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第59話 勇者対魔王
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『わたし』は草原の真ん中で、大岩を削った椅子に腰掛けて、勇者一行を待っていた。やがて草原の彼方から、目的の4人組が姿を現す。もう向こうからも、こちらの存在が判別できるはずだ。
勇者一行は、ゴーレムの群れを警戒し、歩みを緩める。遠距離から魔法でも叩き込もうと言う気なのかもしれない。『わたし』は『マグニファイ・ボイス』の魔法を用い、彼女らに声を届けた。
『ああ、よく来た。勇者ミズホの一行よ。遠慮することはない、近くに寄るが良い。おお、ゴーレムどもが目障りか?ならば後ろに下げさせても構わぬ』
その言葉と共に、マッドゴーレム、クレイゴーレムは『わたし』の座している椅子の後ろへ下がる。勇者一行は戸惑った様に顔を見合わせるが、先頭に立つ勇者ミズホ本人が意を決して前へと進んだ。残り3人も、やむなく後を追う。
『わたし』の前までやって来た勇者ミズホに、『わたし』は可能な限り柔らかい声音で話しかけた。
「よく来た、勇者ミズホよ。我が魔王ブレイド・JOKERである。以後、見知り置け」
「お、お前が……。魔王?な、なんでこんなところに……」
「ふ、我を『お前』呼ばわりか。くくく、まあそれは赦そう。ここに来たのは、お前たち、いやお前を出迎えるためだ。
しかし『お前』呼ばわりは赦すが、此度の不法入国、並びに警備の不死怪物他を攻撃し滅したことについては、どう言う了見か?国際問題になりかねぬぞ?」
「な……!」
ここで魔道士エセルバートが口を挟む。
「ミズホ、敵の戯言を聞いてはなりませ……。」
「黙れ下郎が!! 今我は勇者と話をしておる!! 下がりおろう!!」
「!」
怒気を込めた『わたし』の一喝に、魔道士エセルバートの顔は恐怖に引き攣った。彼はおそらく自身で意図せずに、一歩下がる。
「さて勇者よ、返答はいかに?」
「え、あ、だ、だってお前が先に、人間族や森妖精族、土妖精族たちに攻撃を仕掛けてきた……」
「おや、我が戦端を開いておるのは、今のところアーカル大陸の諸国家とだけであるのだがな。勇者よ、お前が召喚された国である『リューム・ナアド神聖国』には、未だ宣戦を布告してもおらぬぞ?」
「だ、だけど粘菌や、銀牙獅子に黄金虎なんかの魔獣が、人々に危害を加えて……!」
勇者ミズホの言葉に、『わたし』は笑いを漏らした。
「くくく、それは先代の魔王ゾーラムに責任がある。先代魔王はただただ無目的に無差別に破壊を繰り広げていたからの。粘菌や獣どもをコンザウ大陸に連れて行って放してしまったのだ。実のところ、粘菌や獣どもは、我が制御下には無い。ただ勝手に暴れているだけなのだよ。
ああ、それとな。獣どもを魔獣と呼ぶでない。魔獣と言うのは、一定の知能、知恵がある者だけを呼ぶ。獣を魔獣と呼んでは、魔獣たちが烈火の如く怒るぞ。
繰り返して言うが、我は未だコンザウ大陸の諸国家には手を出しておらぬ。それに我が魔王の座を継いで以来、コンザウ大陸からは我が制御下にある魔物どもを撤退させてもいる。今はまだ、コンザウ大陸の諸国家と事を構えるつもりは無いのだ」
「今は……まだ?」
「うむ。コンザウ大陸の諸国家、特に『リューム・ナアド神聖国』のやり様は、目に余る。貧困、治安の悪化、高い税金、作物の不作に至るまで、ありとあらゆる国内問題の責任を、魔王である我と我が部下である魔物たちに押し付けておる。いくら何でも、面の皮が厚いにも程があるわ。
その上、『リューム・ナアド神聖国』の目に余るところは、それだけでは無いしの。と言うか、今はまだ触れぬが、こちらの方が腹立たしい。それが改められねば、いつか攻めざるを得まい、と考えてはおる」
