ダメージを負っていたかもしれない。
ちなみにアオイは、以前使用していた正体を隠すための仮面で、顔を覆っている。特に今回は、人類種族と直接遭遇しかねない場所へ赴くのだ。油断は禁物である。そう、今わたしたちが超音速で向かっているのは、コンザウ大陸の東の果て、蜥蜴人たちの棲む荒野だった。
「……ようやく見えて来たよ」
「ちょっと長時間この体勢で抱きかかえられているのは、辛かったかな……」
軽口を叩きながら、わたしたちは目的の荒野、そのど真ん中に存在する、やや平たい大岩の上に降り立った。わたしはアオイを大岩の上に降ろす。アオイはぽつりと呟く様に言った。
「……見られてる」
「ん、分かってる。……さて」
わたしは『空間歪曲庫』の術法を行使する。これは歪曲空間内に物品を保管し、あるいは取り出すための魔術だ。歪曲空間に収めた多数の物品の中から、わたしは魔法陣が描かれたシーツほどの大きさの布地と、直径10cm程度の水晶球を取り出した。
水晶球は勿論のこと、『通話水晶』である。これは常時、新生魔王軍本部基地司令室に安置されている直径50cmはある巨大な『通話水晶』と同調している。早い話が、この水晶を使えばとんでもない長距離と、リアルタイムで映像付きの会話が可能なのである。
わたしは『通話水晶』をアオイに渡し、布地の方を大岩の上に広げた。そして『トランスクリプション・マジックフォーメーション』の魔法を行使する。すると布地が炎を発し、一瞬で燃え尽き、そして大岩の上に魔法陣が転写された。
アオイがわたしに『通話水晶』を向け、それを起動する。すると水晶球の上に魔族の青年の姿が、立体映像の様に浮かび上がった。当然ながらその青年は、ザウエルである。わたしはザウエルに向かい、口を開く。
「お待たせ。こちらの準備は整ったよ。魔法陣の同調処理を頼む」
『了解しました。すぐ終わります。終わり次第、ジャハーたちをそちらへ送りますよ』
そして大岩の上に転写された魔法陣が、色とりどりの光を発する。わたしとアオイを見張っている者たちの息を飲む音が、わたしの鋭敏な超感覚器官に感じ取れた。
10分ほどで光の乱舞は収まり、今度は魔法陣の上に直径2mほどの白い光の球が現れる。そしてその光球の中から、3人の蜥蜴人が出現した。そう、この魔法陣は『ゲート』の魔法陣だったのだ。
わたしは蜥蜴人たちに声をかけようとする。しかしそれを遮る声が響いた。
「じゃ、ジャハー! ジャハーではないか!」
「おお、大長! 良かった、まだ生きておられたのだな! 今蜥蜴人はどれだけ生きているのですか? あ、い、いやそれよりも先に、紹介せねばならんお方がいらっしゃるのです」
……まあ、ここはジャハーに全部任せるか。わたしとアオイは、超然とした様子を装う。ジャハーはわたしに恭しく頭を下げると、わらわらと200人ほど彼方此方の物陰から現れた蜥蜴人たちに向かい、叫ぶように言った。
「こちらにおわすお方が、畏れ多くも今代の魔王様、ブレイド・JOKER陛下にあらせられる! 皆の者、魔王様の御前である! 頭が高いぞ! 控えよ!」
「「「「「「は、ははーっ!」」」」」」
蜥蜴人たちは一斉に地面に平伏する。ちなみにその数は更に増え、400人にも達しているだろうか。
アオイが小さな声で言う。
「どこの時代劇?」
「うん、わたしも同感だね」
わたしも小さな声で応えた。わたしは周囲を睥睨し、できるだけ尊大に言う。
「皆の者、面を上げよ」
蜥蜴人たちは顔を上げる。その視線は、わたしとアオイの間を戸惑った様に行き来する。大長と呼ばれた大柄な、しかしくたびれた感じの蜥蜴人が、何か言おうとして慌てて口を噤む。わたしは彼に向かい、言葉を発した。
「直答を許すぞ、大長とやら。まずは名を名乗れ」
「は、はっ!ありがたく存じ奉ります。わたしめは蜥蜴人を統べる大長、黒き眼のソージャムにございます。……あ、えー」
「我が供の者が気になる様だな」
「ははっ!な、何故に魔王様が人間などを供としてお連れあそばされておいでなのでしょうか」
「大長! ご無礼が過ぎますぞ!」
ジャハーが慌てて言うが、わたしは片手で彼を制する。
「いや、かまわぬ。ソージャムとやら、この者は確かに人間ぞ。なれど、同じ人間に裏切られての。復讐を誓い、我に忠誠を誓ったのだ。形は人間なれど、もはや魔物と変わらぬ。我が大切な部下の1人なのだ」
「ははっ! その様な事情がおありとは存ぜず、ご無礼の段、平に、平に!」
