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第75話 巨人族の長
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巨人族の長カカは、義体の顔面に滝の様に汗を流していた。平伏しているその場の床に、ぽたぽたと汗の滴が落ちる。……いくらなんでも、汗の量が多過ぎないか?
と、床に落ちた汗から蒸気が沸き上がり、その蒸気をスクリーンにして『イージー・イリュージョン』の魔法が発動する。この魔法は幻を映し出す術の中では比較的難易度が低く、別種の魔法を維持しながらでも、超長距離であっても行使する事が可能だ。
そう、『パペット』の魔法を維持しつつ、その『パペット』で操っている義体を媒介に、はるか遠くヴァルトーリオ列島の様子を映し出す事も可能なのだ。もっとも、映像を映し出すスクリーンになる物が必要だと言う制限はあるのだが……。
蒸気のスクリーンに映し出されたのは、巨大な人影の上半身だった。うん、さっき『千里眼』で『視』た巨人族の長であるカカの姿だね。映像のカカは、徐に頭を下げる。
『大変失礼をば致しました。某は、ヴァルトーリオ列島に住まう巨人族の長、空の巨人のカカにござりまする。ご無礼の段、平に……。』
「空の巨人、か。たしか巨人族の中でも魔力に恵まれ、魔法に長け、極めて賢いと言われる種族だったな。此度は何故にこの様な仕儀に相成った?」
『はっ。こういう事を申し上げるのは、大変失礼かと存じまするが……。今代の魔王様を見極めたかったのでございます。』
ほう……。わたしを見極める、ねえ。
『言いたくはありませぬが、先代の魔王様は……。その……。到底我ら巨人族の未来を託すに足りるお方ではございませなんだ。』
「くくく、なるほどの。なれば我を見定めたいと思うても、仕方あるまいのう。慎重かと思えば、かなり大胆なところもあるのだな。
ヴァルトーリオ列島は巨人族が棲まう場所である、と言う噂はよく聞かれる。と言うか、100年前までは実際に住んでいた事がはっきりしておる。なれど今現在のヴァルトーリオ列島では、その姿は見られなくなり、列島の巨人族は滅びたと思われていた……。」
そしてわたしは溜息を吐く。
「ふう……。なれど実際にはこうやって生き残っていた。そして『パペット』の魔法を用いて人間に扮し、表面上『ヴァルタール帝国』の支配下に入って辺境伯ジェレマイア・ダード・ハトルストーンとその家臣団として、ヴァルトーリオ列島を支配し続けていたわけか。」
『!?』
わたしは心の中で、ニヤリと笑う。あくまで憶測でしか無かったが、それは見事に的中していた様だ。巨人族の長である空の巨人カカは、驚愕の表情をその顔面に貼り付けていた。
うん、ヴァルトーリオ列島に巨人族が棲んでいたのは、魔王召喚魔法陣によって与えられたこの世界の知識にあった。先代魔王ゾーラムの時代には、既に滅びたとされてはいたんだがね。
でもって、ヴァルトーリオ列島を我々が攻めたときに辺境伯ジェレマイア・ダード・ハトルストーンおよび家臣団が討ち死にしたとき、彼らは全員死体が残らない死に方をした。1人の例外も無しに、だ。まるで死体を調べられては困る、とでも言いたげな感じだったな。
そしてガウルグルクの話では、民の代表としてやって来たバートランド・コルボーン氏には実在感が薄かったと言う。それから考えられるのは、ちょっと突飛な思いつきではあるが、『パペット』の魔法を使った傀儡人形だ。それを前提にして考えれば、ハトルストーン辺境伯と家臣団が死体を残さず死んだと言うのも怪しくなって来る。
仮にハトルストーン辺境伯と家臣団が『パペット』の魔法による傀儡人形であり、それを発覚させないため、死ぬ際に死体が残らぬ様にしたとあれば? 無論普通考えるならば、死を装ってハトルストーン辺境伯と家臣団が今も生きていると言う可能性の方があり得そうだ。だが、それは戦後魔王軍による徹底した捜査により、あり得ないとまでは言わないが、どうやら無さそうであった。