『わたし』は苛立たし気な様子を見せつつ、しかし理性的に勇者ミズホに語り掛ける。勇者ミズホは目を白黒させた。『わたし』は怒気を収めて、言葉を続ける。
「それに一般の民も、我が国に支配された方が安楽に暮らせるであろうて。このバルゾラ大陸……。お前たちの言うバルキーゾ魔大陸を旅している間、見なんだか?各地に敷かれた鉄道を。各地へ物資を運ぶ自動車の群れを。各地に建てられた工場群を。広大かつ豊かな農場を。魔物たちが生き生きと過ごして居る街々を。
税金も安い。医療は充実しておる。商業は活発だ。上水道は清潔な水を供給し、下水道は汚水を滞りなく処理場へと運ぶ。各家庭にはガス、電気が供給され、暮らしは豊かだ。教育を受けている者の数も、どんどん増加しておる。我が魔王を継いで以来、一生懸命行って来た改革の成果よ。」
勇者ミズホは、だが『わたし』の言葉に反発する。
「だ、だけど! そんな事しなくたって! 戦争をしかけなくったって!」
「我が人類の諸国家に、科学技術の恩恵を分け与えれば、戦無しで一般の民草も幸せに暮らせる、と言うのか?」
「そう! そうだよ!」
「……甘い!!」
『わたし』の叫びに、勇者ミズホは眼を見開く。
「我が配下の魔物たちが安寧を享受できておるのは、科学技術的優位あればこそよ。うかつに技術を流出させてしまえば、人類種族国家はそれを兵器転用し、こちらを攻めてくること必定。そうなれば、先代魔王の時代と同じよ。滅ぼすか滅ぼされるかの最終戦争しか道は無くなるであろうて。
個々の人類種族は信じても良いやも知れぬ。それ故、攻め落とし併合したアーカル大陸の大部分においては、人類種族の民にも科学技術の恩恵を分け与えておるわ。なれど……。なれど、『人類国家』は、信ずるに値せぬ!」
「……!!」
それまでの憤った声音を抑え、徐に『わたし』は、勇者ミズホへと優しく声を掛けた。
「お前とて、そうではないか? 勇者ミズホよ。本来自分たちで片を付けるべきこの世界の問題であるのに、誘拐まがいの方法で他の世界より勇者の美名の元に呼びこまれ、無理矢理に戦いに放り込まれる。
納得したのか? 納得できるのか? 元の世界に帰るために仕方ないと、そう無理矢理に自分を納得させてはいないのか?」
「そ、それは……。」
その時、戦士ジャンがいきなり剣の鯉口を切って、『わたし』に斬りかかる。わたしは余裕を持って『空間歪曲庫』の術法を用い、この時のために用意しておいた片手半剣と大盾を取り出して、剣でその斬撃を受けた。魔道士エセルバート、司祭ディンクが口々に言葉を発する。
「世迷言を聞いてはなりません、ミズホ」
「何を言おうと、魔王が世界の脅威であるのは違いありません!」
「……残念だ。平和的な話し合いで済めばと思っておったが」
そして『わたし』と勇者一行は、戦闘を開始した。
やはり、手を抜いている。戦士ジャンも、魔道士エセルバートも、司祭ディンクも、勇者ミズホに負担がかかる様な戦い方をしている。何合か剣を合わせた時点で、『わたし』は確信した。マッドゴーレムやクレイゴーレムは最早1体も残ってはいないが、それらを倒したのも勇者ミズホである。
魔道士エセルバートが淡々と言う。
「ミズホ、聖剣技をお使いなさい」
「俺が隙を作る!」
戦士ジャンはそう言うが、結局は彼の攻撃は牽制以上にはなっていない。だが『わたし』はあえて隙を見せた。勇者ミズホは先の問答で、動きに迷いが見える。だが流石にその隙を見逃すことは無かった様だ。彼女は聖剣技のキーワードを叫ぶ。
「シャイニング・スラッシュ!!」
振り下ろされた聖剣から、光の斬撃が『わたし』に向かって飛ぶ。避けることは……できなくも無い。だがあえて『わたし』は避けずに、大盾でそれを受けた。
「へっ、どんな盾だってその聖剣技にゃ……。な、何いぃっ!?」
