召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第76話 魔王様、今更ながら魔王について想う

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 わたしは幻像に映し出された、かしこまる巨人ジャイアント族のおさ、カカに向かって問いかけた。

「どうかな? 貴公の眼鏡に、我は適ったであろうかな? くくく……」

 少々意地の悪い問いだったかも知れない。カカは、ちょっと頬を引き攣らせる。

『は、いえ……。その……。ご無礼の段、本当に申し訳なく……。どうかこの償いは、我が首ひとつで済ませていただけないでしょうか。我が種族の者たちには、どうか寛大な……』

「良いのだ。気にするな。貴公らヴァルトーリオ列島の巨人ジャイアント族すべてが、そなたの双肩にかかっておるのだからな。増してや先代魔王ゾーラムが、ナニと言ってはアレだが、あんなのであったからな。不安に思うのも、分からんでも無いのだ」

『は、ははっ! ありがたきお言葉……!!』

「だがそれはそれとして、やはり聞いてみたい物だ。我は為政者として、貴公らの眼にはどう映っておるのか、とな」

 カカは少々口籠るが、やがて話し始めた。

『ご無礼ではございますが、当初それがしは今代の魔王様に、さほど期待してはおりませなんだ。先代の魔王様だけでなく、歴史資料に語られる歴代魔王様もまた、その……。先代様ほどではないにせよ……。
 ですがそれがしは……。義体を操ったそれがしは、ヴァルトーリオ列島よりガウルグルク様がいらっしゃるアーカル大陸のヴェード基地へ赴く旅の途中で、様々な物を目にいたしました。自動車、鉄道、工場、区画整理された農場、街頭ラジオ……』

「む……」

『愕然といたしました。いえ、高度な技術だけではございませぬ。そこかしこで、魔物たちが明るい笑顔を浮かべている。先代魔王の時代、ヴァルトーリオ列島にも若干の魔王軍が襲いかかって来た事がございます。飢えて、殺し喰らう事しか考えておらなんだ、そやつら……。
 そやつらとは、それがしが見た魔物たちは明らかに違っておりました。規律正しく、乱暴は働かず。それどころか魔王軍軍警察の者たちなどは人類種族の民衆の訴えによって、犯罪者を取り締まったり。あろうことか、大犬妖ノールの軍警察警官が、迷子の土妖精ドワーフ族の子供をあやしながら親を探してやっているではありませぬか』

 あー、うん。苦労はしたんだ。苦労は。そして豚鬼オークとか人食い鬼オーガーとか、飼い殺しにするしか出来てない種族もいるし。

「うむ。まあ、そこまで規律を徹底させるのは苦労したがな。いまだ改革に乗り遅れて、表に出せぬ種族の者も多い。あまり買い被るでない」

『いえ、あそこまでするだけでも並大抵の手腕ではございませぬ。何よりも! 今代の魔王様は、臣民の事をきちんと考えてくださっている!』

 いや、そりゃそうだろ。先代の魔王の様に、占領地から富を収奪するだけ収奪したって、占領地が枯れてしまうだけだろうさ。本当に世界を制覇し征服するならば、民衆に対する責任てものがあるだろ。権利は責任や義務と表裏一体。

 仮に人類種族を滅ぼして、魔物による世界を構築するにしたってだ。それならそれで、きちんと入植させてやって、きちんとその土地を魔物の物にしなくては意味が無い。やるとするならば、犬妖コボルドあたり入植させて数が圧倒的に増えるのを待たないと駄目だ。

 なのに先代魔王ゾーラムは、ただ攻めてその土地を蹂躙し、収奪するだけ。兵である魔物たちもただ暴れさせるだけで、規律の『き』の字も見られない。更に言えば、損害が出ても気にもしない。それでは意味が無い。先代魔王、それが解っていなかったのか、あるいは……。先代魔王は……。

『更にアーカル大陸ヴェード基地から、ここバルゾラ大陸の本部基地への旅の途上、それがしはずっと考えておりました。今代の魔王様であらば、巨人ジャイアント族の未来を託すに相応しいのでは、と』

「……そうか」

『魔王様! ご無礼の段は幾重にもお詫び申し上げまする! どうか、我らヴァルトーリオ列島の巨人ジャイアント族をお導きくだされ!』

 幻像のカカは、地べたに額をこすり付ける。『千里眼』で『』ているので、はるかヴァルトーリオ列島にいる現実のカカも、土下座をしているのがわたしには分かった。ふう、やれやれ。