そしてヴァルトーリオ列島の支配者たちが傀儡人形だったとして、その裏に居る者は誰だ?人間族では、あり得ない。森妖精族の魔道士でも、四六時中『パペット』の魔法を維持するにはつらい物がある。いや、魔力量的にはともかく、体力的に。それに人類種族であったなら、『パペット』の魔法で姿をたばかる必要性も薄いと言う物。
となると、人間種族以外でヴァルトーリオ列島の居住者であり、更には魔力も高く高知能で体力も……。そうなると、選択肢はほとんど無くなってしまうのだ。過去に居た、そして本当に滅びたかどうか定かでない巨人族を除いては、ね。
なのでカマかけの意味も込めて、問い詰めるつもりで憶測をさも確定事項の様に口にしてみたのだが……。この驚き様、間違いなさそうだな。
『そこまでお分かりでございましたか……。その通りでございます。我ら巨人族は100年前、人類種族優勢のこの世界で生きていくため、辺境であるヴァルトーリオ列島の更に辺地へ身を隠しておりました。そして『パペット』の魔法で操った傀儡を列島の人類種族集落へ送り込み、圧倒的な力を見せて指導者の地位を得たのでございます。』
「なるほど。我らが征服した『ヴァルタール帝国』の歴史資料によれば、列島の領有宣言は50年前であった。たしか先々代の魔王ボルガンドが、『リューム・ナアド神聖国』の召喚した勇者アーヴァインと相打ちになった……と言う事になっておるが、それの直後であったな。」
まあ、『リューム・ナアド神聖国』の事だからなあ。相打ちってのも、怪しいもんだが。アオイの時みたいに、魔王を倒したばかりの疲れ果てた勇者を闇討ちしたんじゃないか、と疑ってるんだよね、わたしは。
映像のカカは頷き、言葉を続ける。
『はっ。当時先代の長であった、風の巨人ゼゼより地位を受け継いだばかりであった某が、傀儡を介して『ヴァルタール帝国』と交渉いたしました。辺境伯として形ばかり支配下に入る事で、自治を認めろと。
そうして我々は、ヴァルトーリオ列島の指導者と言う立場をもって列島を開拓し、しかしながら決して我々巨人族が隠れ棲む地域へ人類種族が立ち入らぬ様、色々理由をつけて調整しておったのでございますれば。』
「なるほど、その後先代魔王ゾーラムが出現したわけだな。ふむ……3代前の魔王ガラウクスから先々代魔王のボルガンドまで200年、ボルガンドからゾーラムまで40と数年か……。
それ以前の魔王は、記録では100年から200年は間が空いていたはずだ……。まあ、自称魔王みたいなのは時折湧いて出たみたいだが、きちんと人類種族領域にまで魔王と認められたのはまず無い……。なのにゾーラム出現の時点で、正式な魔王の出現間隔がいきなり短くなっているが……。今まで気にしてもいなかったが。ふむう……。
……お? おお、まだ話が途中であったな。続けるが良い。」
『は、ははっ! 先代魔王様は、アーカル大陸とコンザウ大陸双方に同時攻撃をかけ、しかもその占領地より略奪、収奪するばかりか……。根拠地であるここバルキーゾ魔……いえバルゾラ大陸からも根こそぎ奪うばかりで。到底我々巨人族の未来を託すには……。その……。』
「うむ。まあ。言いたい事はよく分かるぞ。おかげで魔王軍と魔王領を立て直して『JOKER剣魔国』を建国するのに、どれだけ苦労させられたか……。本当に、どれだけ苦労させられたか!! なあ、アオイ。なあ、ザウエル。」
アオイとザウエルは、大きく頷く。わたしを含めてこの3人は、先代魔王が倒れた直後から必死に大量の書類と戦い、魔王領の……現在の『JOKER剣魔国』の軍備経済その他を立て直して来たのだ。その苦労は、並大抵の物では無かった。
いつもの仮面の隙間から覗くアオイの遠い目、そしてザウエルが一瞬見せた疲れ果てた目に、その苦労が理解できたのだろうか。カカは、同情する様な視線をわたしを含めた3名に送って来る。……あれ? わたしも虚ろな瞳でもしていたかな?