戦士ジャンは驚き叫ぶ。聖剣から放たれた光の斬撃は、大盾の表面の鏡面仕上げに反射され、司祭ディンクに向かったのだ。司祭ディンクは必死で自らの周囲に魔法結界を張る。
「せ、聖なる光よ! 我が盾となり我に仇なす物を阻みたまえ!」
「ディンク!!」
「甘い、甘いぞ!我が、勇者の光の技への対抗策を、編み出しておらぬと思うたか!」
司祭ディンクは、かろうじて防御が間に合い、大ダメージを負ったが生き延びている。神官であるが故、元から光属性の攻撃に対しては耐性が高かったのもあるだろう。しかし魔法の無詠唱での行使ができないくせに、早口言葉は得意な様だ。よく防御魔法の結界が間に合ったものだ。
まあ、最初から殺すつもりは無かったのだが。こいつらの首印は、『わたし』が取るわけにはいかない。だからこそ、光属性に対する耐性が高いであろう司祭ディンクを狙ったのだ。
「く……。爆炎よ矢となれ。更に集いて極大の槍と化せ。そして我が敵を貫け」
「む!?」
どうやら少しは本気を出すつもりらしい。今のままでは……。勇者ミズホのみに負担を押し付ける形では、『わたし』は倒せないと踏んだか。『マキシマム・フレイム・ランス』の魔法が発動し、『わたし』の右足を撃つ。ちょっと焦げた程度だったが、そろそろ頃合いかと思い、『わたし』は大げさに脚を引き摺ってみせる。
「く、この様な力を隠しておったか!? 何故に今頃!?」
「今です、ミズホ!」
司祭ディンクの声が響く。勇者ミズホは聖剣を構え、『わたし』の胸元に飛び込んで来た。
「や、やああぁぁっ!!」
「ぐああぁぁっ!?」
胸の中で、光の力が弾ける。聖剣から溢れた光の力が『わたし』の身体を分解して行く。『わたし』はその場に剣と盾とを突き立て、頽れる。シュウシュウと音を立てて、『わたし』の身体は消滅していった。
勇者ミズホは聖剣を手放し、半ば茫然としている。『わたし』は消滅する寸前、勇者ミズホに囁いた。
「……いいか、眼を閉じてはいけない。しっかりと見定めるんだ。いいね?」
「え?」
そして『わたし』は消滅した。
勇者一行は、ゴーレムの群れを警戒し、歩みを緩める。遠距離から魔法でも叩き込もうと言う気なのかもしれない。『わたし』は『マグニファイ・ボイス』の魔法を用い、彼女らに声を届けた。
『ああ、よく来た。勇者ミズホの一行よ。遠慮することはない、近くに寄るが良い。おお、ゴーレムどもが目障りか?ならば後ろに下げさせても構わぬ』
その言葉と共に、マッドゴーレム、クレイゴーレムは『わたし』の座している椅子の後ろへ下がる。勇者一行は戸惑った様に顔を見合わせるが、先頭に立つ勇者ミズホ本人が意を決して前へと進んだ。残り3人も、やむなく後を追う。
『わたし』の前までやって来た勇者ミズホに、『わたし』は可能な限り柔らかい声音で話しかけた。
「よく来た、勇者ミズホよ。我が魔王ブレイド・JOKERである。以後、見知り置け」
「お、お前が……。魔王?な、なんでこんなところに……」
「ふ、我を『お前』呼ばわりか。くくく、まあそれは赦そう。ここに来たのは、お前たち、いやお前を出迎えるためだ。
しかし『お前』呼ばわりは赦すが、此度の不法入国、並びに警備の不死怪物他を攻撃し滅したことについては、どう言う了見か?国際問題になりかねぬぞ?」
「な……!」
ここで魔道士エセルバートが口を挟む。
「ミズホ、敵の戯言を聞いてはなりませ……。」
「黙れ下郎が!! 今我は勇者と話をしておる!! 下がりおろう!!」
「!」
怒気を込めた『わたし』の一喝に、魔道士エセルバートの顔は恐怖に引き攣った。彼はおそらく自身で意図せずに、一歩下がる。
「さて勇者よ、返答はいかに?」
「え、あ、だ、だってお前が先に、人間族や森妖精族、土妖精族たちに攻撃を仕掛けてきた……」