「良いだろう。ヴァルトーリオ列島巨人ジャイアント族のおさカカ。その願い、聞き届けよう。ただし、たくさん……本当にたくさん、働いてもらうぞ?巨人ジャイアント族全員に、だ。権利と義務や責任は、表裏一体である。
 ヴァルトーリオ列島全域を調査し、開発計画を立てる様にガウルグルクに命じる。お前と巨人ジャイアント族はガウルグルクに協力するのだ。様々な科学製品の普及による民衆の生活水準向上や、道路や鉄道や港湾などの各種インフラ整備、農場や工業地帯の整備など、やるべき事は限りなく多いぞ?」

『は、ははあっ!』

「それと、な。一度は挨拶に来い。傀儡くぐつ人形ではなく、本体でな。そのときは、迎えの船を回してやる。ガウルグルクを通して、連絡せい」

『はっ! 必ずや!』

 こうして、巨人ジャイアント族のおさカカとの謁見は終了した。



 そして今日も今日とて、わたしは司令室で残業の日々だ。アオイとミズホも付き合ってくれている。

「ガウルグルクからの報告書だな。ふうん、巨人ジャイアント族が何名か、『パペット』の魔法使って傀儡くぐつ人形に入って、ヴァルトーリオ列島の開発計画に参画してるのか。
 ふむふむ。そいつらにも睡眠学習か、あるいは魔法で知識を転写する必要があるなあ。そして実務経験を積ませれば、列島の統治は巨人ジャイアント族に任せててもいいんじゃないかな。アーカル大陸のヴェード基地の支配下に置くよりも、ああ言った飛び地的な領地は独自に政庁を置いた方がいいだろ」

「魔王様。巨人ジャイアント族の中でもあまり頭良くないのは?大地の巨人アース・ジャイアントとか氷の巨人アイス・ジャイアントとか。氷の巨人アイス・ジャイアントの近縁種の霜の巨人フロスト・ジャイアントは、頭良いみたいだけど。」

大地アースアイスファイアヒルマウンテンなどの巨人ジャイアント族の事ですね?」

 アオイの問い掛けに、ミズホが補足を入れる。わたしは笑って答えた。

「ははは。彼らは知性が低いとは言っても、スカイウィンドウォーターフロストなどには及ばないってぐらいで、並か悪くてちょっと下の人間種族ほどはあるからね。教えれば分かる。
 彼らには、軍事や土木工事で活躍してもらう事を考えてるよ。それより……」

 わたしは世界地図を広げる。そしてコンザウ大陸の北東にある2つの島を指差した。

「この2つの島……。大きい方がデア・ナルクル島で小さい方がリオ・ナルクル島だけど、これらの島にもかつて巨人ジャイアント族が棲んでいたって記録があるんだ。もしかしたら、ここら辺にも居るかもしれないね。隠れ棲んでいる巨人ジャイアント族が」

「「なるほど……」」

 そう言いつつも、わたしの視線はふと、その2つの島よりもずっと南に描かれている小さな島を見つめていた。この島の名は、バルザンズ島。かつてこの島には、魔族の中でも特に魔力が高く、なおかつ身体能力も巨鬼トロール族に匹敵すると言われる悪魔デモン族が居住していたと記録には残っている。

 だが1,000年以上前に、この島は人類種族に征服され、悪魔デモン族は根絶やしにされたらしい。しかし今なお悪魔デモン族は、時折一般の魔族の中から突然変異的に、あるいは先祖返り的なのかも知れないが、思い出した様に出現する。

 しかもそうやって生まれた個体は、特に魔力や身体能力が高い。異常なレベルで。……そう、魔王と呼ばれる存在の半ばは、突然変異的に出現した悪魔デモン族なのだ。ま、例外は数多いが。わたしも例外の1人だし、例外中の例外としては『人間族の魔王』なんてのも700年前に居たと聞く。

 だが先代魔王のゾーラムは、アレは悪魔デモン族であったらしいがね。

「……魔王って、何なんだろ」

「「え?」」

「ああ、いや。何でもないよ。仕事を続けよう」

 とりあえず、今は仕事が大事。だけどこの事は忘れないで、後々考えて置こう。
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