「……まあ、我らの事は良いとしよう。どうかな? 貴公の眼鏡に、我は適ったであろうかな? くくく……。」
そう言って、わたしは幻像に映し出されたカカを、しっかりと睨み付けた。
と、床に落ちた汗から蒸気が沸き上がり、その蒸気をスクリーンにして『イージー・イリュージョン』の魔法が発動する。この魔法は幻を映し出す術の中では比較的難易度が低く、別種の魔法を維持しながらでも、超長距離であっても行使する事が可能だ。
そう、『パペット』の魔法を維持しつつ、その『パペット』で操っている義体を媒介に、はるか遠くヴァルトーリオ列島の様子を映し出す事も可能なのだ。もっとも、映像を映し出すスクリーンになる物が必要だと言う制限はあるのだが……。
蒸気のスクリーンに映し出されたのは、巨大な人影の上半身だった。うん、さっき『千里眼』で『視』た巨人族の長であるカカの姿だね。映像のカカは、徐に頭を下げる。
『大変失礼をば致しました。某は、ヴァルトーリオ列島に住まう巨人族の長、空の巨人のカカにござりまする。ご無礼の段、平に……。』
「空の巨人、か。たしか巨人族の中でも魔力に恵まれ、魔法に長け、極めて賢いと言われる種族だったな。此度は何故にこの様な仕儀に相成った?」
『はっ。こういう事を申し上げるのは、大変失礼かと存じまするが……。今代の魔王様を見極めたかったのでございます。』
ほう……。わたしを見極める、ねえ。
『言いたくはありませぬが、先代の魔王様は……。その……。到底我ら巨人族の未来を託すに足りるお方ではございませなんだ。』
「くくく、なるほどの。なれば我を見定めたいと思うても、仕方あるまいのう。慎重かと思えば、かなり大胆なところもあるのだな。
ヴァルトーリオ列島は巨人族が棲まう場所である、と言う噂はよく聞かれる。と言うか、100年前までは実際に住んでいた事がはっきりしておる。なれど今現在のヴァルトーリオ列島では、その姿は見られなくなり、列島の巨人族は滅びたと思われていた……。」
そしてわたしは溜息を吐く。
「ふう……。なれど実際にはこうやって生き残っていた。そして『パペット』の魔法を用いて人間に扮し、表面上『ヴァルタール帝国』の支配下に入って辺境伯ジェレマイア・ダード・ハトルストーンとその家臣団として、ヴァルトーリオ列島を支配し続けていたわけか。」
『!?』
わたしは心の中で、ニヤリと笑う。あくまで憶測でしか無かったが、それは見事に的中していた様だ。巨人族の長である空の巨人カカは、驚愕の表情をその顔面に貼り付けていた。
うん、ヴァルトーリオ列島に巨人族が棲んでいたのは、魔王召喚魔法陣によって与えられたこの世界の知識にあった。先代魔王ゾーラムの時代には、既に滅びたとされてはいたんだがね。
でもって、ヴァルトーリオ列島を我々が攻めたときに辺境伯ジェレマイア・ダード・ハトルストーンおよび家臣団が討ち死にしたとき、彼らは全員死体が残らない死に方をした。1人の例外も無しに、だ。まるで死体を調べられては困る、とでも言いたげな感じだったな。
そしてガウルグルクの話では、民の代表としてやって来たバートランド・コルボーン氏には実在感が薄かったと言う。それから考えられるのは、ちょっと突飛な思いつきではあるが、『パペット』の魔法を使った傀儡人形だ。それを前提にして考えれば、ハトルストーン辺境伯と家臣団が死体を残さず死んだと言うのも怪しくなって来る。
仮にハトルストーン辺境伯と家臣団が『パペット』の魔法による傀儡人形であり、それを発覚させないため、死ぬ際に死体が残らぬ様にしたとあれば? 無論普通考えるならば、死を装ってハトルストーン辺境伯と家臣団が今も生きていると言う可能性の方があり得そうだ。だが、それは戦後魔王軍による徹底した捜査により、あり得ないとまでは言わないが、どうやら無さそうであった。
そしてヴァルトーリオ列島の支配者たちが傀儡人形だったとして、その裏に居る者は誰だ?人間族では、あり得ない。森妖精族の魔道士でも、四六時中『パペット』の魔法を維持するにはつらい物がある。いや、魔力量的にはともかく、体力的に。それに人類種族であったなら、『パペット』の魔法で姿をたばかる必要性も薄いと言う物。
