召喚魔王様がんばる

雑草弁士

文字の大きさ
49 / 128

第46話 新勇者に関する考察

しおりを挟む
 勇者ミズホが海に出た知らせを受けてから1週間後。いつもの司令室にて、わたしはザウエルから上げられてきた報告書を手に取り、検めていた。

「……アーカル大陸南部における抵抗運動の勢力が、大陸北部の『ヴァルタール帝国』目指して移動を開始。どうやら船舶による物資などの補給がままならないため、『ヴァルタール帝国』へ脱出しようとしたらしい、か。
 けど、よく南の端っこから大陸縦断して北の『ヴァルタール帝国』まで行く気になったな。だがしかし、その動きは既に捕捉されている。行き着くまでの土地は、全てこちらの占領地。それに最前線における防衛ラインも越えられはしないだろうな。
 まあそれでも……。やっぱり『ヴァルタール帝国』に逃げるしか道は無かったんだろうなあ」

「民心が完全に抵抗運動から離れたものね。民を巻き込んでのテロ攻撃を何度かやったから。まあ大半は阻止に成功したけど。で、どうするの?」

「んー? 叩き潰すよ?」

 正直『ヴァルタール帝国』まで逃がしてやって、その足かせにしてやろうとか、思わなかったわけでもない。だが既に『ヴァルタール帝国』が抵抗運動の勢力に、テロ攻撃を示唆あるいは教唆した事実は、証拠込みで掴んでおり、民に『グレート・スピーチ』の魔法で公表してもいる。わざわざ実行犯を相手に抱え込ませて、それを相手の弱みにする必要性は薄い。

 であるならば、逃げる抵抗運動勢力をこの際綺麗さっぱりこの世から退場させた方が、わたしの精神衛生的にも得策と言うものだ。わたしは攻撃の命令書を作成し、それにサインをする。書類整理を手伝いつつ、アオイがポツリと漏らす。

「まだ怒ってる」

「うん。わたしは根に持つタイプだからね。
 さて、次の報告書は……。ふむ、勇者ミズホに関する追加報告か。君も見るかい?アオイ」

「うん」

 わたしは報告書の束を、読み終わった順にアオイに手渡してやる。この報告書には新勇者一行の現状が、現状知りうる限り記されていた。

 まず、今現在新勇者一行はコンザウ大陸の西岸にある一国、『ラーカウ海商国』の首都にして最大の港湾都市、グンバに滞在している。

 目的は表向き物資補給のためとなっているが、実のところ何処に向かうべきか、新勇者一行の意見が纏まっていないらしい。ちなみに一時的に陸に上がっているため、船上にいる時よりも情報が仕入れやすくなっている。

 アーカル大陸へ向かうべきだと主張しているのが当の勇者ミズホである。彼女からすれば、今現在魔王の脅威に直面しているアーカル大陸の民人を救いたい、と言う純粋な気持ちからの意見だ。

 一方バルキーゾ魔大陸……バルゾラ大陸へと直接突入し、全ての元凶である魔王を討つべきだと主張しているのが勇者パーティーの残り3人である。彼らの発言の裏にあるのは、本国である『リューム・ナアド神聖国』の方針だ。

 『リューム・ナアド神聖国』側からすれば、コンザウ大陸の国家、特に自国に対して反抗的な態度を取り続けて来たアーカル大陸諸国家は、もう少し痛めつけられれば良いとさえ思っている。勇者本人は知る由もないが。

「勇者一行の内輪でのすれ違いは、こちらとしても望むところだがね……。こちらの書類は勇者ミズホの現状での実力か。……ふむ。剣技はたいしたものだね。アオイにはまだまだ届かなくとも、一行の中で既に最強か。
 魔法の力は……。属性は光系統に偏ってて、そこそこの強さしかないね。……いやもしかして、基礎を蔑ろにして光系統に集中して伸ばした、促成栽培かな?」

「たぶん『リューム・ナアド神聖国』は、今回の勇者を聖剣の使い手として特化させたんだと思う。光魔法はきっと、聖剣の持ち手として必要な、最低限の物しか教えてないんじゃないかな。
 治癒魔法や補助魔法とかをパーティーメンバーに頼りっきりになる様に。……いざ始末するときに、それが弱点となる様に。
 仮にその想像が正しいとしたら、促成栽培でこれだけの力を持てるんだから、素質的には魔法の使い手としての方が向いてると思うけど」

「やれやれ」

 わたしは溜息を吐く。『リューム・ナアド神聖国』は、味方を背後から撃つ算段ばかりつけている。敵側であるわたしとしては、本当にありがたいことだ。無論皮肉である。

「さて、そうなると勇者ミズホがアーカル大陸にやって来た場合、バルゾラ大陸にやって来た場合の両方を考えて準備しておいた方がいいかな。『例の物』を、場合によってはアーカル大陸に運ばないといけないなあ」

「ああ、アレ。確かにアレは必要ね。……勇者ミズホをこちら側に引き入れるためには」

「そうだね。さて、一休みしようか。続きはお茶の後にしよう」

「うん」

 アオイが自分の分も含め、お茶を淹れてくれる。わたしは司令室の片隅にある冷蔵庫から、先日わたしが教えつつアオイが焼いたフルーツタルトを取り出す。

 冷蔵庫か……。召喚直後と比べると、とんでもなく便利になったものである。未だ量産が利く工業製品ではない、手作りの工芸品でしか無いのが玉に瑕だが。

 今のところ電気機器に必要な電子部品の類は、わたしが錬金術系の魔法や魔道の術で単品生産している。ザウエルでも魔法技術的には製作できると思うのだが、電子工学の知識を教え始めてまだ日が浅いので、そっちの知識不足で作れないでいる。

 早いところ工業技術が向上し、一般の民が自力で作れる様になって欲しい物だ。

「そうしたらまずはラジオ放送を開始……。いやテレビ放送を一気に始めてしまってもいいんじゃないかな。ああ、でも今のところは軍事技術を優先しないといけないかな。
 魔法が不得意で念話が使えない種族もけっこう多いからなあ。無線電信、いや無線電話は必須だろう。ああいや、有線電話による野戦電話なら早目に実用化できるかな?あー、それが完成したら民間にも技術をフィードバックして、電話網を構築しないと。
 戦車や装甲兵員輸送車や歩兵戦闘車も要るよなあ。自動車歩兵じゃ不整地走破性が劣る。あー、やっぱり砲の自走化は必須……」

「魔王様、突っ走ってる上に、考えてる事が口から洩れてる」

「おおっと」

 アオイの突っ込みに内心動揺しつつ、わたしはフルーツタルトを切り分けた。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...