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第54話 胸が痛かった話
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最近は時が過ぎるのが早いと思う。ついこの間、『ヴァルタール帝国』に対する攻撃を始めたばかりだと思っていたのだが、もう既にその領土の4分の3は制圧しており、残り4分の1もまともな抵抗はできなくなっている。
新生魔王軍……いつまでも『新生』でも無いか。とりあえず今後は単に『魔王軍』と呼ぼう。なにはともあれ、魔王軍が征くところ無人の野を往くがごとしと言う状況である。それでも踏ん張って抵抗する勢力もあるにはあるのだが、半分自棄になっている状況であるらしい。
まあ自棄になる気持ちは分からないでもない。重装歩兵も騎士による騎馬突撃も、こちらの自動車歩兵が持つ自動小銃の斉射の前にはバタバタと倒れるしかないのだ。あげくにこちらには、砲兵による支援と魔竜による対地攻撃支援もある。もはや敵には竜騎士もほとんどおらず、対抗することは不可能だ。
にしても、本当に時が過ぎるのが早い。『ヴァルタール帝国』侵攻少し前に、アオイの18歳の誕生日を祝ったものだったが、もう明後日には19歳だ。いや、この世界の暦はアオイの元の世界の暦と若干ズレがある。だから2~3日から1週間程度はズレており、正確ではないはずだが。それ故もしかしたら既に19歳になっているのかもしれない。
けれどアオイの身体は、未だ12歳のままだ。これは『リューム・ナアド神聖国』に勇者として召喚された際に、年齢が固定されたことによる。本来ならば、アオイは先代魔王を討った後に、元の世界の召喚直後の時間軸へ戻されるはずであった。戻された時に、アオイが成長していては不都合となるための、年齢固定処置である。
しかし『リューム・ナアド神聖国』は、勇者召喚魔法陣に手を加えて勇者帰還の方法を無くしてしまった。あげくにアオイが先代魔王を討った直後、彼女のパーティーメンバーを使って彼女を暗殺しようとしたのだ。わたしによって生命は救われたとは言え、彼女の心の傷は計り知れない。
「……と。考えがズレたな。アオイの19歳の誕生祝い、何にしようかね。」
幾つか腹案はある。と言うか、一応準備してある。問題は2つ準備してある中から、どちらをプレゼントすべきか、だ。
1つは、仮面である。彼女は自分の生存が『リューム・ナアド神聖国』にばれない様に、外部、特にバルゾラ大陸の外へ出る時には仮面を被って正体を隠している。わたしは今回、その仮面と同型ではあるが、秘められた魔力は比較にならない強力な品を用意した。
前の物も、顔面及び頭部を防御する魔力は持っていたが、今回用意した物はそれだけではない特殊能力を秘めている。
もう1つは脚輪である。これには外見を偽り、好きな姿に変身する魔力を込めてある。これさえあれば、彼女は仮面を着けなくとも正体がばれることは無い。
「……仮面、だよな。」
わたしは呟く。変身の脚輪は没だ。この脚輪の変身能力を使えば、アオイは本当の年齢に……。そう、19歳の姿にもなれるだろう。だがこの変身能力は、あくまで幻でしか無い。幻なのだ。最初は喜ぶかもしれない。
しかしその内に、彼女は現実を直視せざるを得なくなる。あくまでその姿は幻で、彼女は12歳の姿から『絶対に』成長できないと言うことを。それはあまりに残酷と言う物だろう。
アオイを12歳に固定している術式については、わたしやザウエルも検討してみたが、解除は不可能だった。と言うか、現状では限りなく不可逆変化だった。並行異世界間を渡る際に、その時空転移の力を触媒に使って、アオイの存在そのものを変化させていたのだ。
元に戻すには、アオイが正確に……そう、1mmの狂いもなしに1秒の狂いもなしに、アオイが元居たアオイの地球の元の場所、元の時間軸に戻る事が、絶対に必要なのだ。その過程で、再度アオイの存在そのものを書き直す。
一度再生した動画を、まるで巻き戻し再生するかの様に。行われた処置を、180度逆転して再度行うのである。だがそれは、不可能だ。絶対に不可能なんだよ。