となると、人間種族以外でヴァルトーリオ列島の居住者であり、更には魔力も高く高知能で体力も……。そうなると、選択肢はほとんど無くなってしまうのだ。過去に居た、そして本当に滅びたかどうか定かでない巨人族を除いては、ね。
なのでカマかけの意味も込めて、問い詰めるつもりで憶測をさも確定事項の様に口にしてみたのだが……。この驚き様、間違いなさそうだな。
『そこまでお分かりでございましたか……。その通りでございます。我ら巨人族は100年前、人類種族優勢のこの世界で生きていくため、辺境であるヴァルトーリオ列島の更に辺地へ身を隠しておりました。そして『パペット』の魔法で操った傀儡を列島の人類種族集落へ送り込み、圧倒的な力を見せて指導者の地位を得たのでございます。』
「なるほど。我らが征服した『ヴァルタール帝国』の歴史資料によれば、列島の領有宣言は50年前であった。たしか先々代の魔王ボルガンドが、『リューム・ナアド神聖国』の召喚した勇者アーヴァインと相打ちになった……と言う事になっておるが、それの直後であったな。」
まあ、『リューム・ナアド神聖国』の事だからなあ。相打ちってのも、怪しいもんだが。アオイの時みたいに、魔王を倒したばかりの疲れ果てた勇者を闇討ちしたんじゃないか、と疑ってるんだよね、わたしは。
映像のカカは頷き、言葉を続ける。
『はっ。当時先代の長であった、風の巨人ゼゼより地位を受け継いだばかりであった某が、傀儡を介して『ヴァルタール帝国』と交渉いたしました。辺境伯として形ばかり支配下に入る事で、自治を認めろと。
そうして我々は、ヴァルトーリオ列島の指導者と言う立場をもって列島を開拓し、しかしながら決して我々巨人族が隠れ棲む地域へ人類種族が立ち入らぬ様、色々理由をつけて調整しておったのでございますれば。』
「なるほど、その後先代魔王ゾーラムが出現したわけだな。ふむ……3代前の魔王ガラウクスから先々代魔王のボルガンドまで200年、ボルガンドからゾーラムまで40と数年か……。
それ以前の魔王は、記録では100年から200年は間が空いていたはずだ……。まあ、自称魔王みたいなのは時折湧いて出たみたいだが、きちんと人類種族領域にまで魔王と認められたのはまず無い……。なのにゾーラム出現の時点で、正式な魔王の出現間隔がいきなり短くなっているが……。今まで気にしてもいなかったが。ふむう……。
……お? おお、まだ話が途中であったな。続けるが良い。」
『は、ははっ! 先代魔王様は、アーカル大陸とコンザウ大陸双方に同時攻撃をかけ、しかもその占領地より略奪、収奪するばかりか……。根拠地であるここバルキーゾ魔……いえバルゾラ大陸からも根こそぎ奪うばかりで。到底我々巨人族の未来を託すには……。その……。』
「うむ。まあ。言いたい事はよく分かるぞ。おかげで魔王軍と魔王領を立て直して『JOKER剣魔国』を建国するのに、どれだけ苦労させられたか……。本当に、どれだけ苦労させられたか!! なあ、アオイ。なあ、ザウエル。」
アオイとザウエルは、大きく頷く。わたしを含めてこの3人は、先代魔王が倒れた直後から必死に大量の書類と戦い、魔王領の……現在の『JOKER剣魔国』の軍備経済その他を立て直して来たのだ。その苦労は、並大抵の物では無かった。
いつもの仮面の隙間から覗くアオイの遠い目、そしてザウエルが一瞬見せた疲れ果てた目に、その苦労が理解できたのだろうか。カカは、同情する様な視線をわたしを含めた3名に送って来る。……あれ? わたしも虚ろな瞳でもしていたかな?
「……まあ、我らの事は良いとしよう。どうかな? 貴公の眼鏡に、我は適ったであろうかな? くくく……。」
そう言って、わたしは幻像に映し出されたカカを、しっかりと睨み付けた。
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