「いや、気にしてはおらぬ。お前もそうであろう?親衛隊長よ」
アオイは無言で頷いた。わたしは話を続ける。
「それよりも、ソージャムよ。今蜥蜴人はどれだけ残っておるのか? ジャハーがこの地を旅立ったときには、子供を含めた数で10,000人はおったと聞いたが?」
「はっ! 雄も雌も老いも若きも皆勇敢に戦いましたが、今や半数に満たぬ4,000と少しが生き残っておるばかりにございますれば……」
なるほど、4,000と少しならば充分に受け入れ可能だ。と言うか、10,000でも受け入れは可能だったろうね。もう少し早く知っていれば……。いや、詮無い事を思っても仕方ない。
わたしはジャハーに向き直る。
「ジャハー、ソージャム以下蜥蜴人たちの説得は任せたぞ。この地に残ると言い出す者が、できる限り少ないようにするのだ」
「ははっ! 仰せのままに!」
「!? じ、ジャハー、いったいそれは……」
我々の言っていることが理解できず一瞬取り乱したソージャムに、ジャハーが蜥蜴人の脱出作戦を説明した。ソージャムはこの地を捨てると言う事に驚くが、バルゾラ大陸に新天地が用意されていることなどを聞き、やがて脱出に同意する。
まあ、結構長い時間がかかったのだが。……と言うか、ジャハーに全権を委任してたんだろう。さっさと彼の判断を信じるべきだろうに。まあ、仕方ないと言えば仕方ないんだろうな。故郷を捨てる決断は、そうそうできないだろ。
既に故郷に帰る事が叶わない、わたしやアオイには……。まあ、痛いほど解る。
「では、この荒野にいる全ての蜥蜴人に脱出指示を出すのだ、黒き眼のソージャムよ」
「ははっ! では全部族にこれより伝令を走らせます!」
「うむ、急げよ。ところでソージャム。蜥蜴人の内で貴様の指示に……我が意に従わず、脱出を拒む者はおらぬか?もし万一にもその様な者がおらば、我は断腸の思いなれどそ奴らを見捨てねばならぬ」
わたしの強い視線に、一瞬ソージャムは怯む。しかし気力を振り絞って、彼は言った。
「は……。いえ、わたしめが必ずや全部族の長どもを説得いたしまする! いざと言う時は、我の大長としての権限で、その部族の長を解任してでも……!」
「ならば良い」
ソージャムは周囲の蜥蜴人たちに、てきぱきと指示を出し始めた。わたしはそれを見遣りつつ、1体でも多くの蜥蜴人が脱出に同意する様に願う。……アオイが、仮面の奥からわたしを見つめていた。
ちなみに大気摩擦で高熱が発生しないように、『防風結界』の術法を最大強度で行使した。そうしないと、アオイが高熱で大火傷を負ってしまうし、呼吸もできないだろう。いや超音速で飛ぶことによる衝撃波で大ダメージを負っていたかもしれない。
ちなみにアオイは、以前使用していた正体を隠すための仮面で、顔を覆っている。特に今回は、人類種族と直接遭遇しかねない場所へ赴くのだ。油断は禁物である。そう、今わたしたちが超音速で向かっているのは、コンザウ大陸の東の果て、蜥蜴人たちの棲む荒野だった。
「……ようやく見えて来たよ」
「ちょっと長時間この体勢で抱きかかえられているのは、辛かったかな……」
軽口を叩きながら、わたしたちは目的の荒野、そのど真ん中に存在する、やや平たい大岩の上に降り立った。わたしはアオイを大岩の上に降ろす。アオイはぽつりと呟く様に言った。
「……見られてる」
「ん、分かってる。……さて」
わたしは『空間歪曲庫』の術法を行使する。これは歪曲空間内に物品を保管し、あるいは取り出すための魔術だ。歪曲空間に収めた多数の物品の中から、わたしは魔法陣が描かれたシーツほどの大きさの布地と、直径10cm程度の水晶球を取り出した。
水晶球は勿論のこと、『通話水晶』である。これは常時、新生魔王軍本部基地司令室に安置されている直径50cmはある巨大な『通話水晶』と同調している。早い話が、この水晶を使えばとんでもない長距離と、リアルタイムで映像付きの会話が可能なのである。
わたしは『通話水晶』をアオイに渡し、布地の方を大岩の上に広げた。そして『トランスクリプション・マジックフォーメーション』の魔法を行使する。すると布地が炎を発し、一瞬で燃え尽き、そして大岩の上に魔法陣が転写された。
アオイがわたしに『通話水晶』を向け、それを起動する。すると水晶球の上に魔族の青年の姿が、立体映像の様に浮かび上がった。当然ながらその青年は、ザウエルである。わたしはザウエルに向かい、口を開く。