アオイを安全に元の世界に帰還させるには、元々勇者召喚の魔法陣に記憶されていた『はず』の並行異世界座標が必要だ。絶対に。絶対にだ。だがそれは失われてしまっている。……ちくしょう。『リューム・ナアド神聖国』のアンポンタンどもめ。
わたしは『空間歪曲庫』の術法を使い、脚輪を取り出す。そして渾身の腕力と魔力が込められた右手で、それを握りつぶした。最初からこんな物、創らねばよかった。いや創ってる間は、アオイが喜ぶか、と思ってがんばって創ったんだよ。もっと良く考えればよかった。
粉々になった脚輪の破片を片付ける。くそ、虚しい。と言うか、自分の間抜けさ加減に対する怒りと、『リューム・ナアド神聖国』の指導者連中に対する怒りが、脳裏に渦巻いてる。
いらいらしている時は、甘い物でも食べて気を落ち着かせるべきか。あー、だがなあ。まだお茶の時間には少し早い。どうしたものかな。そう思った時である。
扉の向こうに、もうすっかり慣れた気配を感じる。そして机上の内線電話がインターホンモードで鳴った。わたしは既に相手が誰か判っていながら、ちゃんと誰何する。手抜きをすると、防犯上どうとかアオイが怒るのだ。
「誰かね?」
「親衛隊長アオイよ、魔王様」
「入ってくれ。」
わたしはアオイを司令室に招き入れた。アオイは敬礼をして来るので、わたしも答礼を返す。と、アオイが怪訝そうな顔で語り掛けて来た。
「魔王様、どうしたの? 少しイライラしてない?」
「あー、うん。よく分かったね。うん、ちょっと世界地図を見てたら、『リューム・ナアド神聖国』に目が行ってね。少しムカついたんだ。」
「わたしも良くある……。」
「少し早いけど、お茶にしようか。イライラしている時には、甘い物でも食べるに限る。」
頷いたアオイが、早速お茶を淹れる準備を始める。わたしも冷蔵庫から、果物……ミカンに似た、この『世界』の果物を使ったゼリーを取り出した。アオイが嬉しそうな顔になる。
その顔を見遣りつつ、わたしは思う。明後日には、創っておいた仮面をプレゼントしよう。まず間違いなく、アオイは喜んでくれるだろう。裏表なしに、心から。
……胸が、痛かった。
新生魔王軍……いつまでも『新生』でも無いか。とりあえず今後は単に『魔王軍』と呼ぼう。なにはともあれ、魔王軍が征くところ無人の野を往くがごとしと言う状況である。それでも踏ん張って抵抗する勢力もあるにはあるのだが、半分自棄になっている状況であるらしい。
まあ自棄になる気持ちは分からないでもない。重装歩兵も騎士による騎馬突撃も、こちらの自動車歩兵が持つ自動小銃の斉射の前にはバタバタと倒れるしかないのだ。あげくにこちらには、砲兵による支援と魔竜による対地攻撃支援もある。もはや敵には竜騎士もほとんどおらず、対抗することは不可能だ。
にしても、本当に時が過ぎるのが早い。『ヴァルタール帝国』侵攻少し前に、アオイの18歳の誕生日を祝ったものだったが、もう明後日には19歳だ。いや、この世界の暦はアオイの元の世界の暦と若干ズレがある。だから2~3日から1週間程度はズレており、正確ではないはずだが。それ故もしかしたら既に19歳になっているのかもしれない。
けれどアオイの身体は、未だ12歳のままだ。これは『リューム・ナアド神聖国』に勇者として召喚された際に、年齢が固定されたことによる。本来ならば、アオイは先代魔王を討った後に、元の世界の召喚直後の時間軸へ戻されるはずであった。戻された時に、アオイが成長していては不都合となるための、年齢固定処置である。
しかし『リューム・ナアド神聖国』は、勇者召喚魔法陣に手を加えて勇者帰還の方法を無くしてしまった。あげくにアオイが先代魔王を討った直後、彼女のパーティーメンバーを使って彼女を暗殺しようとしたのだ。わたしによって生命は救われたとは言え、彼女の心の傷は計り知れない。
「……と。考えがズレたな。アオイの19歳の誕生祝い、何にしようかね。」
幾つか腹案はある。と言うか、一応準備してある。問題は2つ準備してある中から、どちらをプレゼントすべきか、だ。