「おや、我が戦端を開いておるのは、今のところアーカル大陸の諸国家とだけであるのだがな。勇者よ、お前が召喚された国である『リューム・ナアド神聖国』には、未だ宣戦を布告してもおらぬぞ?」
「だ、だけど粘菌や、銀牙獅子に黄金虎なんかの魔獣が、人々に危害を加えて……!」
勇者ミズホの言葉に、『わたし』は笑いを漏らした。
「くくく、それは先代の魔王ゾーラムに責任がある。先代魔王はただただ無目的に無差別に破壊を繰り広げていたからの。粘菌や獣どもをコンザウ大陸に連れて行って放してしまったのだ。実のところ、粘菌や獣どもは、我が制御下には無い。ただ勝手に暴れているだけなのだよ。
ああ、それとな。獣どもを魔獣と呼ぶでない。魔獣と言うのは、一定の知能、知恵がある者だけを呼ぶ。獣を魔獣と呼んでは、魔獣たちが烈火の如く怒るぞ。
繰り返して言うが、我は未だコンザウ大陸の諸国家には手を出しておらぬ。それに我が魔王の座を継いで以来、コンザウ大陸からは我が制御下にある魔物どもを撤退させてもいる。今はまだ、コンザウ大陸の諸国家と事を構えるつもりは無いのだ」
「今は……まだ?」
「うむ。コンザウ大陸の諸国家、特に『リューム・ナアド神聖国』のやり様は、目に余る。貧困、治安の悪化、高い税金、作物の不作に至るまで、ありとあらゆる国内問題の責任を、魔王である我と我が部下である魔物たちに押し付けておる。いくら何でも、面の皮が厚いにも程があるわ。
その上、『リューム・ナアド神聖国』の目に余るところは、それだけでは無いしの。と言うか、今はまだ触れぬが、こちらの方が腹立たしい。それが改められねば、いつか攻めざるを得まい、と考えてはおる」
『わたし』は苛立たし気な様子を見せつつ、しかし理性的に勇者ミズホに語り掛ける。勇者ミズホは目を白黒させた。『わたし』は怒気を収めて、言葉を続ける。
「それに一般の民も、我が国に支配された方が安楽に暮らせるであろうて。このバルゾラ大陸……。お前たちの言うバルキーゾ魔大陸を旅している間、見なんだか?各地に敷かれた鉄道を。各地へ物資を運ぶ自動車の群れを。各地に建てられた工場群を。広大かつ豊かな農場を。魔物たちが生き生きと過ごして居る街々を。
税金も安い。医療は充実しておる。商業は活発だ。上水道は清潔な水を供給し、下水道は汚水を滞りなく処理場へと運ぶ。各家庭にはガス、電気が供給され、暮らしは豊かだ。教育を受けている者の数も、どんどん増加しておる。我が魔王を継いで以来、一生懸命行って来た改革の成果よ。」
勇者ミズホは、だが『わたし』の言葉に反発する。
「だ、だけど! そんな事しなくたって! 戦争をしかけなくったって!」
「我が人類の諸国家に、科学技術の恩恵を分け与えれば、戦無しで一般の民草も幸せに暮らせる、と言うのか?」
「そう! そうだよ!」
「……甘い!!」
『わたし』の叫びに、勇者ミズホは眼を見開く。
「我が配下の魔物たちが安寧を享受できておるのは、科学技術的優位あればこそよ。うかつに技術を流出させてしまえば、人類種族国家はそれを兵器転用し、こちらを攻めてくること必定。そうなれば、先代魔王の時代と同じよ。滅ぼすか滅ぼされるかの最終戦争しか道は無くなるであろうて。
個々の人類種族は信じても良いやも知れぬ。それ故、攻め落とし併合したアーカル大陸の大部分においては、人類種族の民にも科学技術の恩恵を分け与えておるわ。なれど……。なれど、『人類国家』は、信ずるに値せぬ!」
「……!!」
それまでの憤った声音を抑え、徐に『わたし』は、勇者ミズホへと優しく声を掛けた。
「お前とて、そうではないか? 勇者ミズホよ。本来自分たちで片を付けるべきこの世界の問題であるのに、誘拐まがいの方法で他の世界より勇者の美名の元に呼びこまれ、無理矢理に戦いに放り込まれる。
納得したのか? 納得できるのか? 元の世界に帰るために仕方ないと、そう無理矢理に自分を納得させてはいないのか?」
「そ、それは……。」