「お待たせ。こちらの準備は整ったよ。魔法陣の同調処理を頼む」
『了解しました。すぐ終わります。終わり次第、ジャハーたちをそちらへ送りますよ』
そして大岩の上に転写された魔法陣が、色とりどりの光を発する。わたしとアオイを見張っている者たちの息を飲む音が、わたしの鋭敏な超感覚器官に感じ取れた。
10分ほどで光の乱舞は収まり、今度は魔法陣の上に直径2mほどの白い光の球が現れる。そしてその光球の中から、3人の蜥蜴人が出現した。そう、この魔法陣は『ゲート』の魔法陣だったのだ。
わたしは蜥蜴人たちに声をかけようとする。しかしそれを遮る声が響いた。
「じゃ、ジャハー! ジャハーではないか!」
「おお、大長! 良かった、まだ生きておられたのだな! 今蜥蜴人はどれだけ生きているのですか? あ、い、いやそれよりも先に、紹介せねばならんお方がいらっしゃるのです」
……まあ、ここはジャハーに全部任せるか。わたしとアオイは、超然とした様子を装う。ジャハーはわたしに恭しく頭を下げると、わらわらと200人ほど彼方此方の物陰から現れた蜥蜴人たちに向かい、叫ぶように言った。
「こちらにおわすお方が、畏れ多くも今代の魔王様、ブレイド・JOKER陛下にあらせられる! 皆の者、魔王様の御前である! 頭が高いぞ! 控えよ!」
「「「「「「は、ははーっ!」」」」」」
蜥蜴人たちは一斉に地面に平伏する。ちなみにその数は更に増え、400人にも達しているだろうか。
アオイが小さな声で言う。
「どこの時代劇?」
「うん、わたしも同感だね」
わたしも小さな声で応えた。わたしは周囲を睥睨し、できるだけ尊大に言う。
「皆の者、面を上げよ」
蜥蜴人たちは顔を上げる。その視線は、わたしとアオイの間を戸惑った様に行き来する。大長と呼ばれた大柄な、しかしくたびれた感じの蜥蜴人が、何か言おうとして慌てて口を噤む。わたしは彼に向かい、言葉を発した。
「直答を許すぞ、大長とやら。まずは名を名乗れ」
「は、はっ!ありがたく存じ奉ります。わたしめは蜥蜴人を統べる大長、黒き眼のソージャムにございます。……あ、えー」
「我が供の者が気になる様だな」
「ははっ!な、何故に魔王様が人間などを供としてお連れあそばされておいでなのでしょうか」
「大長! ご無礼が過ぎますぞ!」
ジャハーが慌てて言うが、わたしは片手で彼を制する。
「いや、かまわぬ。ソージャムとやら、この者は確かに人間ぞ。なれど、同じ人間に裏切られての。復讐を誓い、我に忠誠を誓ったのだ。形は人間なれど、もはや魔物と変わらぬ。我が大切な部下の1人なのだ」
「ははっ! その様な事情がおありとは存ぜず、ご無礼の段、平に、平に!」
「いや、気にしてはおらぬ。お前もそうであろう?親衛隊長よ」
アオイは無言で頷いた。わたしは話を続ける。
「それよりも、ソージャムよ。今蜥蜴人はどれだけ残っておるのか? ジャハーがこの地を旅立ったときには、子供を含めた数で10,000人はおったと聞いたが?」
「はっ! 雄も雌も老いも若きも皆勇敢に戦いましたが、今や半数に満たぬ4,000と少しが生き残っておるばかりにございますれば……」
なるほど、4,000と少しならば充分に受け入れ可能だ。と言うか、10,000でも受け入れは可能だったろうね。もう少し早く知っていれば……。いや、詮無い事を思っても仕方ない。
わたしはジャハーに向き直る。
「ジャハー、ソージャム以下蜥蜴人たちの説得は任せたぞ。この地に残ると言い出す者が、できる限り少ないようにするのだ」
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「では、この荒野にいる全ての蜥蜴人に脱出指示を出すのだ、黒き眼のソージャムよ」
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「ならば良い」
ソージャムは周囲の蜥蜴人たちに、てきぱきと指示を出し始めた。わたしはそれを見遣りつつ、1体でも多くの蜥蜴人が脱出に同意する様に願う。……アオイが、仮面の奥からわたしを見つめていた。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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