1つは、仮面である。彼女は自分の生存が『リューム・ナアド神聖国』にばれない様に、外部、特にバルゾラ大陸の外へ出る時には仮面を被って正体を隠している。わたしは今回、その仮面と同型ではあるが、秘められた魔力は比較にならない強力な品を用意した。
前の物も、顔面及び頭部を防御する魔力は持っていたが、今回用意した物はそれだけではない特殊能力を秘めている。
もう1つは脚輪である。これには外見を偽り、好きな姿に変身する魔力を込めてある。これさえあれば、彼女は仮面を着けなくとも正体がばれることは無い。
「……仮面、だよな。」
わたしは呟く。変身の脚輪は没だ。この脚輪の変身能力を使えば、アオイは本当の年齢に……。そう、19歳の姿にもなれるだろう。だがこの変身能力は、あくまで幻でしか無い。幻なのだ。最初は喜ぶかもしれない。
しかしその内に、彼女は現実を直視せざるを得なくなる。あくまでその姿は幻で、彼女は12歳の姿から『絶対に』成長できないと言うことを。それはあまりに残酷と言う物だろう。
アオイを12歳に固定している術式については、わたしやザウエルも検討してみたが、解除は不可能だった。と言うか、現状では限りなく不可逆変化だった。並行異世界間を渡る際に、その時空転移の力を触媒に使って、アオイの存在そのものを変化させていたのだ。
元に戻すには、アオイが正確に……そう、1mmの狂いもなしに1秒の狂いもなしに、アオイが元居たアオイの地球の元の場所、元の時間軸に戻る事が、絶対に必要なのだ。その過程で、再度アオイの存在そのものを書き直す。
一度再生した動画を、まるで巻き戻し再生するかの様に。行われた処置を、180度逆転して再度行うのである。だがそれは、不可能だ。絶対に不可能なんだよ。
アオイを安全に元の世界に帰還させるには、元々勇者召喚の魔法陣に記憶されていた『はず』の並行異世界座標が必要だ。絶対に。絶対にだ。だがそれは失われてしまっている。……ちくしょう。『リューム・ナアド神聖国』のアンポンタンどもめ。
わたしは『空間歪曲庫』の術法を使い、脚輪を取り出す。そして渾身の腕力と魔力が込められた右手で、それを握りつぶした。最初からこんな物、創らねばよかった。いや創ってる間は、アオイが喜ぶか、と思ってがんばって創ったんだよ。もっと良く考えればよかった。
粉々になった脚輪の破片を片付ける。くそ、虚しい。と言うか、自分の間抜けさ加減に対する怒りと、『リューム・ナアド神聖国』の指導者連中に対する怒りが、脳裏に渦巻いてる。
いらいらしている時は、甘い物でも食べて気を落ち着かせるべきか。あー、だがなあ。まだお茶の時間には少し早い。どうしたものかな。そう思った時である。
扉の向こうに、もうすっかり慣れた気配を感じる。そして机上の内線電話がインターホンモードで鳴った。わたしは既に相手が誰か判っていながら、ちゃんと誰何する。手抜きをすると、防犯上どうとかアオイが怒るのだ。
「誰かね?」
「親衛隊長アオイよ、魔王様」
「入ってくれ。」
わたしはアオイを司令室に招き入れた。アオイは敬礼をして来るので、わたしも答礼を返す。と、アオイが怪訝そうな顔で語り掛けて来た。
「魔王様、どうしたの? 少しイライラしてない?」
「あー、うん。よく分かったね。うん、ちょっと世界地図を見てたら、『リューム・ナアド神聖国』に目が行ってね。少しムカついたんだ。」
「わたしも良くある……。」
「少し早いけど、お茶にしようか。イライラしている時には、甘い物でも食べるに限る。」
頷いたアオイが、早速お茶を淹れる準備を始める。わたしも冷蔵庫から、果物……ミカンに似た、この『世界』の果物を使ったゼリーを取り出した。アオイが嬉しそうな顔になる。
その顔を見遣りつつ、わたしは思う。明後日には、創っておいた仮面をプレゼントしよう。まず間違いなく、アオイは喜んでくれるだろう。裏表なしに、心から。
……胸が、痛かった。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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