その時、戦士ジャンがいきなり剣の鯉口を切って、『わたし』に斬りかかる。わたしは余裕を持って『空間歪曲庫』の術法を用い、この時のために用意しておいた片手半剣と大盾を取り出して、剣でその斬撃を受けた。魔道士エセルバート、司祭ディンクが口々に言葉を発する。
「世迷言を聞いてはなりません、ミズホ」
「何を言おうと、魔王が世界の脅威であるのは違いありません!」
「……残念だ。平和的な話し合いで済めばと思っておったが」
そして『わたし』と勇者一行は、戦闘を開始した。
やはり、手を抜いている。戦士ジャンも、魔道士エセルバートも、司祭ディンクも、勇者ミズホに負担がかかる様な戦い方をしている。何合か剣を合わせた時点で、『わたし』は確信した。マッドゴーレムやクレイゴーレムは最早1体も残ってはいないが、それらを倒したのも勇者ミズホである。
魔道士エセルバートが淡々と言う。
「ミズホ、聖剣技をお使いなさい」
「俺が隙を作る!」
戦士ジャンはそう言うが、結局は彼の攻撃は牽制以上にはなっていない。だが『わたし』はあえて隙を見せた。勇者ミズホは先の問答で、動きに迷いが見える。だが流石にその隙を見逃すことは無かった様だ。彼女は聖剣技のキーワードを叫ぶ。
「シャイニング・スラッシュ!!」
振り下ろされた聖剣から、光の斬撃が『わたし』に向かって飛ぶ。避けることは……できなくも無い。だがあえて『わたし』は避けずに、大盾でそれを受けた。
「へっ、どんな盾だってその聖剣技にゃ……。な、何いぃっ!?」
戦士ジャンは驚き叫ぶ。聖剣から放たれた光の斬撃は、大盾の表面の鏡面仕上げに反射され、司祭ディンクに向かったのだ。司祭ディンクは必死で自らの周囲に魔法結界を張る。
「せ、聖なる光よ! 我が盾となり我に仇なす物を阻みたまえ!」
「ディンク!!」
「甘い、甘いぞ!我が、勇者の光の技への対抗策を、編み出しておらぬと思うたか!」
司祭ディンクは、かろうじて防御が間に合い、大ダメージを負ったが生き延びている。神官であるが故、元から光属性の攻撃に対しては耐性が高かったのもあるだろう。しかし魔法の無詠唱での行使ができないくせに、早口言葉は得意な様だ。よく防御魔法の結界が間に合ったものだ。
まあ、最初から殺すつもりは無かったのだが。こいつらの首印は、『わたし』が取るわけにはいかない。だからこそ、光属性に対する耐性が高いであろう司祭ディンクを狙ったのだ。
「く……。爆炎よ矢となれ。更に集いて極大の槍と化せ。そして我が敵を貫け」
「む!?」
どうやら少しは本気を出すつもりらしい。今のままでは……。勇者ミズホのみに負担を押し付ける形では、『わたし』は倒せないと踏んだか。『マキシマム・フレイム・ランス』の魔法が発動し、『わたし』の右足を撃つ。ちょっと焦げた程度だったが、そろそろ頃合いかと思い、『わたし』は大げさに脚を引き摺ってみせる。
「く、この様な力を隠しておったか!? 何故に今頃!?」
「今です、ミズホ!」
司祭ディンクの声が響く。勇者ミズホは聖剣を構え、『わたし』の胸元に飛び込んで来た。
「や、やああぁぁっ!!」
「ぐああぁぁっ!?」
胸の中で、光の力が弾ける。聖剣から溢れた光の力が『わたし』の身体を分解して行く。『わたし』はその場に剣と盾とを突き立て、頽れる。シュウシュウと音を立てて、『わたし』の身体は消滅していった。
勇者ミズホは聖剣を手放し、半ば茫然としている。『わたし』は消滅する寸前、勇者ミズホに囁いた。
「……いいか、眼を閉じてはいけない。しっかりと見定めるんだ。いいね?」
「え?」
そして『わたし』は消滅した。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
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