召喚魔王様がんばる

雑草弁士

文字の大きさ
上 下
46 / 128

第43話 自爆攻撃

しおりを挟む
 アーカル大陸の戦線が落ち着いてから、1~2週間が過ぎた。この間わたしは、アオイに乞われるままに様々な魔法を伝授してみたのであるが……。

 アオイはわたしが色々教えてみたところ、念話や転移魔法を問題なく覚えることができた。おまけと言ってはなんだが錬金術系魔法をはじめとする各種便利魔法、あげくに勇者としてはどうなんだと言う闇魔法や影魔法、死霊魔法まで使いこなしてしまった。

 これには、開いた口が塞がらなかったものである。いや、覚えられそうだからと言って、教えてしまったわたしが言える事ではないが。

 そんな平和な一時を過ごしていたのだが、その平穏は『通話水晶』による緊急通信で破られることになる。通信を送ってきたのは、オルトラムゥだった。映像の中のオルトラムゥは、魔竜の骨格では構造上あまり上手くできない敬礼を、それでもぎこちなくはあるが行ってみせる。

『むう、魔王様。『通話水晶』ごしとは言え、顔をあわせるのは久々だな』

「オルトラムゥ、何があった? ガウルグルクはどうしたね? それにゼロは?」

 アオイ、ザウエル、鉄之丞と共に答礼を返しつつ、わたしは訊ねる。本来通信を送って来るのであれば、アーカル大陸侵攻軍の主将を任せていたガウルグルクであるはずだった。オルトラムゥは、魔竜の爬虫類顔で器用に苦笑を形作ってみせる。

『あー、ちっとばかり言いづらいのだがな。魔獣将殿は、怪我を押して我が新生魔王軍に反抗する奴らの捜査に注力してる。魔像将ゼロは万が一に備え、『ヴァルタール帝国』との国境線に魔像軍団を率いて出張っている。
 俺はこの図体であるからな、アーカル大陸ヴェード基地で待機だ。それ故、魔王様への報告を魔獣将殿から頼まれた。
 で、だ。何があったかだが……。アーカル大陸の初期占領地で、抵抗運動が根強いのは知っておるだろう?そ奴らが、やってくれたわ。困窮している市民や孤児に対する炊き出しを、宣撫政策の一環としてやっておったろう。そこに魔獣将殿が視察に出向いたのを見計らい……』

「まさか……。いや、もしや暗殺未遂のテロかね?」

『うむ。しかも同行していた獣人ライカンスロープ型の魔獣3体と、炊き出しをやっていた犬妖コボルドどものうち半数が死んだ。魔獣将殿は怒り心頭、手当てもそこそこに捜査の陣頭指揮を執っている』

 ぎりっと音を立てて、わたしは歯ぎしりをする。苛立ちを無理矢理に鎮め、わたしはオルトラムゥに問いかけた。

「痛い被害だね……。具体的に、犯人は何をやったのかな?」

 わたしの問いに、オルトラムゥは巨大な首を左右に振ってみせる。

『いやはや、炊き出しに集まった市民を装って、敵が1名もぐりこんでいたのだ。そして魔獣将殿が視察にやって来たのを確認すると、爆裂系の魔道具で自爆しおった。人類種族の困窮しておる民や孤児を巻き添えにしてな。
 俺が直接見たわけでは無いが、現場は死屍累々だそうだ。やれやれ、無辜の同類を多数巻き添えにして、自爆してまでこちらを害そうとはな。いや、そう言うことをする輩も人類には居ると知ってはいたんだが。
 根性があると感嘆すればいいのか、馬鹿な真似をと軽蔑すればいいのか、貴重な魔道具を使い捨てることにあきれ返れば良いのか……』

「……現場は? もう片付けたのかい?」

『ああ、いや、まだのはずだ。いや、現場検証?だったか?のために現場保存?をやっているとの事だ。いや、終わったのか?確認せんと分からんが、終わって片付けに入った頃合いかもな』

 それはまずい! わたしは叫んだ。

「とめろ! まだ片付けさせるな!」

「「『『!?』』」」

 急なわたしの命令に、その場の3名と『通話水晶』の向こうの1名の全員が驚いて、一瞬硬直する。が、すぐにオルトラムゥは行動に移る。

『わ、わかった。すぐに片づけをやめさせる。では命令を下してくるので、失礼するぞ』

「頼んだよ」

 オルトラムゥは敬礼もそこそこに、通話を打ち切る。わたしはぎりぎりで間に合った答礼を解くと、椅子から立ち上がった。

「海竜によって船舶による物資輸送を断ったことが、相手を追いつめたかな……。アオイ、渡航の準備をしてくれるかい? 『ゲート』の魔法陣を使って、アーカル大陸に赴くからね。ザウエル、鉄之丞、ちょっとの間留守を頼むよ」

「わかった」

『それがしも了解いたしてござる』

「僕も了解しました。……ですが、何をしに出かけるんですか?」

 ザウエルの返答に、わたしは低い笑いで答えた。

「……く、くくく」

 その笑いに続き、わたしは言葉を吐き出す。その声音には、わたしの憤りが込められており、自分でもおどろおどろしく聞こえた。

「相手は馬鹿な真似をした。失策を犯したんだ。たしかにこちらも痛い思いをさせられたがね。けれど相手の失策はそれ以上だよ。
 ……せっかく相手が失敗してくれたんだ。こっちはその傷口を最大限広げてやるまで、さ」

「魔王様、もしかして怒ってる?」

「うん」

 わたしはアオイの言葉に即答する。

「部下を傷つけられ、殺されて怒らないわけ無いだろう? 戦場とかで、必要な犠牲だったら我慢もするけど。今回のは、そうじゃない。
 それに被征服民とは言え、こちらに服従しているならばわたしの支配下の民だよ。それを惨殺されたんだ。怒るよ、それは」

 わたしはそう言い放つと、皆に細かい考えを説明し始めた。みてろ、テロをやった連中も、そそのかした連中も。ぎゃふんと言う目にあわせてやる。
しおりを挟む

処理中です...